165話、メリーさんと出会えたからこそ
「えへへっ。……ああ、ダメだ。ニヤけが全然止まらないや」
今日だけで、何回幸せな気分になれたんだろう。まだ全身が火照っていて、お風呂のお湯よりも温かく感じる。
コータロー君とカオリちゃんが、私が作った唐揚げを食べて、笑顔で美味しいと言ってくれて。それを見ていたメリーさんも、私と一緒になって喜んでくれて。
喜びを分かち合ってくれたメリーさんが、私の為に祝賀会を開いてくれて。丁度いい機会だと思い、メリーさんに私の叶えたい夢を明かしたら……。
良い夢だと褒めてくれて、応援してあげると後押ししてくれて。まだ店すら建っていないのに、一番客になると約束までしてくれた。
「人生の中で、一番最高な日になったんじゃないかなぁ」
これ以上の幸せに満ちた日なんて、私は知らない。たぶん、今日が初めてだ。幸せの規模があまりにも大き過ぎて、全部受け止め切れていないんだもん。
もしメリーさんと出会わず、二人に唐揚げを振る舞っていた場合。今日感じられた幸せは、半分以下になっていただろうな。
……いや、違う。全ての切っ掛けを作ってくれたのは、メリーさん本人だ。メリーさんが居たからこそ、様々な歯車が噛み合い、今日という最高の日が訪れたんだ。
「メリーさんが居なかったら、駄菓子屋にすら行ってなかったんじゃないかな?」
もっと時を遡れば、私は何事も無くラーメン屋に行けていて、一人で美味しいラーメンを食べていた。そう。私の大きなイベントは、そこで終わっていたかもしれない。
ピザの出前を頼んでいないだろうし、中華料理屋、『銚子号』や『アリオン』にだって行っていない。もちろん、海鮮祭りも開催していなかったでしょう。
そして、夏祭り、旅行、渓谷釣りへ行く予定すら組まず。上がっているのか分からない料理の腕を、一人寂しく磨いていたんだろうな。
「それに比べて、今の私よ。めっちゃ充実した日を過ごしてんじゃん……」
人並か、それ以上の満喫した日々を送れている。ほんっと、毎日が楽しくて楽しくて仕方がない。しかも、これからもっと楽しい出来事が待っている。
「もう少ししたら、夏祭りが始まるなぁ」
この夏祭りだって、メリーさんが居なければ、行っていなかったと思う。遠くから鳴り響く太鼓の音色や、花火の音を耳にしつつ、この部屋に居ただろうな。
「すっごく楽しみだなぁ。絶対に、全部の露店を回ってやるぞ」
しかしそれは、私の欲を満たす為じゃない。メリーさんを、いっぱい楽しませてあげる為だ。食べたい物は、なんだって買ってあげる。
射的をやりたければ、景品をゲットするまで。水風船を取りたくなったら、隣で応援しながらコツを教えてあげよう。
お面が欲しくなったら、ちょっと勇気を出して、メリーさんとお揃いにしちゃおうかな。……っと、そうだ。
「浴衣、じゃなかった。甚平を買わないと」
私は男っぽい面立ちのせいで、浴衣が絶望的に似合わないんだよね。けど、甚平は動きやすくて非常に気に入っている。実家でも夏になったら、兄貴と一緒にそればっかり着ていた。
もちろん、メリーさんにも買ってあげないと。浴衣と甚平、どっちが似合うかな? 顔が綺麗に整っているし、何を着ても似合いそうだ。
もし浴衣なら、着ているワンピースと同じ白でしょ? でもな、メリーさんって意外と、男物の服も難なく着こなせているんだよね。
私が初めてあげた、男物でネイビー色のルームウェア。今はパジャマとして毎日着ているけど、あれもめちゃくちゃ似合っている。
「とりあえず、まずは着る物だな」
買うんだったら、なるべく早い方がいい。明日か明後日にでも、浴衣や甚平が売っているサイトを覗いて、メリーさんと一緒に選んでみよう。
「ふふっ、ワクワクがずっと止まらないや」
やることがどんどん増えていくせいで、一秒一秒が忙しなく楽しい。こんな気持ちになれたのも、メリーさんと出会えたお陰だ。
きっとメリーさんも、今年行く夏祭りが初めてのはず。ならば、一生忘れられないような思い出を沢山作って、大いに楽しまないと。
待っていなよ? メリーさん。ここから私の、怒涛のお礼ラッシュが始まるからね。




