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152話、味だけは満点

「さてと、いただきます」


 薄白い湯気が昇るレタスチャーハンを、レンゲですくう。中はまだ熱々だったようで、ゴマ油香る湯気の量が一気に増えた。


「うんっ! ちゃんとおいしい」


 やはり先行するは、全ての具材をコーティングした、ゴマ油の芳醇な香ばしい風味。鼻で呼吸をすれば、食欲をグッと引き立てる香りが通っていく。

 しかし、ずっとゴマ油一緒くたでもない。ゆっくり噛み進めていけば、コクを含んだ卵の甘さが顔を覗かせてくるし。ご飯のやんわりとした甘さも、じわじわ広がってきた。

 レタスは、ゴマ油に負けちゃっているわね。自慢のシャキシャキ感も、そう。クタクタになっていて、食感もすごく柔らかくなっている。

 この、なんとも言えない不思議な食感よ。料理から出た汁や油を吸った時のクタクタ感とは、やや似ているようでなにか違う。けど、私は好きな食感だ。


 そして、時折出てくる塩コショウのアクセント。ゴマ油の風味に奥深さを与える、まろやかな塩味。足りなかった部分を補い、纏めてくれるコショウ。

 一振り多めに入れたからこそ、ゴマ油に溺れず、各々の役目を果たせたのかもしれない。流石は、ハルの助言ね。従って大正解だったわ。


「これで味見をして、更に調味料を足していたら、また違う味になってたのかしら?」


 全体の味付けは、これで申し分無し。余計な調味料を加えずとも、十分おいしい。だったら、味見をしていても、結果は変わらなかったかもしれないわね。


「ふうっ、おいしかった」


 初めてのチャーハン作りは、一つのミスを抜かせば、文句無しの大成功。百点満点を上げたい所だけど、五点だけ引いておこう。

 その内、スープも一緒に作ってみたいなぁ。お店で出てきそうな、濃い琥珀色をした中華スープを。具はもちろん、小口切りしたネギのみ。あのスープも、すごくおいしそうなのよね。


「ハルも、そろそろ食べ終わってる頃かしら?」


 タブレットで時間を確認してみると、十二時三十五分になっていた。私が作ろうとしているアレは、完成まで大体一時間前後掛かるでしょ?

 ハルって、たまに早く帰って来る時があるから……。それを加味して、二時前には作り始めた方がよさそうね。


「だったら、休んでる時間はあまり無いわね」


 食器洗い、ネギと豆腐の購入時間を合算して、おおよそ三十分から四十分前後。多少の猶予があるけど、先に準備を済ませておくに越した事はない。

 あと、作り方の復習を入念にしておかないと。なんせ、失敗だけは絶対に許されないのだから。


「おいしく作れるといいなぁ」


 ハルが、私に初めて教えてくれた、あの料理。アレをおいしく作れて、帰って来たハルが飲んだ時、今よりも元気になってくれるかしら?


「元気になって欲しいから、頑張って作らないと!」


 よし。一刻も早く最高のアレを作りたいから、休憩はこれで終わり。洗い物をパパッと済ませて、おいしいネギと豆腐を買いに行こう。

 待っていなさいよ? ハル。必ずあんたを驚かせて、元気にもさせてあげて、そして勇気づけてあげるわ。

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