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182話、明かして打ち解けていく関係

「先程、貴方が私に畏怖の念を抱いていたように、商店街や自治会に居る人達の中にも、私に畏怖を念を抱く方が少なからず居ります。その理由を知りたく、改善に努めたいので、春茜さん同様に質問をしても、詭弁を弄するばかりで教えてくれませんでした」


「改善、ですか」


「はい。一応、貴方が意識を失っている間に、メリーさんと話し合って原因を突き止めました。ですが、複数人の意見も聞きたく、再度春茜さんに質問をした次第です」


 その原因は主に、容姿、威圧感や意図せぬ怒気を含んだ喋り方。あとさっき、ハルの精神を瞬時に追い込んだ質問の仕方ぐらいかしらね。


「そうですか、なるほどです。ちなみに、その原因というのは?」


「圧や怒気を感じる喋り方が、主な原因だと判明しました」


「あっ、ああ……」


 ハルの察したような反応からするに、たぶん同じことを思っていそうね。


「すみませんが、会長さん。私も、それでやられました」


「や、やはりですか。これで間違いなさそうですね。仰って下さり、誠にありがとうございます」


 一瞬口角が強張るも、現実を受け入れた会長さんが感謝の意を伝え、頭を軽く下げた。似た内容の報告が二件も出れば、もう間違いないでしょう。

 商店街の人達だって、そう。いきなり質問から始めるのではなく、まず理由から説明すれば、答えてくれる人が出てくるかもしれないわ。


「いえいえいえ! 今は全然大丈夫ですので、お気になさらないで下さい」


「そう、ですか。ならば、春茜さん。ここからは、私に何を言っても構いません。私を一目見て受けた印象や、どういう人物を頭の中で思い浮かべたのかも教えて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」


「印象や、思い浮かべた人ですか……。それ、本当に言っちゃってもいいん、ですか?」


「はい。私が求めていますので怒りませんし、全て真摯に受け止めます」


「は、はぁ……」


 会長さんが追加でしてきた質問は、流石にハルも躊躇っているようね。その証拠に、私の方へ横目をチラチラ向けてきているわ。


「あのー、メリーさん? この質問は、メリーさんも答えた感じ?」


「ええ。懐石料理屋に居る女将や、マダムって答えたわ」


「ま、マジか。でも、懐石料理屋の女将かぁ。なんだか分かる気がするや」


「ふふっ、そうですか。その調子で、春茜さんも是非、お答え下さると助かります」


 ハルが女将を同調するや否や。会長さんの表情がほころび、柔らかな口調で催促してきた。会長さんったら、女将を気に入っていそうね。


「なるほどぉ~? 正直な話、人の悪口って言いたくないんですけど……。言った方が、いいですかね?」


「無理にとは言いませんが。参考にしたいので、気を悪くしない程度でお願いしたいです」


「おお~……、そうですか。う~ん……、わっかりました。頑張って言ってみます」


 恐怖に駆られている訳じゃなく、ただ単純に人の悪口を言いたくなさそうにしていて、苦い顔をしながら唸っていたハルが、半ば諦めた様子で顔を下げた。

 そういえば、意地悪な選択を一度迫られたことはあれど。ハルの口から、悪口らしい悪口って聞いたことがないかもしれない。

 と言うか、ハルがそんなことを口にする想像が出来ないわ。唯一あり得そうな場面は、コータロー君に裁きを下している時ぐらいかしらね。

 そんな、どこまでも優しい一面を垣間見せたハルが、大きく息を吸い込み、吸った以上に長く吐き出した。


「では、言いますね?」


「よろしくお願い致します」


「まず、第一印象ですよね? 私は~、そうだなぁ。冗談が通じず気難しそうで、怒らせたら怖いだろうなぁって思いました」


「は、はぁ~……。春茜さんは、メリーさんと少し違った印象を受けましたのね」


 私の印象と、ちょっと似ている気がするけれども。ハルが言っていることも分からなくはない。特に、怒らせたら怖いという部分がね。


「あっ、メリーさんも言ったんですね」


「はい。この人の前では、出来る限りちゃんとした態度を取り、敬語で話した方がいいと、明かしてくれました」


「あっははは……、なるほどです」


 私が受けた第一印象を完璧に復唱した会長さんへ、ぎこちない苦笑いを返すハル。バッチリ覚えられていると、それはそれで違う恐怖を覚えるわ。


「あと、思い浮かべた人ですよね。実は私も、二つほどありまして……」


「あら、そうなのですね。どういう人物を思い浮かべなさったんですか?」


「えと、一つ目はですね~。お嬢様が通ってそうな学園の、規律に厳しい理事長です」


「規律に厳しい理事長、ですか。これはまた、新しい印象が出てきましたね」


 お嬢様が通っていそうな、規律に厳しい理事長。これって、悪口に該当するのかしら?

 でも、本物を見たことがないというのに、的を射ていそうな印象だと思ってしまった。


「人が持つ感性によって、こうも印象に違いが出てくるものなのですね。不思議ですわ。それでなのですが、春茜さん。もう一つの印象というのは?」


 会長さんったら、人の印象を聞いて、だんだん楽しくなってきていない? 早く聞きたそうにウズウズしているのが、嬉々とした表情で丸分かりよ?


「もう一つは、ですね。『ハリーポルター』という映画をご存知でしょうか?」


「『ハリーポルター』ですか? はい、大ファンです。三週以上観ましたわ」


「三周も!? すごいですね~」


 『ハリーポルター』。内容は知らないけど、幾度となくCMを観たことがあるので、名前だけは知っている映画だ。確か、魔法を扱う少年の物語よね。


「その~、『ハリーポルター』に出てくる『マクナガルゴ先生』に、すっごく似てるな~っと感じました」


「ああ~っ、『マクナガルゴ先生』。そうですか、いいですねぇ」


 ハルに、『マクナガルゴ先生』という人物に似ていると言われた途端。会長さんが、今日一番の嬉しそうな笑みを浮かべた。

 表情的に、かなりの好印象だと受け取れるけど、『マクナガルゴ先生』という人物を知らないから、共感が出来ないわ。


「『マクナガルゴ先生』は、『ハリーポルター』の登場人物で一番好きなのですよ」


「そうなんですかっ? ああ~、よかったぁ」


「ええ。一番な好きな人物に例えられて、非常に満足しています。では、ハルーポルター。貴方が所属する『グリフィントール』に、マイナス五百点を差し上げましょう」


「マイナス五百点!? え、ちょっと、会長さん? ほ、本当は、怒ってます?」


「なんですか? ハルーポルター、その態度は? どうやら、お仕置きが必要みたいですね。『アダバ ケダブラ』」


「ちょっ!? それ死の呪文じゃっ……!」


 会長さんが真顔で変な言葉を放ち、ハルへ指差した直後。

 急に焦り出したハルが、黙り込んだかと思えば、そのまま受け身を取らず床に倒れていった。……え? 何これ? 一体、どういう状況なの?

 会長さんは、とても満足した様子で鼻を「ふんっ」と鳴らし、正座し直したし。ハルは、倒れたままピクリとも動かない。

 さっき、死の呪文だとか何とか言っていたし……。もしかしてハル、会長さんに殺されちゃったの?


「……ふっ、ふふふっ。あっはっはっはっ」


「あ、生きてた!」


 会長さんに殺されたと思ったハルが、いきなり笑い出し。ムクリと上体を起こしては、座布団の上に座り直した。


「会長さんって、結構面白い人なんですね。今のはちょっと楽しかったです」


「そうですか。楽しんで頂いて、私も何よりです」


「え? ……えっ?」


 二人だけにしか伝わらないやり取りを経て、いきなり仲良くなったみたいだけど……。

 状況がまったく掴めていないから、『ハリーポルター』について談笑し始めた二人を、見返していくことしか出来ない。

 まあ、いいや。仲良くなってくれたのなら、それに越したことはないわ。けど、会話に入れなくて寂しいから、今度私も『ハリーポルター』の映画を観てみよう。

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