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183話、心苦しくなる嘘

「え、嘘? 私と会長さんの抹茶って、ここまで味が違うの?」


「うわぁ、すっごい。同じ抹茶を使ってるとは、到底思えないほど味に差が出てるや」


 共に心を開いたハルと会長さんが、『ハリーポルター』という映画の話を心ゆくまでした後。私と会長さん、どっちが点てた抹茶がおいしいか、試しに作って飲み比べしてみたものの。

 泡のきめ細かさ、濃厚な甘味、深いコク、後を引く余韻の全てが、会長さんの点てた抹茶が遥かに上回っている。これ、本当に同じ抹茶で作ったのよね?

 私が点てた抹茶は、スーパーで手軽に買える安物みたいに感じ。会長さんが点てた抹茶は、まるで専門店に行かないと買えないような、高級感と上品に溢れた味わいをしているわ。


「ふっふっふっ。どうですか? メリーさん。これが、私の実力です」


「趣味で茶道をやってるとはいえ……、完敗だわ」


 作り手によって、風味にここまで差が出るなんて。圧倒的敗北な結果に終わったけど、悔しいという感情は一切湧いてこない。あるのは、ただただ純粋な驚きのみだ。


「う~ん、不思議だわ。何回も点ててけば、おいしく作れるようになれるのかしら?」


「年功は決して裏切りませんわよ。どうです? たまにここへ来てくれたら、私が丁寧に手取り足取り教えてあげますよ?」


 出た、会長さんの手取り足取り。けど正直、上手く作ってみたいという気持ちは大きくある。しかも今回は、丁寧のおまけ付き。

 更によ? 再びここへ来た時、私も『ハリーポルター』について話せたら、会話がうんと弾んで楽しくなるかもしれない。


春茜はるあかねさんも、ご一緒にいかがでしょう?」


「私もですか?」


「はい。しかし、そこまで頻繁にとは言いません。一ヶ月や三ヶ月後、または貴方達の手が空いていて、時間を持て余している時などで構いません。お店か私に直接電話をして頂ければ、いつでもこの茶室を開放致しますわ」


 ついでにと、ハルまで茶飲みに誘ってきたけれども。ハルの表情は、最初に比べると余裕があって柔らかく、なんだか乗り気でいそうだわ。


「そうなんですね、分かりました。なら、会長さん。せっかくなので、携帯番号を交換致しませんか?」


「ええ、是非」


 携帯番号の交換を、即快諾した会長さんとハルが、ポケットに手を入れていく。いいなぁ、携帯番号の交換。

 一応、私だって携帯電話自体は持っている。現代では化石と謳われた、折り畳み式の携帯電話をね。

 しかし、私の携帯電話には、電話帳やカメラ、その他もろもろの便利機能なんて、一つも付いていない。

 あるのは、ただ相手に非通知で掛かる発信のみ。あと、スマホに勝てる要素があるとすれば、充電をしなくても一生使える所や、いくら電話をしても料金が発生しないことぐらいかしらね。


「あ、折り畳み式の携帯電話だ」


 会長さんがポケットから取り出したのは、スマホより厚みがあり。パカッと開けば、あまりにも小さく見える画面や、数字はちゃんとボタンを押すタイプの折り畳み式携帯。

 今まで目にしてきた人間は、全員決まってスマホを持っていたというのに。私以外に持っている人間は、初めて見たから、うっかり同業者かと疑ってしまったわ。


「スマートフォンというのは、私にはどうも難しく。貴方達にとって折り畳み式は、珍しさがあるかもしれませんね」


 むしろ、既視感しかない。私が持っている携帯電話も出して、色々話し合いたい所だけど……。私も出だすと、出来ない番号交換をせがまれるだろうし。

 下手すれば、私が都市伝説だってバレかねない。ああ、すごくもどかしいわ。ようやく、同じ折り畳み式の仲間に出会えたというのに。


「会長さん、登録完了しました」


「こちらもです。では、メリーさん。貴方も電話番号を交換しませんか?」


「うっ……」


 来た。いや、流れ的に来ない方がおかしい。なんだか、心苦しいわね。携帯電話は持っているというのに、持っていないと嘘をつくだなんて。


「す、すみません、会長さん。実は私、携帯電話を持ってないんです」


「あら、そうなんですか? 非常に残念ですが、持っていないのであれば仕方ありませんね」


 とりあえず、納得はしてくれたみたいだけれども。会長さん、少し寂しそうな表情をしている。この嘘、心に結構なダメージが来るわね。

 形や見た目は、会長さんの折り畳み式携帯電話と、ほとんど変わらないというのに。同じ携帯電話なんだから、せめて最低限の機能ぐらいは付いていて欲しかったなぁ。

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