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190話、真夏でもグイグイ進む

「私、メリーさん。今、車中泊キャンプの動画を観ているの」


『へぇ~、そんなのがあるんだ。車中泊ってことは、テントとか設営してないの?』


「そうね。車がテントの役割をしてて、料理は外で普通に作ってるわ」


『マジか。片付けとか簡単そうだし、手軽にキャンプが出来そうだね』


 キャンプの動画は、幾度となく観てきたけれども。車中泊キャンプっていうのは、四季問わず快適さが段違いに良さそうね。

 テントの設営が要らないでしょ? 寝床は、あらかじめ車の中に作っておけばいい。食材や必要な道具も大量に運べる。ハルが言っていたように、後片付けの手間も少ない。

 更に、片付けを前日に全て済ませておき、ゴミも車に入れておけば、朝起きてすぐに出発が可能。ただ、車ってとんでもなく高いのよね。それだけがネックだわ。


「……ふふっ。どの車も、訳が変わらないぐらい高いわね」


 興味本位で、車の値段を調べた結果。軒並み百万円をゆうに超えていて、だんだん訳が分からなくなってきた。こっちの高級車なんて、一千万円から三千万円以上するじゃない。

 なんで、見た目がちょっと違うだけで、値段にこうも差が出てくるんだろう? 車中泊をする時、快適さが違うせいからかしら?

 だとすれば、一千万円を超える車は、きっと高級ホテル並みに快適なんでしょうね。


「メリーさーん、夕食が出来たよー」


「あら、もう出来たの? ……なんだか、すごくシンプルな見た目をしてるわね」


 タブレット越しから、ハルの呼ぶ声が聞こえたので、タブレットの電源を消して、いつの間にか夕食が並べられていたテーブルを覗いてみる。

 広がった視界の先。まるで、茹でただけのように見える山盛りの温野菜と、その山のあちらこちらに添えられた、これまた茹でただけの豚バラ肉。

 後は、これに野菜や豚バラ肉を浸して食べると思われる、出汁の良い匂いがふわりと香る、めんつゆが注がれた器。

 野菜の山と引けを取らない、こんもりと盛られたご飯。その隣には『ごはんです!』や『きゅうりのリューちゃん』があった。


「今日は茹でただけなのに、グイグイ食べられる夏の最強夕食、私流冷しゃぶサラダになります」


「あ、本当に茹でただけなんだ」


「いえすっ! 手軽に作れて、栄養も沢山取れて、更に洗い物も少ないっ! なのに、すごく美味しいんスよ」


「へぇ~、そうなのね。でも……」


 自信満々に豪語したハルから視線を外し、『ごはんです!』と『きゅうりのリューちゃん』を見やる。


「その割には、ご飯のお供もあるわよね」


「それはですね。ご飯よりも先に、美味しい冷しゃぶサラダを完食してしまう可能性があるので、救済処置として用意しました」


「き、救済処置」


 ご飯よりも先に、冷しゃぶサラダが無くなる可能性があるなんて。そこまで自信を持って言えるなら、期待しても良さそうね。


「なら、ガツガツ食べちゃっても問題ないわね。それじゃあ、食べましょ」


「おっけー! いただきまーす」


「いただきます」


 食事の挨拶を交わし、右手に箸を持つ。温野菜と豚バラ肉に、めんつゆの組み合わせって、相性は良さそうだけど、ご飯と合うのかしら?

 野菜の種類は、モヤシ、キャベツ、タマネギ。最後に添えたのだろうと考えられる、半分に切ったプチトマト、千切りにしたキュウリ、大量に敷かれたレタス。

 今更だけど、生野菜も入っているのね。とりあえず、各野菜と豚バラ肉を別皿に移し、箸で持てる分だけ掴み、めんつゆに軽く浸した。


「うん! しっかり冷えてるし、めんつゆと合うわね。これ」


 冷しゃぶサラダを口に入れて、まず先行してきたのは、食欲を存分に刺激するめんつゆの風味。ちょっと濃いめに感じるけど、尖った印象は無く、むしろご飯と合う濃さに落ち着いている。

 しかも、それだけじゃない。各野菜の旨味もぼやけず、判別出来るほど前へ出てきているわ。シャキシャキ感が健在で、みずみずしいモヤシの甘さ。

 ちょっぴり青臭さを含んでいるも、むしろそれが良いアクセントになっているキュウリやキャベツ。噛めばプチッと弾け、フルーティーな甘さと引き締まる酸味が広がっていくプチトマト。

 めんゆつの濃さを和らげる、際立った甘さと少し辛さを兼ね揃えたタマネギ。そして、俺はここに居るぞと存在感を主張してくる、脂身のプリプリな弾力と淡泊な肉肉しさ、二つの顔を合わせ持つ豚バラ肉。


 めんつゆが、夏の暑さで失っていた食欲を蘇られてくれて、だんだんご飯が欲しくなり。後から出てくる野菜の各美味しさが、全体の味を整えてくれている。

 具材も冷えているから、暑い日でもグイグイ食べられるわ。いいわね、冷しゃぶサラダ。夏には打って付けの夕食だ。


「めんつゆって、そばやそうめんだけに使うとばかり思ってたけど、野菜や豚バラ肉にも合うのね。おいしいわ、いくらでも食べられちゃいそう」


「実はめんつゆって、出汁が利いてるから、万能調味料にもなるんだよね。煮物をちゃちゃっと作りたい時とかに、割と重宝してるんだ」


「へぇ、煮物。ちょっと気になるわね」


 確かに。今は濃く感じるけど、水で希釈して調整すれば、まろやかで優しい味に仕上がりそうな気がする。

 どうしよう。めんつゆで作った大根の煮物や、肉じゃがを食べたくなってきちゃった。


「それじゃあ、今度作ってあげようか?」


「いいの? じゃあ、食べたくなったらリクエストを出すわね」


「りょーかい。いつでも待ってますぜ」


 私のお願いを、気持ちよく快諾してくれたハルが、緩い笑みを浮かべた。とりあえず、さっき食べたいと思った二品は、すぐにリクエストを出すとして。

 煮物系って、意外と種類が豊富なのよね。見落としていそうな煮物がありそうだし、夕食を食べ終わったら、タブレットでめんつゆを使った煮物を調べてみよっと。

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