18話、最強の妙案
「冷蔵庫を開ける時にも、わざわざ留守電を入れてくるだなんて。律儀だねぇ」
非通知で、留守電が二件も入っていたかと思えば。なんて事はない、両方ともメリーさんからだった。一件は、私の家に上がり込んだ報告。もう一件は、台所にある冷蔵庫を開ける報告。
普通に考えると、この報告ってめちゃくちゃレアだよね。『私、メリーさん。今、あなたのお家にある冷蔵庫を開けようとしているの。これでよしっと』なんて。決め台詞の後に、素の声が入っちゃっているし。
「こういう所が人間くさいんだよなぁ」
メリーさんがテレビを観たいと言い出し、私が部屋に上がってもいいと許可を与えてからというものの。メリーさんが都市伝説の存在である事実が、頭から抜けている時がある。
まあ、無理もないか。夕食時以外、まったく危害がないんだもの。昨日だってそう。料理番組以外、ほぼ無反応だったけど。夜の九時過ぎまで、一緒にテレビを観ていたもんな。
「う~ん、美味い」
調理学校から出てすぐにある、コンビニで買った抹茶アイスを舐める。抹茶のほろ苦さと、バニラの甘さが合わさったハーモニーよ。やっぱりアイスと言ったら、抹茶一択だね。
「今度メリーさんに、バニラアイスを出してみるのもいいな」
それも店で売っている物ではなく、私が作った物を。材料は、何が必要なんだろう? 牛乳とバニラエッセンスだけじゃ、なんだか物足りなさを感じるし。分からないから、後で調べておこう。
そうだ、牛乳で思い出したけど。メリーさん、チーズを食べてくれたかな? あわよくば、牛乳も飲んでいてほしい。この二つさえ大丈夫なら、洋食の幅がまあまあ広がっていく。
どうせなら、スパゲッティ類も攻めてみたい。ミートソース、ナポリタン、カルボナーラにペペロンチーノ。ボンゴレとかは、まだ怖いな。けどいつかは、試してみないと。
「ならば行くとすれば……。中華料理屋よりも、先に寿司屋だな」
生臭くなければ、焼き魚類はいけるだろうか? 一般的な焼き魚は、パッと出てくるのが鮭。時点でサンマやホッケ。ブリ、ししゃも、炒ったちりめんじゃこ。これ、ほどよい塩気がたまらないんだよね。
しらすなら、生でも美味しい。ホクホクのご飯の上にこれでもかってぐらいに乗せて、醤油をかけて食べると、箸が止まらなくなるんだ。少し贅沢をしたいのであれば、生卵かうずらの卵を加えれば……。
まずい、魚を食べたくなってきてしまった。明日は休みだし。餃子の具材を買うついでに、生のしらすも買ってだ。朝ご飯に、卵を乗っけたしらす丼でも───。
「……朝、か」
たった今、とんでもない妙案を思い付いたけど……。私の死ぬ確率が上がらないか、これ? メリーさんを家に泊めて、朝や昼も料理を振る舞うだなんて。
しかし、こっちはゲーム対象外にしてしまえば、なんの問題もない。ただメリーさんと一緒に、朝食や昼食を食べるだけだ。ノーリスクで色んな食材を試せるようになる。
そうだ。朝から重い物や、手間の掛かる料理は無理だけど。昼なら何でも食べられるし、午前中に料理の具材を仕込んでしまえばいい。
「もしかして、最強な妙案じゃないの? これ」
もちろん、メリーさんに寝込みを襲われない事が大前提。朝起きて死んでいたら、目も当てられない。だったら、朝から私の家に招待した方が安全か?
「そういやメリーさんって、家に居ない間は何をしてるんだろ?」
危険な好奇心だけど、ちょっと気になるや。やっぱり、本来の活動をしているのだろうか? 『私、メリーさん。今、あなたの後ろにいるの』ってね。
よくよく振り返ってみると、私も死ぬ一歩手前だったんだよな。あの時は、味噌汁を振る舞って事なきを得たっけ。
待てよ? そうなると、味噌汁が私の命の恩人になるわけ? マジか。後で、お味噌汁様に感謝しておかないと。
「そっか。下手したら、あの時に死んでたんだな。私」
改めて現実を思い知らされたけど、相変わらず実感が湧いてこない。流石は、楽天家な私だ。危機管理能力がまるでなっていない。だからこそ、あんな場面で味噌汁を振る舞えたんだろうけど。
「ならば、怖がる必要なんてないか。その内にでも、メリーさんを家に泊めてしまおう」
そうだ、別に怖がらなくていい。そもそも私は、もうかなりの粗相をメリーさんにしてしまっている。
だけど、その都度死ぬほどくすぐられるだけで、私はまだ死んでいない。ちゃんと生きている。
一応、家に泊めるタイミングだけは見極めておこう。いきなりこんな提案をしても、怪しまれるだけだ。タイミングは、夜から朝にかけて雨が降っている時がいい。
うん、最高のタイミングだ。メリーさんを、ごく自然に泊める事が出来る。何もおかしくはない。むしろ、私に対する好感度が上がるかもしれない。……それは、調子に乗り過ぎか。
「いや、メリーさんと仲良くなる手もあるな」
それこそ、とんでもない妙案だ。ただの一般庶民である私が、都市伝説と仲良くなるとか、あまりにもぶっ飛んだ妙案じゃないの。おこがましいにも程がある。
だからこそ面白い。どうせ、私はもう逃げられない身だ。一歩間違えれば、待っているのは確たる死のみ。
なのでこれからは、料理以外にも色々と試すのも悪くない。無論、死なない程度にね。
「ははっ。やばい事考えてんな、私」
料理学校で空いた時間を使い、みんなで洋酒を使ったパウンドケーキを作ったのだけれど。もしかしたら、ちょっと酔っぱらっているかもしれないな。
家に着く間までに、酔いって覚めるのかな? このままのテンションで家に帰ったら、またメリーさんに粗相をしてしまいそうだ。




