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139話、面白楽しく勝負をするには

「出し終わったよ!」


 『超すっぱいレモンにご用心』の袋を、四つ分開けていたカオリちゃんが、いつの間にか、おばちゃんの近くに移動しており。満面の笑みをしながら言ってきたので、ハル達と共に足を運ぶ。

 カオリちゃんの前まで行くと、平べったい座布団に正座をしているおばちゃんの前に、計十二個の黄色い玉らしき物が、透明の容器に入って並べられていた。


「見た目は、全部一緒なのね」


「うへぇ。マジで見分けがつかないじゃん、これ」


「こん中に、当たりが四つもあるのかよ……。こえぇ~」


 一堂に会し、封が開いた『超すっぱいレモンにご用心』に、もう一度(おのの)いていく。見た目は、綺麗に丸くなったレモンみたいな感じね。

 それなりに大きく、この駄菓子はガムという物だから、一つで長時間味を楽しめるかもしれない。しかし、それはハズレを引いた時のみだけ。

 もし、当たりを引いてしまった場合。待っているのは、ただの地獄。一人で阿鼻叫喚を発し、強烈な酸っぱさにより悶え苦しんでいく事になる。


「さあ、みんな! 好きな所を取っていいよ!」


 終始明るい笑顔のカオリちゃんが、『超すっぱいレモンにご用心』に手をかざして催促する。

 カオリちゃんだって、これから地獄を味わうかもしれないというのに。

 よく、そんな健気な笑顔でいられるわね。いくらなんでも肝が据わりすぎじゃない?


「さぁて、どう取ろうかな~? みんなで一つの容器を集中して取るか。それとも、全員別の容器から取っていくか」


「一つ目の取り方だと、最悪二人が当たりを引く可能性があるわよね」


「けどさ? アカ(ねぇ)。二つ目の取り方だと、全員当たりを引くかもしんないぞ」


 みんなで一つの容器を集中して取る方は、確定で一人、最悪二人が犠牲になり。

 全員別の容器から取っていく方は、全員無傷で生還出来る可能性と、ランダムで一人から四人までの犠牲者が出る。

 要は、一人以上を生贄に捧げ、確実に当たりを減らしていきたいのであれば前者。

 ランダム性を求め、この勝負を楽しむなら後者の引き方をすればいい訳ね。


「でもでも、二つ目の取り方は、全員ハズレを引く場合だってあるよ」


「そうなのよねぇ~。三つ入りで計十二個ってのが、また絶妙に頭を悩ませるや。やべぇ、だんだん楽しくなってきたぞ」


「恨みっこなしって言うなら、やっぱ二つ目の引き方だよな?」


「私も、コータロー君の意見に賛成かしら」


 『ヤッタァメン』の時とは、まるで打って変わり。『超すっぱいレモンにご用心』だと、ごっこ遊びを挟む余裕が無く、ちょっと頭を使った議論が捗っていく。

 駄菓子の種類が違うと、みんなこうも変わるなんてね。あのハルでさえ、真面目な顔をして吟味しているわ。


「よーし! それじゃあ、多数決を取りますか」


「そうね。議論してても答えが出なさそうだし、そうした方がいいと思うわ」


「俺も、それでいいよ!」


「わたしも!」


 流石は、この場において最年長のハル。率先して案を出してくれた事により、話が纏まって先に進んだ。とは言っても、みんなあっちの方を選ぶでしょうね。


「まずは、みんなで一つの容器を集中して取る方で、やりたいって人!」


 ハルが高らかと多数決を取り始めるも、誰一人として手を挙げず。やっぱりね、私の思った通りだわ。


「オッケー。んじゃ、全員別の容器から取っていく方で、やりたいって人!」


「はーい!」


「はいっ!」


「はい」


 次の多数決では、コータロー君とカオリちゃんが伸び伸びと挙手し。私も控えめに手を挙げた。


「よろしい! なら最初は、一人一個ずつ容器を選んで、そっから取っていきますかい!」


「皆さん、頑張って下さいね。あ、そうそう。カオリちゃん、ちょっといいですか?」


 今まで静かに見守っていたおばちゃんも、加勢して応援する。しかし、いきなりカオリちゃんに手招きをして、耳打ちをし出した。

 カオリちゃんもカオリちゃんで、急にニヤニヤし始めたし……。一体、おばちゃんはカオリちゃんに、何を吹き込んだのかしら? 嫌な胸騒ぎがするわ。


「おい、カオリ? おばちゃんに何言われたんだ?」


「いいからいいから! まずは引こう!」


 私と同じく、嫌な予感がしたのであろうコータロー君が、カオリちゃんに問い掛けるも無駄に終わり。

 カオリちゃんは有無を言わさず、一つの容器を手に持った。


「おいおい……。今度は、そこで結託するとはね。寂しいから、私も混ぜちゃあくれねえかい?」


「ひぇっひぇっひぇっ。まずは、一回引いてみて下さいな。そうすれば、全てが分かりますよぉ」


 まずい。おばちゃんに、ごっこ遊びのスイッチが入ってしまった。

 それにしても、今の魔女笑い。ハルの物とは比べ物にならないほど完成度が高く、本物と言っても過言じゃない出来だったわ。


「どうやら、引かないと始まらないらしいわよ?」


「く、くそぅ……。おばちゃんのそのノリ、私は大好きだぜぇ!」


「すっげー、本物の魔女みたいだった」


 テンションがちょっと怪しくなってきたハルも、一つの容器を選び。余った二つの容器を、私とコータロー君が持った。


「でねでね! 一つ選んで口に入れたら、容器をまたおばちゃんの前に戻してちょうだい!」


「えっ? なんで?」


「いいから、お願い!」


 意図が掴めない指示だけど。今は主催者であるカオリちゃんの指示に、従うしかないわよね。

 いつもと変わりない無垢な笑顔の裏に、何を隠しているのかしら。


「ええ、分かったわ。それじゃあ、選んでみようかしらね」


「むぅ……。しゃーない、私も選ぶか」


「ああ~、怖ぇ~……。どれにしよう?」


 さあ、まずは一回目の選択よ。ここで当たりを引かぬよう、強く祈りながら選んでいこっと。

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