151話、ちょっとした裏話
「私、メリーさん。今、一つのミスを犯した、レタスチャーハンを食べようとしているの」
『み、ミス? 一体、何をやっちゃったの?』
「味見するのを、忘れちゃったわ」
『ああ~、なるほど? まあ、自分の理想とする料理を作りたいのであれば、抜かしちゃいけない工程になるかもね』
やっぱり、ハルもそう思うのね。今までの私は、料理が形になっただけで満足していた。そして肝心の味は、食べるまで分からない一発勝負。
これまで作った料理は、どれもおいしかったからよかったものの。もし、味見をして味を調節していたら、よりおいしくなっていたかもしれない。
「そうね。毎回食べる寸前に思い出すから、そろそろ気を付けたいわ」
『けどさ? メリーさんが今まで作った料理は、味見をしなくても、どれも美味しかったんでしょ?』
「まあ、ね。満点とまではいかないけど、ちゃんとおいしかったわ」
『じゃあ、メリーさんは充分すごいよ』
「え? そ、そう?」
『うん! しかも、全部が全部初めて作った料理じゃん? 料理って作るのは簡単そうに見えて、案外そうでもないんだ。でもメリーさんは、全部ちゃんと上手く作れた。これって、本当にすごい事だと私は思うよ』
「へ、へぇ~。そうなのね。……いや、ちょっと待って」
料理の腕を褒められて、思わず嬉しくなっちゃったけれども。私がこれまで作った物は、インスタントラーメン、月見うどん、野菜炒め。それで、今回作ったレタスチャーハン。
たまに、うどんと野菜炒めの具材を変えたりしていたけど。作る事自体は、そんなに難しくないわよね?
「今作ったレタスチャーハンと、前に作った野菜炒めを抜かしたら、残りは全部麺類になるわよ? 茹でるだけなら、そんなに難しくないんじゃないかしら?」
『何をおっしゃいますか。茹でる物だって、ちょっと気を抜かすと大失敗するんですぜ?』
「そうなの?」
『そうなのよ。私も、そうめんを茹でるのに何回か失敗しちゃってさ~。あの時は、お湯が少なかったのか茹で時間が短かったのかは、分からないんだけど……。見た目はデロンデロン、喉越しは皆無、食感はぐっちゃぐっちゃになっててね。味も、麵つゆで誤魔化し切れないほど不味かったから、流石に廃棄したや』
自らの失敗談を明かしたハルが、『ははっ』とから笑いした。料理が上手なハルも、失敗する時があるんだ。正直、あまり想像が出来ないわね。
「ふ~ん。珍しいわね、あんたが失敗するなんて」
『そんな事ないよ。私だって、結構失敗してるじゃん。ここ最近でやらかしたのは、春雨サラダの量を見誤った事かな』
「ああ~っ。そういえば、そんな事言ってたわね」
言われて思い出した。あれは確か、梅雨入り前だったはず。ハルがリクエストを出した、ワンタンスープと春雨サラダ。
その春雨サラダの目分量を誤り、六人前分戻しちゃったんだっけ。
『でしょ? やっべ、どうしよう? 六人分の味付けなんかして大丈夫なの? 濃くならないか? なんて、裏で焦ってたんだ』
「そ、そんな裏話があったのね」
『そうそう。あの時は、マジで春雨サラダが食べたかったから、めっちゃくちゃ頑張ったんだ』
「なるほどねぇ」
ハルが言っている通り。六人前分作られた春雨サラダは、ちゃんとおいしかった。そこをしっかりリカバリー出来るのも、ハルの料理に対する腕があってこそよね。
『ちなみに話を戻すけど。メリーさんは味見を忘れた時、どう思った?』
「え? えと……。忘れた原因を探って、次こそはちゃんとやろうって反省したわ」
『へぇ~、振り返りもしたんだ。偉いじゃん。それで、忘れた原因ってなんだったの?』
「たぶん、料理を作るのに集中し過ぎてたって所ね」
そして、完成品を早く拝みたくて、お皿に盛り付けてしまう。理想に近い見た目になると、つい嬉しくなっちゃのよね。
『料理を作るのに集中してたから、か。いいじゃんいいじゃん、料理作りを楽しんでるようだね』
「そうね。作ってる最中も楽しいし、完成品がレシピに近い形になると、すごく嬉しくなるわ」
『それ、めっちゃ分かる! それでさ、私でもこれ作れるんだって、驚いたりもしない?』
「ああ、するわね。で、早く食べたくなるのよ」
『そうそう……、あ、ごめん。メリーさんも、これから食べるんだよね』
「あ、そうだったわ」
ハルと話すのが楽しくて、目の前にレタスチャーハンがあるのにも関わらず、すっかり忘れていた……。なによ、私。料理以外でも、やらかしちゃっているじゃない。
『そんじゃ、続きは夕食時にしよっか』
「そうね、そうしましょ。それじゃあね」
『うん、バイバーイ』
すぐに通話が切れたので、携帯電話をポケットにしまい込んだ。長電話、これも次から気を付けないと。でも、昼食時の会話って、つい弾んじゃうのよね。




