187話、物足りなさと、秋の味覚
「ぷはぁっ! ……くぅ~っ! この一杯の為に生きているっ!」
「ぷはっ! ふぅ~っ、風呂上がりの炭酸は効くわねぇ~」
ハルと一緒にお風呂に入り、一日の疲れをお湯に流した後。週一の楽しみであるサイダーを、湯気が昇る火照った体へ一気に流し込んだ。
この、喉を殴りつける爽快感抜群の炭酸よ。飲み始めてから一ヶ月以上経つけど、未だ飽きず、すっかり虜になっちゃっている。
こういうのって、週一でやるからいいのよね。毎週新鮮な気持ちで、キレのあるサイダーの爽やかな風味や、クセになる炭酸を堪能出来ているわ。
「さあさあ、今週の禊は終わった! 早速、食べてみましょうぜい」
「そうね。どっちから食べようかしら」
空になったペットボトルをテーブルに置き、かなり遅めのおやつに着目した。気持ち大きめのお皿にあるのは、今日、和菓子専門店で購入した水ようかんと、芋ようかん。
水ようかんの見た目は、正に名前通りね。蛍光灯の光を艶やかに走らせた、みずみずしい表面。色は、あんこを彷彿とさせる色だというのに、透明感があるようにも見える。
芋ようかんは、本当に芋って感じだ。透明感は皆無で、原色に近い黄色。焦げ目っぽい筋をいくつか入れたら、卵焼きみたいになってしまいそう。
しかし、水ようかんと芋ようかん。どっちが美味しそうかと聞かれたら、芋ようかんの方なのよね。醤油が合いそうなビジュアルをしているせいからかしら?
「やっぱ私は、自分で選んだ芋ようかんからかな~」
「じゃあ私は、水ようかんから食べてみよっと」
ハルの意見をあやかり、自らチョイスした水ようかんを、小さなフォークで半分に割き、上から差して持ち上げる。
割った断面も、表面に負けないぐらい光っているわ。よし。初めての水ようかん、食べてみるわよ!
「んん~っ! ツルッとしてて、喉越しが気持ちいいわね」
吸う要領で、口の中に入れてみれば。まず伝わってきたのは、舌の上を滑っていく感触。強めに吸ったら、そのまま喉まで直行してしまいそうなぐらい、滑らかな舌触りだわ。
甘さは、清涼感とみずみずしさを兼ね揃えつつ、上品でクセのない透明感のある優しい甘さをしている。
引っかかる物が無く、丸みを帯びた食べやすい甘さをしているから、いくつでも食べられそうだ。
喉越しは、言わずもがな。噛まなくても、チュルンと喉へ落ちていく。冷蔵庫でしっかり冷やしておいたので、お風呂上がりに食べるには、ちょうど良い冷たさをしているわ。
「うんっ、おいしい。一本丸ごと出されても、ペロリと食べられそうだわ」
けど、なんだか正体不明の物足りなさを感じている。これは、水ようかんに対してじゃない。それだけは分かる。何かこう、ピースが一つだけ欠けているというか。
今まであったけど、今日は抜けている感じがするというか。なんだろう、この口の中に残る寂しさは。もう一品、口が求めている気がしてならないわ。
「うわっ、すっご。濃厚で、めっちゃ美味しい。ヤバい、だんだん焼き芋が食べたくなってきたや」
芋ようかんを食べたハルの目は、キラキラに輝いていて、手を休めること無く食べ進めていく。あの調子で食べられると、静観していたら食いっぱぐれそうね。
「そっちも、そんなにおいしいのね」
「うん、マジで美味いよ。たぶん、サツマイモを使ってるはずだから、秋に食べたらもっと美味しいだろうなぁ」
「サツマイモって、確か秋の味覚ってやつよね」
「そうそう。それで、そのサツマイモを焼くと、焼き芋になるんだけどさ? これね、メリーさんも是非食べて欲しいなー」
「焼き芋、ねぇ」
いつの日か、CMか動画で観たことがある。その時は、かき集めて山にした落ち葉の中に、アルミホイルで包んだサツマイモを入れて、焚き火がてらに焼いていた。
作り方は、至ってシンプルなものの。相当な火力が必要そうなのよね。なので、一本丸々をフライパンで作るのは難しいかもしれない。
「食べてみたいけど。作るとしたら、どうやって作るの?」
「何をおっしゃいますか、メリーさん。作るんじゃなくて、焼き芋は買うもんスよ」
「あっ、普通に買えるんだ」
「そうそう。手っ取り早く買うなら、スーパーでしょ? あとたまに、車の移動販売が近くを通るから、そこで買うのもアリだね」
「へぇ~、そんな車があるのね」
車の移動販売ってことは、その車で焼き芋を作っている訳でしょ? つまり、出来立てホヤホヤの焼き芋を食べられるはず。
……そもそも、焼き芋はおろか、サツマイモの味すら分かっていないのよね。よし。ならまずは、芋ようかんを食べてみて、サツマイモの味を知っておこう。




