189話、見落としていた返答
「わたひぃ、メリーしゃん……。いまぁ、急須を飲んでいりゅのぉ……」
「え? 中身じゃなくて、急須を?」
「うわぁ、無味ぃ……」
「で、でしょうね……」
やや物足りなさを感じた、二種類の羊羹を食べた後、メリーさんと一緒に『ハリーポルターと賢者の輝石』を観たけど。まさか、急須の方が夢に出てくるとはね。
「今日も、内容が濃い一日になったなぁ」
会長さんから借りていた、急須と茶筅を返却するだけで終わるかと思いきや。お茶飲みに誘われて、死を覚悟するとんでもない質問を投げつけられて。
会長さんの想いが籠った抹茶を飲み。私の人生において、言った記憶がない悪口を本人に直接伝え。突然『ハリーポルター』ごっこが始まり、私は死の呪文を掛けられて殺され。
時間を忘れて、長時間話し合い。会長さんと仲良くなり、携帯番号を交換し合い。お礼の依怙贔屓として、花火大会の特等席まで用意してもらってしまった。
「まさか、自治会長さんとお知り合いになれるなんてね」
こんな経験、やはり私一人だけでは無理だった。顔が広いメリーさんが居たからこそ、自治会長さんと接触する機会が出来て、携帯番号を交換するまでに至れたんだ。
すごいなぁ。メリーさんのお陰で、良い刺激を受けるイベントが、どんどん増えていく。
初対面で目上の人と、あそこまで楽しい時間を過ごせたのは、人生において初めてだったかもしれない。
「まだまだ話し足りなかったから、来週も行きたいな~」
『ハリーポルター』だけで、一昼夜休まず話し込める自信がある。流石は、三周以上観た大ファン。私より断然詳しかったし、分かりやすい補足まで挟んでくれていた。
そして、その間に飲んだ抹茶よ。何回飲んでも、会長さんが私の為に込めてくれた想いを、必ず感じ取れていたっけ。
料理に想いを込めるだけなら簡単だ。誰しもがやっているでしょう。しかし、その想いを食べた人へ正確に伝えるのが、至難の業。一朝一夕で出来るもんじゃない。
言葉で伝えられないからこそ、料理や作った物で伝える。経験や実績を長年に渡って積み重ね続け、かつ相手を心の底から想っていなければ、成せない業だ。
「でも、メリーさんには伝わってたんだなぁ」
メリーさんは、私が作った味噌汁を飲むと、必ず暖かい物を感じていたらしい。その感想を聞けた時、めちゃくちゃ嬉しくなった───。
「……そういえば、私の味噌汁が一番好きだって言ってくれた時も、似たようなことを言ってたっけ」
『何度でも飲みたくなるような、心が温まって安らいでいく優しい味』。当時は、頭が真っ白になって舞い上がっていたから、その言葉に意識を向けられていなかったな。
「ポカポカに暖まる。お風呂のお湯や、温かい料理を食べても届かない部分まで、しっかりと、かぁ」
私が作った味噌汁が一番美味しいと言ってくれるだけで、冥利に尽きるっていうのにだよ?
味噌汁に込めていた想いが伝わり、それを私に伝え返してくれるなんてね。
ちょっと恥ずかしい反面、嬉しさの方が勝っている。込めた想いの中で、二つ三つぐらい私に返ってきたかな?
「やっばい、本当に嬉しいや」
理屈では語れない、無味無臭の隠しスパイスだとか、文字が読めない透明な手紙扱いだったけど。実際、ちゃんと伝わるもんなんだな。
「なんのしがらみも無い親友になりたいっていう想いを込めたら、それも伝わるのかな? ……んな訳ないか」
そんな都合の良い話、ある訳がない。この想いはズルをせず、本人に直接告げないと。急がず勿体ぶらず、決戦の秋にね。
「それにしても、花火の件よ。意外な所から情報が漏れちゃったな」
花火はサプライズイベントとして、当日まで隠そうとしていたんだけれども。まさか、会長さんがあんなピンポイントに提案をしてくるだなんて。
自治会専用の花火鑑賞席でしょ? 当然、自治会の人が大勢居るはず。そんな中で、メリーさんに人生初めての告白をするのは、めちゃくちゃ恥ずかしいな。
「けど、ちゃんと言わないと」
来年も再来年も、私の隣にメリーさんが居て、同じ場所で同じ景色を見る為にもね。緊張していても、勇気を出して必ず言ってみせる。
「さってと、寝ようかな」
けど花火の前に、メリーさんと一緒に骨の髄まで夏祭りを楽しまないと。全出店、絶対にコンプリートしてやるんだ。ほんと、楽しみだな。




