表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/194

135話、立場を有利にさせる交渉

「あっ。ふっ、ふっふっふっふっ……」


 ハルが『ヤッタァメン』の蓋を開けて、裏を確認した矢先。素の緩い反応を見せたかと思えば、口角を鋭く上げながら不敵に笑い出した。


「数年のブランクが空いていたし。まあ、こんなもんか」


「なっ……!?」


「ごっ……」


「五十円、ですって……?」


 魔王の表情に板がついてきたハルが、指で挟んでいた蓋を、私達にも見えるようひっくり返す。その蓋の裏をよく見てみると、銀色の文字で五十円と記されていた。

 五十円って、上から二番目の当たりじゃない! まさか、本当に引くなんて夢にも思っていなかった。ハルめ、やってくれたわね?


「まあ、春茜はるあかねさん。すごいですねぇ」


「あっははは……。正直、私が一番驚いています。うわぁ、マジか~。五十円引いちゃったや」


 おばちゃんのやんわりとした祝福に、魔王化を解いたハルが、嬉しそうに素直な感想を述べた。なんだ。狙って引いた訳じゃなくて、たまたまだったのね。


「……おい、どうするカオリ? ここで百円引かないと、アカ姉に勝てねえぞ!?」


「だ、大丈夫だって! わたしたちなら、絶対に引けるよ!」


 ホクホク顔のハルとは相反し、絶望の淵に立たされたコータロー君とカオリちゃんは、青ざめた表情で苦し紛れに鼓舞し合い出した。

 なんだか懐かしいわね。絶望色に染まった子供の顔を見るなんて、実に数ヶ月振りぐらいかしら? ……じゃない!

 今は二人共、私の仲間なのよ。どうにかして、少しでも私達の立場を有利にさせてあげないと。


「ねえ、ハル。今って、あんた対私達の戦いよね?」


「そうそう! ヤッタァメンって、こんな味だった……、え? あっ……。そうだな。それがどうした?」


 完全に油断し切っていて、ヤッタァメンを食べていたハルに、突拍子もなく質問してみると、一瞬だけ腑抜けた真顔になり、瞬時に魔王化してくれた。流石はハルね、切り替えが素早いわ。


「なら、私達が当てた額を、足しちゃってもいいかしら?」


「た、足す? ああ~、なるほどぉ……? ま、まあ、プロの私にとって、さほど問題無いハンデだ。よかろう、許可してやる」


 どうやら、ハルにとって想定していなかった相談らしく。バツが悪そうな声を発した後、動揺していそうな震えた声で許可をくれた。


「本当!? だったら、おれたちの中で五十円の当たりを二回引けば、アカ姉に勝てるぞ!」


「うん、そうだね! なんだか、また当たる気がしてきたかも!」


 けど、二人にとって反撃の狼煙を上げるには、十分な条件だったようで。かつての気力と元気が蘇り、勝ちへの活路を見出したようね。よかった、ハルに交渉してみて。


「流石はメリーお姉ちゃん、ナイスな相談だよ!」


「わたしだったら、何も言わないまま引いてたよ!」


「あんた達。勝負をするのはこれからなんだから、喜ぶにはまだ早いわよ?」


「あっ、そうだった!」


 そう。私達は、まだ勝っていない。ハルに交渉をして、立場をほんの少し有利にさせただけの事。

 なので、まだ油断してはいけない。本当の勝負は、これからよ。


「それじゃあ、一気に引く?」


 私達の顔を交互に見返している、カオリちゃんが言う。


「そうだな、そうしよう!」


「私も、それに賛成よ」


 コータロー君と私が賛同すると、カオリちゃんはコクンと力強く頷き。「よーし、なら!」という合図と共に、私達はハルが居る方へ顔を向けた。


「春茜お姉さん、わたしたちも引くよ!」


「ほう? ついに引くか。なら、掛かって来るがいい! まとめて返り討ちにしてくれようぞ!」


 気迫がこもった台詞を言いながら、右手を前にビシッとかざすハル。もう、素振りまで魔王ね。

 今のハルなら、マントを羽織っていても違和感が無さそうだわ。むしろ羽織って欲しい。


「そんな大口叩いてられるのも、今のうちだからな! カオリ、メリーお姉ちゃん、引くぞ!」


「うん!」


「ええ」


 さてと、ああ言ったものの。三人中二人が、五十円以上の当たりを引く確率なんて、たぶん相当低いわよね。

 そもそもの話。売られていたヤッタァメンの中に、当たりが残っているのかすら怪しい。下手したら、ハルが引いた五十円の当たりが、最後だという可能性だってある。

 いや、引く前から弱気になるのは違うわね。せっかく交渉をして、コータロー君とカオリちゃんの元気を取り戻させてあげたんだもの。

 せめて、引く前ぐらいは強気にならないと。ここで私が、百円の当たりを引いて、コータロー君達を勝利に導いてあげるわ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ