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150話、シンプル・イズ・ベスト

「さてと、材料はこれでいいわね」


 昼の十二時になったので、とある目的を果たす前に、まずは腹ごしらえよ。今日作るのは、至ってシンプルな『レタスチャーハン』。

 具材は、手で細かくちぎったレタスを二枚。溶いた卵、ご飯を一杯分だけ。調味料も少なく、ゴマ油を大さじ一、鶏ガラスープの素と、塩コショウを適量。

 たったこれだけで、おいしいレタスチャーハンが、十分十五分で出来てしまう。ちゃんと作れたら、色んな具材を追加してアレンジしていこう。

 台所の下から、フライパンを出しながら携帯電話を右耳に当てる。すると、ニコール目の途中でコール音が途切れた。


「私、メリーさん。今、シンプルなレタスチャーハンを作ろうとしているの」


『おおっ、今日はご飯物にするんだね。シンプルって事は、具材は少なめにするの?』


「そうね、溶き卵だけよ」


『いいねぇ~。ザ・シンプルで最高なレタスチャーハンだ。塩コショウを気持ちちょっぴり多めに入れると、マジで美味いよ。是非、お試しあれ』


 塩コショウをちょっぴり多めに。具材が二つしかないから、少な目にしようと思っていたけど。たぶんハルも、レタスチャーハンで色々試していそうね。なら、助言通りに作ってみよっと。


「そう、じゃあ試してみるわ。ちなみに、あんたは何を食べるの?」


『蕎麦屋に向かってる途中だったんだけどさ。なんか急に、足が中華料理屋へ向かい出したんだよね。なんでだろう?』


「どうやら、食欲が浮気したようね」


『みたいだねー。私も、レタスチャーハンにしよっと』


 私が作る物を聞く度に、いつもハルの食欲が移り変わっていく。いいなぁ、お店のレタスチャーハンも。絶対においしいはずよ。


「それじゃあ、いつも通り写真も撮っておくわね」


『オッケー、楽しみにしてるよ。んじゃ、また後でねー』


 次の電話も出てくれると約束してくれたハルが、通話を切った。声色は、普段と特に変わりなし。土曜日に起きた事は、引きずっていなさそうね。


「さあ、私も作るわよ!」


 まず初めに、コンロに火を点けて、フライパンにゴマ油を引く。もうこの時点で、香ばしくていい匂いがする。ゴマ油って、本当に香りが強いわね。私の好きな匂いだ。

 フライパンが温まってきた所を見計らい、溶き卵を投入。広がった溶き卵にゴマ油が行き渡るよう、木のしゃもじで軽く混ぜていく。

 溶き卵に火が入り始め、端っこがフツフツと踊りつつ白くなり、全体が半透明になったら、ここでご飯一杯分を中央に落とす。

 よし。予習を完璧にしていたから、手際よくこなせているわ。それで、しゃもじで米粒を潰さないように、纏まったご飯を横に切る要領で、溶き卵と絡ませてっと。


「うん、作り方も簡単ね。ゴマ油とご飯が馴染んで、パラパラにほぐれてきたわ」


 見た目は、卵チャーハンそのもの。この場合、塩コショウで味を調節して、フライパンのふちから醤油を入れてかき混ぜていけば、卵チャーハンの完成だ。

 だったら私、チャーハンを二種類作れる事になるわよね。やった、料理のレパートリーがグッと増えたわ。しかし、今回はまだ完成じゃない。

 味付けの要となる、鶏ガラスープの素、塩コショウを振りかけていく。

 ハルは、塩コショウを気持ちちょっぴり多めにと言っていたので、一振り多く入れておこう。


「そして最後に、レタスをっと」


 みずみずしさとシャキシャキ感が健在で、入れ過ぎのようにも思えるレタスを、チャーハンの上にかぶせる。

 ……これ、本当に大丈夫よね? レタス然り、キャベツ然り、調理をすると量が減るのは知っているけれども。入れた直後は、どうも不安になってくるわ。


「さあ、しっかり炒めるわよ! よいしょ、よいしょっ!」


 チャーハン自体が焦げないよう、時折フライパンを上下に振り。後から入れたレタスにも、火が均一に通るよう、素早くかき混ぜないと。

 最後の工程だけ、ちょっと忙しくて大変ね。コンロから絶えず出る熱と、部屋の気温も相まって、じんわり汗が出てきちゃった。

 あと一度でいいから、中華鍋と大きなおたまで作ってみたいわ。

 中華鍋を上手く振って、出来たチャーハンをおたまに集め、そのまま専用のお皿に盛り付けていくの。あれ、やってみたいのよね。


「よしっ! レタスもしなしなになってきたし、これぐらいでいいかしら」


 レタスを入れてから、僅か数分で油を吸い、内容量もグッと減ってしまった。最終的に、ちょうどいい量に収まったわね。

 しかし、最初の量に目が慣れていたから、今度は逆に少なく感じるわ。


「まあ、いいわ。さて、零さないよう平皿に盛り付けてっと」


 コンロの火を止めて、熱々の湯気が昇るレタスチャーハンを、平皿に移せば……!


「出来たっ! よしよし、見た目は完璧ね!」


 強火寄りの中火していたけど、目立った焦げはどこにも無し。卵も焦げておらず、鮮やかな黄色を保って───。


「……あっ、また味見忘れちゃった」


 料理の完成を見極める、大事な肯定の一つだというのに。作る事に集中し過ぎちゃって、どうも毎回忘れてしまうわね。次こそは、ちゃんと意識して頭に残しておかないと。


「ふふっ……。爪が甘いわね、私。もっと精進しないと」


 失敗は成功のもと。そこで折れず、反省して次に活かす。この繰り返しが、よりおいしい料理を作る秘訣になるはず。

 さあ、見た目は完璧のレタスチャーハンを、タブレットでしっかり撮って、レンゲを用意して食べるわよ!

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