131話、いざ、駄菓子屋へ
「私、メリーさん。今、あなたと駄菓子屋へ行こうとしているの」
「エレベーター内とはいえ、外で電話をしてくるのは珍しいね。久々なんじゃない?」
「ほら、朝食の時にする分が出来てなかったでしょ? だから、ここで帳尻を合わせたのよ」
「ああ、なるほど。そういえば、一日に四回以上は電話をしたいって言ってたもんね」
珍しいタイミングで電話した理由を、ハルが納得してくれたと同時。エレベーターが一階に着いたらしく、扉がひとりでに開き、一緒に外へ出ていく。
そのままマンションの出入り口の扉を開けると、カラッとした夏らしい日差しが、私達を出迎えてくれた。
「やー、だんだん暑くなってきたね。もう本格的に夏じゃん」
「実体化してると、それなりに暑く感じるわね」
少し前までは、春夏秋冬通して実体化なんてしていなかったから、暑さや寒さなんて感じていなかったものの。
ハルと共同生活を始めてからは、基本実体化しているので、日差しが当たり続けている腕の部分に、ジリジリとした熱さを感じる。
「実体化してないと、暑さとか感じないの?」
「そうね、まったく感じないわ。ちなみに、今はずっと実体化してるけど。あんたと出会った頃は、夕食を食べてる時に実体化して、帰る時になったら解除してたわ」
「あっ、そうなんだ。もしかして実体化してると、扉とか壁はすり抜けられないの?」
「無理ね、普通にぶつかるわ」
ハルには言っていないけど、昔はたまにやらかしていた。あれ、顔面を強打するから地味に痛いのよね。
けど最近、実体化を解除する事自体、ほとんどやらなくなっている。朝昼晩ほぼ常に、実体化したままだ。
「ああ、そっか。そういや私、メリーさんの頭を撫でてたもんね。……待って、つまりだよ? 実体化を解除したら、私もメリーさんを触れなくなる感じ?」
「そうね、試してみる?」
「い、いいんスか? 人通りは……、少ないな。じゃあ、お願いします」
「そう。じゃあ、私に腕を近づけてちょうだい」
興味津々そうな表情をしたハルが、私の指示に従い、拳を作った右腕を近くまで寄せてきたので、その腕に私の手を添えた。
ハルの腕って初めて触ってみたけど、表面がスベスベしているわね。しかし、意外と筋肉質なのか。つまんでみると、中はガッシリとしていて固い。
「ほら、ちゃんと触れるでしょ? それで、実体化だけ解除すれば」
ハルの腕を軽く叩いている最中に、実体化を解除してみれば。私の手がスルリとすり抜け、「おおっ!?」という驚愕した声が聞こえてきた。
「マジですり抜けた! え、触られた感触すらしなかったんだけど? わぁ、すげぇ~。おもしろっ」
「ふふっ。あんたって、こういう時は素直にはしゃぐわよね」
「こんな体験、まず出来ないからね。ねえ、メリーさん。家に帰ったら、もっとやってみてよ」
「ええ、いいわよ」
「おお、やったー! 楽しみにしてよっと」
緩くほくそ笑んだハルが後頭部に両手を回し、ご機嫌に鼻歌を歌い出した。どうやら、本当に楽しみにしていそうね。
ならば、私もその気持ちに応えなければならない。待っていなさいよ、ハル。あんたに向かって思いっ切り走っていって、すり抜けて驚かせてあげるわ。
しばらく真っ直ぐ歩くと、商店街へ通ずる道に着き、ハルと共に左折する。商店街に入ると、人通りや喧騒が段違いに増えていった。
日曜日の二時前後ともあってか、平日に比べると活気に溢れているわね。この時間帯だと、主婦より子供達の方が目立つわ。
「さーてと、着いたら何を食べようかなー。駄菓子屋とか行くの久々だし、目移りしそう」
「あら、ここの駄菓子屋には行った事ないの?」
「うん、実はまだ行った事がないんだ。だから今日は、めちゃくちゃ楽しみにしてたんだよね」
「へぇ、そう」
だから今日は、こんなにも上機嫌なのね。そう言われてみると、『銚子号』や『楽楽』へ行った時よりも、嬉しそうな表情になっているかも。
「なら今日は、大いに楽しみましょ」
「だね。メリーさんのオススメがあったら、是非教えてちょうだい」
「何言ってんのよ。あんた方が、私より駄菓子に詳しいでしょ? だからあんたが、私にオススメの駄菓子を教えてちょうだい」
「ええ~、マジか。自信ないなぁ。駄菓子屋に着いたらテンション上がりまくって、それどころじゃなくなってるかもしんないよ?」
「た、確かに……」
そうだ。ハルに『ブタメェン』や駄菓子を上げた時、テンションがものすごく上がっていた。
しかも、『ウルトラBIGチョコ』を上げた時なんて、大声を出していたっけ。
「まあ、あんたが楽しんでくれるなら、私はそれでいいわ」
「あっははは、ありがとう。一応、コータロー君達がドン引きしないよう頑張るよ」
「そうね、そうしてちょうだい」
ハルは、ああ言っているけれども、たぶん無理よね。なら、いいわ。今日ぐらいは私も、ハルと一緒にはしゃいじゃおっと。




