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156話、段階的に楽しめる風味

「んじゃ、いただきまーす」


「いただきます」


 食事の挨拶を交わし、あまり元気の無い右手に箸を持つ。せっかくだから、前にハルから教えてもらった食べ方を試してみよう。

 あれは確か、夕食で出たオムライスを食べている最中。私が珍しい食べ方をして、お蕎麦の話題になった時。

 ハルの場合、三分の一ぐらい食べたら、めんつゆに刻みネギを投入。そして、また三分の一ぐらい食べたら、ワサビを入れるらしい。

 そうすれば、段階的に変わる風味を楽しめるし、飽きが来ない。今回はそうめんの量が控えめなので、三回ほど食べてから試してみよう。


「んっ、サッパリしてる」


 冷えたそうめんをすすり、しっかり噛んでみると、まず最初に現れたのは、かつお節が利いためんつゆの清涼な風味。

 ちょっと濃いめに感じるけど、この濃さが良い。無かった食欲を軽く突っついてくれて、いい具合に刺激していく。

 そして、気持ち太めのそうめんよ。食べ応えのあるモチモチ感、力強いコシがあるのにも関わらず。ツルツルで滑らかな喉越しをしているから、食欲が無くてもスイスイ食べられる。

 後味は、ほのかに甘味を含んだ小麦らしき風味が、ふわりと湧いてくるわね。けれども、タイミングが悪いと、かつお節の裏に引っ込んでしまう。


「うん、冷たくておいしい」


「氷水で、しっかり冷やしたからね~。この冷たさがたまらんっ」


「あっ、やっぱり冷やしてるのね」


「うん。まずは、そうめんのぬめりと塩分を取る為に、流水で揉み洗いをしてだ。次に、氷水でガッツリ冷やして締めるっ。そうすると、コシが強くなるらしいよ」


「へぇ~、そうなのね」


 そうめんって、茹でるだけじゃダメなんだ。だとすると、ざるうどんを作ったら、揉み洗いと氷水で冷やす必要がありそうね。一応、覚えておこっと。


「それじゃあ、刻みネギを入れてっと」


 あっという間に三口食べてしまったので、めんつゆに刻みネギを入れる。風味は、まったく別物と言っていいほど変わってしまった。

 かつお節を押しのけて、ネギの主張がグイグイ前へ出てきている。刻んであろうとも、ネギは生だからシャキシャキ感があり、時折ピリッとした辛味も感じるわ。

 いいわね、刻みネギ。そうめん、めんつゆ共に相性が抜群じゃない。ネギを入れる前提で、味を調節したと言っても過言じゃないわ。

 それに、そうめんと一緒に食べたくなるから、ワサビを入れる頃には無くなってしまいそうだ。もう、ネギはいくらあってもいいわ。


 で、またすぐ三口食べてしまったので、めんつゆにワサビを投入。ダマにならないよう、箸で潰しながら拡散させて、上手く溶かしていかないと。


「んんっ。ワサビもいいわね」


 僅かに鼻へツンと来る、なんだかクセになりそうな低刺激。冷たさとネギの辛さで増進された食欲を、更に底上げする程よい辛さ。

 これ、ネギ、ワサビの順番だからこそ楽しめる風味ね。逆の順番で入れると、ネギの良い所が全てワサビに負けてしまいそうだから、やめた方がいいかも。


「ふう、おいしかった」


 あまりにもスルスル食べられたせいで、食欲なんて全然無かったのに、手を止めること無く完食してしまった。

 そして恥ずかしいながら、物足りなさを感じている。罪悪感と後悔で、お腹が膨れ上がっていたというのに。ほんと単純ね、私の胃袋と食欲って。


「ああ~、美味しかったぁ~。けど、全然食べ足りないや。どうしよう、おかわりしよっかな~?」


 わざとらしく声を張り、チラチラと私に横目を何度も流してくるハル。どうやら、私の心境を見抜いていそうね。けれども───。


「私は遠慮しとくわ」


「嘘だね、顔に食べたいって書いてあるよ」


「ゔっ……」


 単純なのは、胃袋と食欲だけじゃなかったらしい。どうやら、表情にも出ていたようね。


「い、いや。本当に大丈夫だから、おかわりするならあんただけしてちょうだい」


「ふ~ん、そっか。なら、ここからは私の番だね」


「え?」


 そうふわりとほくそ笑んだハルが、テーブルに肘を突き、手の平に顔を置いた。

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