134話、大魔王降臨
「でだ、みんな! 一人一個ずつ『ヤッタァメン』を買って、それで勝負するぞ!」
「いいだろう! でも、店内で騒ぐとおばちゃんに迷惑がかかるから、結果は外で見ようね」
「皆さんが楽しんでいる所を見たいので、店内で引いても大丈夫ですよー」
店側に配慮した注意をハルが促すも、遠くからおばちゃんの、おしとやかなお願いが割って入り。
みんなが黙り込みながら、おばちゃんの居る方へ顔を移し、少しの間を置いて顔を戻した。
「じゃあみんな、おばちゃんの前で引こうぜ!」
「そうね、そうしましょう」
店側から正式な許可を貰ったので、まず一番目に、コータロー君が『ヤッタァメン』を選び。二番目に、カオリちゃんが吟味し。
三番目の私は、底にある『ヤッタァメン』を引っ張り出し。一番最後に、険しい表情で長考したハルが選んだ後。一度受付けまで戻り、一人十円ずつおばちゃんに支払いをした。
「はい、確かに受け取りました。それでは皆さん、頑張って下さいね」
「おれが選んだの、超自信あるぜ! たぶん百円当たるかも!」
「わたしのだって、すごく自信があるよ!」
「その大いなる自信とやら、諸共打ち砕いてみせようぞぉ」
未だ、小物感満載の魔王役を演じているハルが、「ひぇっひぇっひぇっ」と甲高い魔女笑いをする。あんた、ここに来てから、情緒の移り変わりが忙しいわね。
「ちなみに、春茜さん。最後にヤッタァメンを購入したのは、いつでしょうか?」
「え? えっと~……、七、八年ぐらい前になると思います」
「そうですか。そうなりますと、当たりの配当額が変わっているので、気を付けて下さいね」
「うそっ!? そうなんですか?」
本当に驚いていそうな声を上げたハルへ、ニコニコ顔のおばちゃんが頷き返す。
「実は、そうなんですよ。昔は十円、二十円、五十円、百円だったんですがねぇ。今は、もう一コ、五十円、百円の振り分けになっているんですよ」
「げっ……!? 十円と二十円が、無くなっちゃったんですね。うわぁ~、マジかぁ。分かりました、ありがとうございます」
「へぇ~。昔って、十円と二十円の当たりもあったんだ」
「知らなかったや」
おばちゃんの説明に驚愕して、目を丸くさせたハルが感謝の言葉を送り。元から知らなかったコータロー君とアカリちゃんが、あっけらかんと言う。
私なんて両方知らなかったから、リアクションすら取れなかったわ。おばちゃんの説明によれば、今のヤッタァメンには『もう一コ』、『五十円』、『百円』の当たりがあるらしい。
それで昔は『もう一コ』が無くて、代わりに『十円』と『二十円』の当たりが含まれていたと。要は、十円の当たりが『もう一コ』になり、二十円の当たりが無くなった訳ね。
それじゃあ、昔に比べると当たりが一つ減っているじゃない。なんだか残念に思うわ。
「昔って当たりが四つあったんだ。いいなー、アカ姉。なんかずるい」
「た、確かに。今だと、当たりが三つしかないもんね。うわー、色々変わっちゃったんだなー」
「わたし、もう一コが出ただけで喜んでたのに。春茜お姉さん、ずるいよ」
「ええ~……? な、なんか、すみません……」
現代っ子による悪意の無い文句に気圧されて、二人に平謝りをするハル。見ていて面白い構図だから、もっとハルに文句を垂れて欲しいかも。
「まあいい。ここで私が、百円の当たりを引けばいいんだろう? プロの力、見せつけてやんよぉ」
しかし、ハルも負けてはいない。今日一番の悪い顔になり、手招きをしながら二人を挑発し始めた。ほんと、子供が絡んだハルって面白いわね。
「とうとう本性を現したな! カオリ、メリーお姉ちゃん、アカ姉をやっつけるぞ!」
「うん!」
「あ、私もなのね」
確かこの勝負、個人戦じゃなかったっけ? いつの間にか、ハル対私達の共闘戦になってしまった。
まあ、いいか。これはこれで、楽しくなってきたじゃないの。なら私も、この空気に乗ってしまおう。
「ハル。ここで私が勝って、プロの座を譲ってもらうわよ」
「おおっ! メリーお姉ちゃん、かっこいい!」
「そうだそうだ! こっちには、メリーお姉さんがいるんだもん! 絶対に負けないぞ!」
「グゥッ……! 確かに、メリーさんの力はまだ未知数! おのれぇ、とんだ曲者が居やがったもんだ」
未知数な私の存在に畏怖し、顔に汗が噴き出したハルが、手の甲でアゴ部分を拭う。すごいわね、ハル。場面や雰囲気に合わせて、自由自在に汗を出せるなんて。
「しかし、ここは結果が全ての世界よ。せっかく、三対一になったんだ。まず、私から引かせてもらうぜ?」
「みんな、アカ姉が引くぞ! 気をつけろ!」
どうやら、魔女系魔王のキャラを変えたらしく。声を男寄りにして、凛々しさが宿る切れ目になったハルが、先行を宣言してヤッタァメンの蓋を開けた。




