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140話、一戦目の行方

「さてと……。ここから、三分一を外さなければならないのよね」


「違いだ。僅かな違いを気合で見つけるんだ、私ィ!」


「よくよく考えたらさ。おれとカオリだったら、当たり引かないんじゃね?」


「さっき、わたし達って『もう一コ』すら引けなかったもんね」


 片や、目を血走らせて、ハズレを見極めようとしているハル。片や、先の引きの弱さを味方に付け、気軽に引こうと決めたコータロー君とカオリちゃん。

 二人の言っている事は、一理ある。『ヤッタァメン』戦では、ハルが五十円の当たりを引き。私なんて、『もう一コ』と『百円』の当たりを連続で引いてしまっている。

 なので、この戦いにおいて、引きが強いと思われるハルと私が、圧倒的に不利。なんだったら、私が一番危うい状況下に置かされていそうね。


「じゃあおれは、これにしよっかなー」


「なら、わたしはこれにしよっと!」


 引きが弱いと確信を得た二人が、ほぼ同時にサクッと決めた。いいなぁ、二人して簡単に決められて。

 私はともかく。ハルなんて瞬きを一切せず、目玉が飛び出しそうになっているわ。


「よし、決めた。真ん中にしようかしら」


 意を決して宣言し、真ん中の黄色い玉を取る。この勝負は、計三回行われる。だから、一戦目で精神をすり減らしながら選ぶのは、得策じゃない。


「んん~っ……! これだぁッ!」


 どうやら、僅かな違いを見極められたのか。今日一番の大声を出したハルが、選んだ玉を高らかと掲げた。

 あんた、いくらなんでも消耗し過ぎよ。肩で呼吸をしているし、薄っすらと汗までかいているじゃない。


「じゃあみんな、容器をおばちゃんの前に置いてちょうだい!」


 待っていたカオリちゃんに、再度指示をされたので、各自おばちゃんの前に容器を置いていく。


「それじゃあ、いっせーのせっ! で、食べよう!」


「分かったわ」


「ひゃ、ひゃい……」


「頼むぜぇ? 外れててくれよ~?」


 これ、食べる直前になると、変に緊張してくるわね。だって、当たりなのかもしれない玉を、自ら口に運ぶのよ? 流石の私でも、ちょっと怖くなってきたわ。


「みんな、準備はいい? じゃあ言うね。いっせーのー……、せっ!」


 ややタイミングをずらした合図で、みんな一斉に玉を口に入れる。

 例の酸っぱさとやらは、まだ感じない。ほんのり甘いだけ。たぶん、しっかり噛まないとダメなようね。さあ、噛むわよ!


「……んっ! あれ? あまり酸っぱくないわね」


 感じる風味は、爽やかで控えめなちょうどいい酸味。その後、中から一気に甘さが湧いてきて、酸味を全て押さえ込んでしまった。

 初めは固かった食感も、数回噛むごとに柔らかくなっていき。最終的には、コシと弾力があるものの、とても噛みやすい柔らかさに落ち着いた。

 これが、ガムの食感なのね。初めて味わってみたけど、口の中にずっと留まっていて、いつまでも風味を楽しめそう。


「よっしゃー! おれも酸っぱくない!」


「わたしもわたしも! ハズレを引いた───」


「んんぐっ!?」


 コータロー君とカオリちゃんが、嬉々とした報告をしている最中。声にならないどもった悲鳴が割って入り、二人の声を掻き消した。今の悲鳴は、もしかして……?

 無傷で生還した私、コータロー君、カオリちゃんが、唯一報告をしていないハルが居る方へ、顔を向けていく。

 移り変わった視界の先。涙が浮かぶ凄まじい目力をしたハルが、ガタガタに震えた両手で口元を覆い隠し、無言でもがき苦しんでいる姿が見えた。


「は、ハル? あんた、もしかして当たりを引いちゃったの?」


 反応で分かり切っているけれども、念のため問い掛けてみれば、ハルは高速で何度も頷いてきた。


「や、やべぇぜ? メリーさん……。割と早く収まって、だんだん甘くなってきたんだけどさ? 瞬間的な酸っぱさは、梅干しの比じゃねえ……」


「うそ? そんなに酸っぱいの?」


「うん、マァジで酸っぱい。これ、あまり舐めて掛からない方がいいよ? 私が買ってた時より、段違いに酸っぱくなってるや」


 噛んでいく内に、酸っぱさが完全に無くなったらしく。呼吸を乱しながら説明していたハルが、疲れ切った様子で天井を仰いだ。

 あのハルでさえ、悶絶する酸っぱさなの? 涙目になっていたし……。私達が食べたら、涙を流すんじゃないかしら?


「そうそう。当たりを食べると、みんなあんな感じになるんだよな。よかったー、アカ姉が引いてくれて」


「だから最初に言ったじゃん、相性がめちゃくちゃ悪いってさ。このまま行くと、全部当たりを引いちゃいそうだなー」


「頼む、アカ姉。マジで全部引いてくれ」


「へっへっへっ、抜け駆けは許さんぞぉ? 次は、君も当たりを引く呪いをかけてやるぅ~」


「ああ~、イヤだぁ……。グワァァァ……」


 いやらしい笑みを浮かべたハルが、両手をわきわきと動かし始めた途端。何かを感じ取ったであろうコータロー君が、弱々しいうめき声を上げた。

 一体、何をやっているのかしら? あれ。ハルの事だし、私にも見えない怪念波を送っていそうね。

 浴びて当たりを引くのだけは嫌だから、少しだけ距離を取っておこっと。

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