161話、親心に目覚めそうな都市伝説
「ここが、ハル姉とメリーお姉ちゃんのお家!」
「うわぁっ、すごく綺麗っ!」
廊下を抜けてリビングに入ると、コータロー君とカオリちゃんは初めて見た光景に、目を輝かせた顔で辺りを見渡し始めた。
綺麗なのは当然でしょ? 午前中、ハルと一緒になり、隅々まで細かく掃除をしたのだから。
「ふっふっふっ。ついに来たなぁ? わんぱく大将達よ」
二人のどこまでも通りそうな大声は、ハルの耳にも届いていたようで。台所に顔を向けると、右手に持った菜箸をカチカチと鳴らしている、不敵な笑みを浮かべたハルが居た。
「ハル姉だ! こんばんわー!」
「春茜お姉さん、こんばんわっ!」
「こんばんわー。今日も今日とて、めちゃくちゃ元気だねー」
二人の明るい挨拶をものともしない、マイペースで緩い挨拶を返したハルが、男勝りな表情ではにかんだ。
「長い箸を持ってるってことは、唐揚げ作ってんの?」
「いえすっ。もうちょいで出来上がるから、先にうがい手洗いをしておいで」
「はーい!」
「わかりました!」
母さながらな、ハルの指示を素直に聞き入れ、ピンと手を挙げる二人。
「それじゃあ、メリーさん。悪いけど、二人を案内してくれる?」
「ええ、いいわよ。二人共、洗面所に行くから、私に付いてきてちょうだい」
唐揚げは食べる寸前に見せたいので、あえて洗面所を選び、二人に手招きしつつ、入念に掃除を済ませた洗面所へ案内する。
もちろん、洗濯物は溜め込んでいない。朝一で済ませて、乾いた洗濯物を午後一に取り込んでいる。
本当、夏の日差しってすごいわね。干した洗濯物を、三時間もしない内に乾かしてしまうんだもの。
「ここでうがいをして、ついでに手も洗ってちょうだい。タオルは、そこに掛けてあるのを使ってね」
「はーい!」
「わかりました! ありがとうございます!」
簡単な説明を二人にした私は、早々に洗面所を後にする。小走りで台所へ行き、氷入りのコップを四つ用意して、キンキンに冷えた麦茶を注いだ。
「ハル。夕食は、どんな感じなの?」
「もうすぐ全部揚がるから、三分後ぐらいにはそっちに行けるよ」
「そう、分かったわ。二人共、おいしく食べてくれるといいわね」
「今日ね、過去一自信があるんだー。メリーさんも、期待して待っててちょうだい!」
自信に満ち溢れた声色で、親指を力強く立てるハル。今日作った唐揚げが、過去一の出来? そんなの、絶対おいしいに決まっているじゃない!
「なら、すごく楽しみにしてるわ」
私も親指を立て返し、四つのコップと麦茶入りの容器をお盆に乗せて、リビングへ戻る。
物静かなリビングでは、うがい手洗いを済ませた二人が、再び辺りを見渡しながら立っていた。
「あら、待たせてごめんなさいね。はい、麦茶をどうぞ」
「やったー! ちょうど喉が渇いてたんだ、ありがとうございます!」
「ありがとうございますっ!」
テーブルにコップを置くと、二人はいそいそと座り、麦茶を一気に飲み干していく。二人して、いい飲みっぷりね。見ていて気持ちがいいわ。
「ぷはぁ~っ! ああ~、おいしい~」
「ふぅっ、おいしい~。メリーお姉さん、おかわりしてもいいですか?」
「ええ、どうぞ。注いであげるから、コップをちょうだい」
「わぁっ、ありがとうございますっ!」
カオリちゃんから、麦茶と氷の冷たさが移ったコップを貰い、並々手前まで注ぐ。こうやって、子供達の面倒を見るのも、なかなかどうして悪くない。
こう、ちゃんとしたお姉さんになった気分になれるというか。お礼を言われると、私まで嬉しくなるというか。
なんだか、率先してお世話をしたくなっちゃうのよね。これが親心ってやつなのかしら?
「はい、どうぞ」
「ありがとうございますっ!」
「メリーお姉ちゃん、おれも欲しい!」
「ふふっ、分かったわ」
どうしよう。この瞬間が、ものすごく楽しい。些細なことでも頼られると、しっかり応えたくなってしまう。ああけど、あまりおかわりさせてはダメよ。
よくて二杯まで。三杯目をせがまれても、コップ半分ぐらいに留めておく。なんせ、この後に、ハル最高傑作の唐揚げが控えているんだからね。




