166話、一人でのんびり、おやつを食べたかった
「さてと、着いたわ」
今日のおやつを購入するべく、買い物帰りに来たお店は、商店街のメイン通りにある和菓子専門店。外装は主に白く、なんだか高級感溢れる面立ちをしている。
お店の前面は、中全体が窺えるガラス張りで、外からでも多種多様な和菓子が見えるわ。陳列棚は大体低く、ゆっくり歩きながら品定めが出来そう。
お会計する場所は、左奥にあるショーケースの上にレジが設置されているから、たぶんあそこね。よしよし。ショーケースの中に、お目当ての物を見つけたわ。
「ふふっ。何本ずつ買おうかしらね」
胸を躍らせつつ自動ドアを通り抜け、気持ち涼しめな店内へ入る。外は夏の日差しで暑かったから、快適に感じる涼しさが心地いい。
そして、店内に漂う上品で甘美な匂いよ。決して甘ったるくなく、深呼吸をして空気を鼻から食べたくなるような、気品高さがたまらないわ。
「それにしても、沢山あるわね」
陳列棚が低いからこそ、つい別の和菓子に目を配ってしまう。けど幸い、ほとんどの和菓子がしっかり梱包されていて、肝心の中身が見えないから、そこまで食欲が浮気せずに済みそうね。
こしあん、きなこ、黒ゴマ、うぐいす餡を纏ったおはぎ。ふっくらとした袋に入ったどら焼き。長方形で同じ形をしたカステラ、ようかん。
大きめな袋の中央に、でかでかと内容物が記された、かりんとう。おせんべいの種類だって、負けていない。丸い物から、粒々、見るからに揚げたと思われるおせんべいまで。
最初から買う物を決めていなければ、店内で右往左往していたかもしれない量の和菓子が、所狭しと私の視界に映ってくる。
「けど、誘惑には負けないわ。今日の私の意志は、すごく固いんだからね」
買ってくれと催促してくる和菓子を鼻で笑い、レジへ直行する。そう。今日のお目当ては、みたらしだんごとあんだんごの二種類。
通常、コンビニやスーパーでは、基本三本入りなのに対し。揚げ物専門店のおばちゃん情報によると、この和菓子専門店では、なんと一本から買えるらしい。
しかし、値段は多少張るとのこと。だけど、値段相応以上のおいしさがあると言っていた。なので私は、量より質を選び、和菓子専門店に来たのよ。
「いらっしゃい、……おや?」
レジに到着するや否や。ショーケース越しに居た、白髪で眼鏡を掛けたおじさんが私に気付くも、おっとりした目を丸くさせ、眉を跳ね上げた。
「君は、かの有名なメリー君だね。いらっしゃい」
「ここに来たのは、初めてなんだけども……。やっぱり、自治会絡みかしら?」
「そうだね。よく、君と春茜君の話を聞いているよ。なんでも、子供達に慕われているとか」
「そうね。よく子供達と遊んでいて、駄菓子屋とかに行ってるわ」
都市伝説の私が恐怖を覚えるほど、私達の行動が筒抜け状態じゃない。よかった。この近辺で、今は止めた本業をしていなくて。
もしやっていたら、正体がバレていたかもしれないわね。
「ああ、やはり。駄菓子屋の幸子さんが、嬉しそうに語っていたよ。とても楽しい時間を、共に過ごせたとね」
「そ、そう。それはよかったわ」
八百屋のおじさんは、哲さんでしょ? それで、駄菓子屋のおばちゃんは、幸子さんっていう名前なんだ。
新たなお店へ行く度に、前に訪れた店の人の名前が分かっていく。
「それで、今日は何をお求めで?」
「えと……。みたらしだんごとあんだんごを、二本ずつ欲しいんだけども」
「みたらし団子とあん団子だね。少々お待ちを……。っと、そうだ」
フードパックを手に持ち、私が注文した物を入れようとして腰を折るも、一言付け加えたおじさんが、上体を上げた。
「メリー君。団子に合うお茶を用意してあげるから、ここで食べていかないかい?」
「えっ? ……ここで?」
「うん。みたらし団子には、ほうじ茶。あん団子には、抹茶が合うんだ。まあ両方共、私の好みだけどね。どうだい?」
そう私に提案してきたおじさんが、年相応に柔らかくほくそ笑んだ。揚げ物専門店みたいに、レジが外にあるのならば、いざ知らず……。
ここ、内装が小奇麗な店内よ? うっかりだんごを落としてしまい、ピカピカな床を汚したら、怒られたりしないかしら?
しかし、このおじさんも自治会の関係者。ここで変に断ると、今日会った出来事が商店街の人達に広まり、後々大変なことになるかも。
「ほ、本当に、いいの? ここで食べても」
「ああ、構わないよ」
「そ、そう。なら、頂こうかしら」
「そうかい、ありがとう。それじゃあ、今用意するよ。おーい、母さん。メリー君が来たぞー。あと───」
おじさんが奥へ行ったかと思いきや、ついでに新たなる第三者を召喚した!? これじゃあ、少しも気を休められないじゃない!
……どうする? 細心の注意を払って一問一答しなければ、私だけではなく、ハルの評判も下がりかねないわ。
ああ、だんだん帰りたくなってきた。一人でのんびり、だんごを食べたい。




