149話、より距離が近付いたすれ違い
「……いやぁ、これも当たり……。ア"ア"ァァ~……」
「メリーさんってば、夢の中で何回当たりを引いてんだろ。またうめき声を上げてるや」
そんなメリーさんに、私は混じり気のない本音で励まされて、軽い自暴自棄からなんとか立ち直れた。
メリーさんが傍に居てくれなかったら、今頃どうなっていた事やら。
コータロー君とカオリちゃんに、私の作った唐揚げを食べてみたいと言われた時。もし『不味い』って言われたどうしようって考えて、強烈な恐怖感が込み上げてきちゃったんだよね。
子供の感想っていうのは、裏表が無い。思った事を、そのまま口にする。だからこそ、純粋無垢な感想が心に突き刺さるんだ。
しかも相手は、距離感が近くて親しい仲。悪意が含まれていない率直な感想の威力は、何倍にも何十倍にも膨れ上がっていく。
そして子供っていうのは、一度嫌悪感を持つと、その物に手を出し辛くなる。もしかしたら、二度と差し伸べてくれないかもしれない。
私はそこに、確かな恐怖を覚えた。拒否反応も出ていたらしい。メリーさんに言われるまで、気が付けないほど無意識に、表情や言動にも出ていた。
「こりゃ、先が思いやられるな」
私の夢は、家族が作った食材、獲った魚を使った定食屋を開くこと。当然、中には口に合わず、『不味い』と言うお客さんだっているでしょう。
でも私は、想像した不確かな未来に恐怖を覚え、拒絶しようとしていた。そんな私が、定食屋を開くだって? なんとも笑えるふざけた話だ。
違うんだよ、春茜 月雲。恐れるんじゃない。料理に対する腕が、どれほど上がったのか試す最高のチャンスじゃないか。こんな所で怖がらず、ちゃんと向き合え。
「都合よく逃げ出そうとするんじゃねえよ、バカ野郎」
いずれは私は、万人ではなく千差万別のお客さんに向けて、料理を作る事になる。なので、コータロー君やカオリちゃんに料理を振る舞うのは、私にとって大変貴重な体験になるんだ。
インターネットを通して見るレビューや感想とは、まったく違う。産地直送、鮮度抜群の感想を、その場で貰える。良し悪し関係無く、ありがたい事だ。
その二度とあるか分からない機会を、私は放棄しようとしていた。なんとも贅沢な選択だね。勿体ないにも程がある。
「本当にありがとう、メリーさん。私に気付かせてくれて」
そう。私はメリーさんに励まされるまで、大事な部分に気付けていなかった未熟者。覚悟を持ち合わせていなかった、弱者で愚か者だ。
このまま一人で居たら、潰れていたんじゃないかな? 私にとって、メリーさんという存在は、あまりにも大きい。
相談に乗ってくれて、弱音を吐けて、いつでも励ましてくれる。友達の中でも、そうそう居るもんじゃない。
「恵まれてるなぁ、私」
私の命を狙っているけど、それがチャラになるほどの物を、メリーさんから貰ってしまった。大丈夫、もう怯えないよ。
コータロー君とカオリちゃんの感想を、真摯に受け止めて、今後の糧にする。挫けず、前に向かって突き進んで行く。
「……けど、世の中ってそんな甘いもんじゃないよな」
ごめんメリーさん、やっぱ前言撤回。もし、また駄目になりそうになった時は、励まして欲しいな。
けど、流石に細かい事までは吐かない。あまり頼り過ぎちゃうと、それが癖になっちゃうからね。
メリーさんに甘えるのは、あくまで適度に。本当にヤバくなりそうな手前で、助けを求めるよ。今度は君からではなく、私からね。
「さてと、来週の土曜日は頑張らないとね」
二人のお客様を迎え撃つは、メリーさんお墨付きのニンニクマシマシ唐揚げ。
待っていなよ? コータロー君、カオリちゃん。最高の唐揚げを振る舞ってあげるからね!




