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145話、休憩を兼ねた感想戦

「ああ〜、『ガリガリさん』が体に沁みるぅ〜……」


「この『ミゾレ』っていうかき氷だけが、私を癒してくれるわぁ……」


 二回目の凶悪な苦酸っぱさに打ちのめされた後。とにかく透き通るような甘さが欲しくなり、『ミゾレ』なるかき氷をチョイスしてみたけれど、ものすごくおいしい。

 周りがボコボコとした特徴的な容器。銀のスプーンなんてあるはずがないので、可愛い大きさをした木べらですくい、清涼感のある見た目をしたかき氷を口へ運ぶ。


 一粒一粒に個々の大きさがあり、『シャリッガリッ』といった、異なる食感が毎回楽しめる。

 シロップの色は、全体的に鮮やかな赤。しかし遠目で見ると、濃い桃色にも見えなくはない。

 イチゴシロップという物が、かけられているものの。果物特有のほのかな酸味は無く、透明感のあるちょうどいい甘さをずっと感じるわ。


「ああ、おいひい〜」


 駄菓子屋の外にあるベンチで座って食べているから、先の苦酸っぱさと、夏の暑さという相乗効果が加わり、おいしさに拍車がかかっていく。

 空気がヒンヤリした店内ではダメ。夏の暑さを肌で実感出来る外だからこそ、至高のおいしさになるのよ。


「それにしてもさ。まさか、アカねぇとメリーお姉ちゃんが、二回ずつ当たりを引くなんてなー」


「ねー。わたしもビックリしちゃったや」


 私とハルに挟まれ、白いソフトクリームを大事そうに舐めている、コータロー君とアカリちゃんが言う。


「ほんとよ。私なんて二回連続で引いちゃったから、気絶するかと思ったわ」


「それねー、流石はリニューアル版だったわ。とんでもなく酸っぱくなってて驚いたよ」


「アカ姉、すっげえ顔してたもんな。なんか見てて怖かったもん」


「目が飛び出しそうになってたもんね」


 先の惨劇を振り返りつつ、顔を見合わせては苦笑いで語るコータロー君達。

 一回戦目時。当たりを引いたハルは、とんでもない目力に涙を浮かべ、ガタガタに震えた両手で口を抑えていたっけ。

 たぶん私も、あんな表情になっていたんだろうなぁ。ここで聞くのは恥ずかしいし、ハルの家に帰ったらこっそり聞いてみよっと。


「でさでさ! アカ姉、メリーお姉ちゃん! おれたちの勝負、どうだった!?」


「そうだっ、聞かせて聞かせて!」


 よっぽど気になっていたのか。短い感想戦を終えると、コータロー君とカオリちゃんが、子供さながらの無邪気な表情全開で聞いてきた。

 視線を僅かに逸らし、ハルに合わせてみる。私の視線に気付いたハルは、口角を緩く上げてほくそ笑んできた。やはり、私とハル、答えは同じようね。


「ものすごく楽しかったわ。あんなにはしゃいだのは、初めてかもしれないわね」


「メリーさんに同じく! あそこまで羽目を外したのは、中学生振りぐらいかな? とにかく、めちゃくちゃ楽しかったよ。二人共、ありがとうね」


「……お、おっ、おおーっ!! そっかそっか! やったな、カオリ! 二人とも楽しんでくれたってさ!」


「うんっ、やったね! 大成功だよ!」


 私達の真っ直ぐな感想に、嬉しさを爆発させ、太陽よりも明るい笑顔になった二人が、ハイタッチをした。

 あそこまではしゃいだのは、本当に初めてだったわ。ヤッタァメンの当たりに、心の底から一喜一憂し。

 逆に『超すっぱいレモンにご用心』では、当たりの玉を引かないよう、毎回思考を張り巡らせて、ハラハラドキドキしていた。

 共にシンプルな内容で、安い駄菓子で出来る勝負だというのに。気付けば熱中していて、時にはごっこ遊びを交え、みんなで一緒になって楽しんでいたわ。


「それにしても、ヤッタァメンでメリーさんが百円の当たりを引いた時は、マジで盛り上がったよね」


「私も引けるとは思ってなかったから、訳が分からないぐらい喜んじゃったわ」


「そうそう、超喜んでたもんね! あの時は、おれも興奮しちゃったよ」


「わたしも! 百円の当たりなんて初めて見たや」


 蓋の裏を確認し、百円という文字を見た瞬間。頭の中が真っ白になり、まるで子供のように大喜びしちゃっていた。

 その、魔王ハルを見事討伐した百円の当たりは、まだ使っていない。ポケットに入れて、大事に取っておいてある。

 もしかしたら、このまま使わないかもしれないわね。だって、この百円は、みんなと楽しく遊んだ記憶が刻まれた、世界に二つと無い当たりなのだから。


「昔のハルは、そこから更にもう一回引いたのよね。周りの子達も、すごく驚いたんじゃない?」


「もうね、お祭り騒ぎだったよ。みんなして、声が枯れるぐらい叫んでたなー。……あっ、そうだ」


 夏空を仰いでいたハルの顔が、何を思ったのか緩くほくそ笑み。ガリガリさんを大きく齧った後、何かを企んでいそうな顔が私に向いてきた。


「メリーさん。もう一回だけ、ヤッタァメンを引いてみない?」


「私が?」


「あっ、いいねそれ! メリーお姉ちゃんも、プロになれるかもよ!」


「引こう引こう!」


 ニヤニヤしているハルの提案に、かつての興奮を取り戻したコータロー君達が賛同した。

 私は今、百円の当たりを一回引いた状態だ。それでハルは過去、百円の当たりを二回連続で引いている。

 つまりよ? この私も、ハルが成し遂げた偉業への挑戦権を、持っている事になる。……なるほど? これまた面白くなってきたじゃないの!


「いいわ、やってやろうじゃないの」


「おっ、やる気満々じゃん。よーし! アイスを食べ終わったら、次世代プロ誕生を拝みに行こうじゃないの!」


「よっしゃ! ついでにおれも、アカ姉から貰った十円で引こっと!」


「次は、『もう一コ』ぐらい出てほしいなー」


 次世代プロ、なんだか良い響きね。こうなったら、何がなんでも百円の当たりを再度引いて、後世に語り継がれる伝説の存在になってやるわ!

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