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191話、続きが気になる映画と、学ぶ都市伝説

「私、メリーさん。今、あなたと映画を観たいと思っているの」


『そっちはもう、セッティング完了した感じ?』


「ええ。コーラも用意したし、あとは再生ボタンを押せばいつでも観られるわ」


『おっけー。こっちもポップコーンが弾け始めたから、もう少しで出来るよー』


 ハルの現状説明を知らせるように、台所方面から景気の良い弾ける音が、連続で鳴り出した。遠くから聞いてみても、結構大きな音がするわね。

 今日観る映画は、ハリーポルターシリーズの三作品目『ハリーポルターとアズバンカの囚人』。どうしても早く観たくて、平日に無理を言ってお願いしちゃったのよね。

 一作品目の『大賢者の石』で、非日常的かつ神秘的な世界観に引き込まれ。二作品目の『秘密の大部屋』で、一変した波乱万丈でダークな雰囲気に魅了されてしまった。

 流石は、ハルと会長さんを虜にした映画だ。料理は、まったくと言っていいほど出てこないけど、そんなのが気にならなくなるぐらい、ものすごく面白いのよ───。


「ん?」


 部屋内に漂って来た、香ばしいポップコーンの匂いに胸を躍らせている中。いきなりインターホンの甲高い音が鳴り、私の映画に向いていた意識を霧散させた。


『やべ、荷物今日来るんだった。メリーさん、対応してもらってもいい?』


「ああ、荷物が届いたのね。じゃあ行ってくるわ」


『ごめんねー、ありがとう。それと、決め台詞を言わないよう気を付けてね』


「安心しなさい。このまま、あんたとの通話を切らなければ大丈夫よ」


 そう。カメラ付きインターホンの受話器は、固定電話の受話器と酷似している。なので私は、コータロー君達がここへ来た時。

 ハルとの通話を切って対応してしまったので、体が新たな電話に出たと無意識に反応し、決め台詞を言いそうになった。

 しかし、今回は違う。まだハルとの通話を切っていないから、普通に『はい、春茜はるあかねです』と言えるはずよ。


 配送業者を待たせる訳にはいかないので、小走りで廊下へ向かう。電気を点けなくても大丈夫そうな薄暗さだし、そのままインターホンの前まで行き、受話器を取ってしまおう。


「はい、春茜です」


 よし! やっぱり、私の読みは合っていた。……逆に考えると、こうでもしない限り、私はインターホンで完璧な対応が出来ない事を意味するのよね。難儀な性だわ、ほんと。


『すみませーん、春茜さん宛のお荷物をお届けに参りましたー』


 白黒のモニターに浮かび上がっているのは、それなりに大きな段ボールを両手でしっかり持った、黒猫のマークが付いた帽子を被っている人物。

 うん、どうやら間違いなさそうだ。稀に、何かの業者を装った訪問販売や、見るからに怪しい人物が来るから、油断出来ないのよね。


「分かりました。今、オートロックを解除します」


 無難に返答した私は、モニターの横にある『解除』ボタンを押し。オートロックの鍵が解除されると、配送業者は一礼してマンションの中へ入り、モニターから姿を消した。


「どう? ハル。今の対応、完璧だったでしょ?」


『うん! 安心して任せられるぐらい、丁寧な対応だったよ。悪いけど、荷物も受け取ってくれる?』


「全然構わないわ。それじゃあ、通話を切るわね」


 念の為、ハルから対応の評価を聞き、通話を切った。安心して任せられるぐらい、丁寧な対応だった。些細なことだけど、ハルに褒められると嬉しくなっちゃうわね。


「ふふっ。さてと、荷物を受け取らないと」


 ここからは、私も初めての体験になる。確か、荷物を受け取る前にサイン、またはハンコを押すのよね。ハンコを置いてある場所が分からないので、サインをするとして。

 文字を書くのも、今日が初めてになる。はたして、綺麗な文字で『春茜』って書けるかしら? 漢字自体は分かるけど、そこだけ不安だわ。

 一抹の不安と緊張を感じつつ、玄関にあった靴を履く。まだ人の気配が無い扉を開けると、肌を纏っていく蒸した湿気や、ジリジリと焼く強烈な夏の西日が、私を出迎えてくれた。


「今日も暑いわねぇ。立ってるだけで汗ばんできそうだわ」


 おまけに、太陽を遮る雲が一つも無い。正に、洗濯日和な大晴天。明日も晴れの予報だったから、一日中布団を干しちゃおうかしらね。


「……っと、来たようね」


 生温い風を浴び、景色を眺めながら黄昏ようとするも。階段を駆け上がるような音が下から響いてきたので、体を左側へ向けた矢先。

 先ほど、モニターに映っていた配送業者が現れて、私を目視するや否や、軽く会釈をしてきた。


「春茜さんですね。こちらがお荷物になります」


 私を春茜だと判断した配送業者が、持っていた段ボールを差し出してきたので、落とさないよう両手で受け取った。


「暑い中、お勤めご苦労様です。あの、サインは?」


「サインは大丈夫です。それでは、ありがとうございます」


「あ、いらないんですね。こちらこそ、ありがとうございます」


 サインを要らない旨を伝えた配送業者が、再び軽く会釈をし、駆け足で階段を下りていった。サイン、しなくてもいいんだ。

 荷物を受け取ったら、必ずするとばかり思っていたのに。初めて文字を書く機会だったから、少し残念に思うわ。


「……それにしても。大きい割には、意外と軽いわね」


 なんだったら、この段ボール、片手だけでも難なく持ててしまう。中身は、一体なんなんだろう? 重さからするに、たぶん食べ物じゃなさそうよね。


「まあ、いいわ。あとでハルに見せてもらおっと」


 それよりも、まずは映画よ。ハルと一緒にゆっくり観て、余韻に浸りながら感想を話し合った後か、夕食を食べ終わった後にでも教えてもらおう。

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