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188話、物足りなさの正体

「いつか見かけたら、買ってみようかしらね。それじゃあ、ハル。芋ようかんを貰うわよ」


「どうぞ~。んじゃ、私は水ようかんをっと」


 互いに選んで購入したようかんを、上から刺し、形が崩れないよう持ち上げる。水ようかんは、フォークがスッと入っていったのに対し。

 芋ようかんは、刺した時に少し手応えを感じたわね。さあ、視覚的においしそうだと思った芋ようかん。食べてみるわよ。


「わっ、食感が全然違う」


 同じようかんなので、食感も似ているかと思いきや。まったくと言っていいほど、水ようかんと違っていたから、ちょっと驚いちゃった。

 ようかんらしいみずみずしさは、あまり無く。今まで食べてきた物の中で比べると、ホクホクしたじゃがいもに近いかも。

 しかし、風味はまるで別物だ。濃厚だけど行き過ぎておらず、舌に絡みつくような、クリーミーかつ素朴な甘さをしている。

 そして何よりも、すごく食べやすくて後を引く。なので、まだ飲み込んでいないというのに、新たな芋ようかんをつい口へ運んでしまうわ。


 これが、サツマイモの甘さ。食べ続けても口の中がクドくならず、甘さも重みが増していかないから、無限に食べられそうな気がしてきた。


「うん、何回食べてもずっとおいしい。私、これ好きだなぁ」


 けれども、一つだけ問題がある。それは、あればあるだけ食べられてしまうこと。だから、事前に食べる量を決めておかないと、何本あろうが一日で無くなってしまいそうね。


「ふぅ。このペースで食べたら、いくらあっても足らなくなっちゃいそうだし、流石に一旦休憩しようかしらね。……あら?」


「んっふ~、こっちも美味しい! いいねぇ、このみずみずしい甘さ。何本でもいけちゃいそう」


 持っていたフォークの刺す部分を、皿の上に置き、口を休ませようした矢先。水ようかんを食べていた時にも感じた寂しさが、口の中に湧いてきた。

 やはり、この物寂しさも、芋ようかんに対してじゃなさそうね。ようかんのお供として、決定的な何かが足らない。

 和菓子専門店や、ハルに振る舞っただんごを食べている時には、口の中が寂しいなんて一度も思わなかったのに。あの時と今では、何が違うんだろう?


「ねえ、ハル。ちょっといいかしら?」


「んっ、どうしたの?」


「ハルは、二つのようかんを食べてみて、何か口の中が寂しいと思わなかった?」


「あ、思った! 気のせいかな~? って思ってたんだけど、メリーさんもだったんだ」


「ああ、ハルも思ってたのね」


 共感して欲しいとかではなく、さり気なく聞いてみたら、ハルも同じ気持ちになっていたのね。だったら、この原因を余計に探りたくなってきたわ。


「そうそう。たぶん、抹茶やほうじ茶を用意しなかったからかな?」


「あっ! それだわっ!」


 絶対にそうだ! 和菓子を食べている時や、会長さんに借りていた急須を返す前日まで、ずっと飲んでいたじゃないの!

 ……なるほど。私達の体って、口が寂しいと感じてしまうほど、抹茶やほうじ茶を飲むのが日常的になっていたのね。

 確かに。この二種類のようかんと、熱々の抹茶やほうじ茶、絶対に合うだろうなぁ。


「う~ん、やっぱりか。しくったなぁ。ようかんとお茶の組み合わせって、間違いなく合うじゃん」


「ピザとコーラぐらい、合ってそうな組み合わせよね」


「そうだね。もはや、欠かせない存在って訳だ」


 そう、和菓子にお茶。これは、ピザとコーラ、映画にポップコーン、お寿司に醤油と同等レベルで、私達の中では欠かせない物になってしまっている。

 和菓子専門店に行ってから、和の世界にだいぶ染まってきたわね。私達。そして、気付いてしまったからには、無性に飲みたくなってきちゃったわ。


「ねえ、メリーさん。今私、お茶がめっちゃくちゃ飲みたくなってるんだよね」


「分かるわ。かくいう私もよ」


「……明日さ? 急須とお茶、買いに行かない?」


「ええ、是非買いに行きましょ」


 これ、ようかんを食べるタイミングを完全に誤ったわね。もし、食後に食べていたら、今日の内にスーパーへ行けていたかもしれなのに。

 まあ、過ぎたことを言っても仕方ない。明日、ハルと一緒にゆっくり選ぼう。私とハルが、これ! って思った、お茶と急須をね。

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