143話、運頼みの前哨戦
「ひぃ、ひぃ~……。や、やっと、酸っぱいのが収まったぁ……」
私がもがき苦しんでから、一体何分経ったのかしら。ガムを噛めば、舌を劈く酸味が溢れ出し。我慢して飲み込んでも、喉を焼かんとばかりに纏っていった。
後味だって、そう。口内にへばりついた苦みを少しでも取り除こうと、小刻みに震える口を開きっぱなしにしていた。生き地獄を味わっていた時間は、永遠にも感じたわ。
しかし、すごいわね。これ。体が拒絶反応でも起こしたのか、未だに手先の震えが止まらない。それほど暑くないのに、汗も流れている。
「メリーさん。めっちゃ疲れたような顔してるけど、大丈夫?」
「……実際、疲れてるのよ。もう、あまりにも酸っぱくて、さっきまでの記憶が全部吹っ飛んだわ」
「メリーお姉ちゃんも、アカ姉みたいな顔になってたよ」
「目が飛び出しそうになってたよね」
一戦目でハルが当たりを引いた時、凄まじい目力に厚い涙を浮かべていたけど……。私も、そんな顔になっていたのね。
「ふぅっ……、やっと落ち着いたわぁ。これ、子供が食べたらダメなやつじゃない?」
「それねー。私が子供の時に食べたやつでも、充分酸っぱかったってのに。それを、もっと強烈にバージョンアップしちゃうんだよ? 流石の私でも、これはヤバいってなったや」
「おれ達も、あまり買わないかなー」
「そうだね。こうやって集まった時ぐらいにしか買わないかも」
甘いガムしか入っていなかったら、いざ知らず。やっぱり、今どきの子供達でも、食べる目的として購入する子は少なそうね。
「んでだよ? これから、最終決戦を行うわけだが。現在、なんと当たりが二つも含まれています」
ようやく味が無くなってくれたガムを、ティッシュに包み、ゴミ箱に捨てている中。進行役を買って出たハルが話を始めた。
「当たりを引く確率は、どう足掻いても二分の一なのよね」
「四人の中で、二人が確実に当たりを引くのかよ……」
「うわぁ、こわーい……」
残された黄色い玉は、四つある容器に一つずつ有り。一回戦目で、ハルが。二回戦目で、私が当たりを引き、各一つずつ当たりを消費した。
なので、あと四つある内の二つに、二度と味わいたくない最凶の酸味を宿した当たりが、二つも潜んでいる事になる。
「ひぇっひぇっひぇっ。泣いても笑っても、これが最終決戦になります。皆さん、覚悟は決まりましたか? どこに当たりがあるのか、私も見当がつきません。悔いが残らないよう、よーく考えて選択をして下さいねぇ」
この場を一番楽しんでいそうなおばちゃんが、最終決戦にふさわしい台詞を言いつつ、お茶をすする。
駄目じゃない、おばちゃん。お茶がおいしいからって、優しそうなほっこり顔をしちゃ。
「悔いが残らないように、か。もう推理要素が無いから、マジで己の運に懸けるしかないんだよね」
「私は自信がないから、残り物には福がある戦法を試してみたいわ」
「なんせそれで、さっきおれが勝ったからな! かなり強いと思うよ!」
「いいなー、わたしも試してみたい」
残り物には福がある戦法。出来るのは、たった一人のみ。これで、ハズレを確実に引けるのであれば、是が非でもやってみたいわ。
「なら最終決戦は、ジャンケンで引く順番を決めますかい?」
「あ、それいいわね」
「わたしも、それでいいよ!」
「おれもおれも!」
なんとも平和的で、軋轢を生まない案を出したハルへ、私を含めたみんなが賛同した。
恨みっこ無しで決めるなら、今後もジャンケンが活用されそうね。
「んじゃ、ジャンケンで決まり! 最初に引く順番は、勝った方と負けた方、どっちにする?」
「この場合だったら、負けた人が最初でいいんじゃないかしら?」
「なら、最後まで勝ったら、残り物には福がある戦法ができるんだね! じゃあ、おれもそれでいいや」
「わたしも!」
あまり後先を考えず、適当に言ってしまったのにも関わらず。コータロー君とカオリちゃんが、私の提案に乗っかってきてくれた。
正直、ちょっと驚いてしまったけれども、こうやって付いてきてくれるのって、意外と嬉しくなるわね。
「オッケー! それじゃあ、負けた人から引いていきますかい。掛け声は、『最初はグー、ジャンケンぽん』でいい?」
「ええ、いいわ」
「うん、いいよ!」
「おれもいいよ!」
ジャンケンって、地味に初めてやるのよね。最初はグーだから、手を握ってグーを作り。ジャンケンぽんの合図で、グー、チョキ、パーのどれかを出せばよかったはず。
最も強そうな形は、どれだろう? 物理的な意味を込めるなら、やはりグーよね。けどチョキなら、効率的に目潰しが出来る。パーは、平手打ちぐらいしかイメージが湧かないかも。
よし、決めた。見た目的にも強そうな、グーを出そう。なんとしてでもジャンケンに勝ち続けて、残り物をゲットしてみせるわ!




