表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/194

130話、一歩前進していく関係

「───ル。ハル、いい加減起きなさいってば」


「……んんっ」


 いつの間にか閉じていた目を開けてみると、薄れぼやけた視界内に映る輪郭が、徐々にハッキリしていき。鮮明になると、どこか呆れた様子のメリーさんと目が合った。


「ありぇ? メリーしゃん?」


「おはよう、ようやく起きたわね」


「起きたって……。もしかして私、寝てた───」


 あれ、ちょっと待って? メリーさんの背後に見える天井、なんだか違和感があるぞ。『楽楽らくらく』の天井って、確かモダンチックで黒寄りだったはずなのに。

 今見えている天井は、ほぼ真っ白。それに、照明の淡い柔らかな光は、どこにも無く。代わりに、なんとも日光的な明るい光を走らせている。

 あと、あの天井、ものすごく見覚えがあるような……。


「……え、嘘? ここ、私の部屋じゃん」


 嫌な予感が頭に過ったので、上体を起こして周りを見渡してみれば。楽楽の店内じゃなくて、私の寝室にすり替わっていた。

 なんで? 一体、何が起こったの? ついさっき、メリーさんに無礼講という形でお酒を勧められて、意を決してカルーアミルクを頼み、ほんのちょびっとだけ飲んだ。

 そこまでは、しっかり覚えている。しかし、それ以降の記憶がまったく無い。ものの見事に抜けている。もしかして私、あんな少ない量で、意識を失うほど酔っぱらったってわけ?


「もしかして、何も覚えてないの?」


「……は、はい。カルーアミルクを飲んだ辺りから、記憶がぶっ飛んでおります」


「え、嘘? そこから記憶が無いの?」


「はい……。いつの間にか眠ってて、気が付いたら、ここに居ました」


 どうやら、流石のメリーさんも絶句したようで。顔全体が強張り、ちょっと上がった口角がヒクつき出した。メリーさんの、あの強張った顔よ。初めて見たや。


「そ、そう。お酒って、かなり怖い飲み物なのね」


「いやいや。ただ単純に、私がお酒に弱すぎるだけだよ。けど、ビールをコップ半分ぐらい飲んだ時は、ここまで酷くならなかったんだけどなぁ。何が違うんだろ?」


 私が二十歳になった日。実家でお父さん達に勧められて、ビールを少しだけ飲んだ時は、ベロンベロンになっただけで記憶は失わなかったのに。

 そういえば、ビールとカルーアミルクって、どれだけ度数が違うんだろう? ものすごく飲みやすかったし、それほど高くないように思えるけれども。

 ちょっと気になるから、あとで度数を調べて───。


「ねえ、メリーさん? つかぬ事をお聞きしますが……。私、メリーさんに何かしてました?」


「え? ああ~」


 恐る恐る質問してみるも、メリーさんは素っ気なく視線を上へ移し。数秒待つと、苦笑い混じりのはにかみ顔を、私へ戻してきた。


「別に、大した事はやってなかったわ」


「え? それ、本当?」


「嘘をついてどうすんのよ。かなり距離が近かったぐらいで、ダル絡みもかわいいもんだったわ」


「はぁ、そうなんだ」


 確かに、嘘をついても意味が無いけど、にわかに信じがたい。

 お父さん達(いわ)く、初めて酔っぱらった私は『とにかく凄かった』って、声を揃えて言っていたのにな。


「ちなみに、どんなダル絡みをしてた?」


「そうね。私の出身地や歳を聞いたり、めんこめんこって言いながら、私の頭を撫でてたわ」


「げっ、マジかぁ……。そんな事してたんだ」


 歳は、ともかく。メリーさんの出身地は、ほぼ私のせいで北海道になってしまったというのに、なんでわざわざ聞いたんだろう。

 それに、メリーさんの頭をよく撫でられたな、私。普通だったら、まずあり得ない行為だ。そんなチャンスが訪れても、私からは絶対にやらないぞ。


「うわぁ~……。ほんっとごめん、嫌だったでしょ?」


「ふふっ、謝らなくていいわよ。それに、あんたに頭を撫でられるのは、全然嫌じゃなかったわ」


「えっ? ……マジですか?」


「ええ。撫で方がすごく丁寧で優しかったし、案外悪くなったわ」


「おおっ、……おぉ」


 私に頭を撫でられて、メリーさんは嫌な思いをしなかった。むしろ、好感触な感想だ。これって、真に受けちゃってもいいのかな?

 無礼講という、メリーさんお墨付きの後ろ盾があったからこそ、じゃないよね? もし、仮にだ。今の言葉が本音だった場合。私とメリーさん、結構良い関係を築けていると判断が出来る。

 いや、そう思っていいかもしれない。私に頭を撫でられて、案外悪くなかったっていう感想は、関係が良くないとまず出てこないでしょう。

 それが、無礼講という最強の後ろ盾があってもだ。……そろそろ、あまり深く考え過ぎず、前向きに捉えてもいいのかな?


「そっか。そう言ってくれると、私も安心するよ。しっかし、酔っぱらった時の私、行動がめちゃくちゃ大胆になるね」


「そうね。でも、いつもと違うあんたを見れたから、なかなか面白かったわ。またいつか『楽楽』に行きましょうね」


「そうだね。食べたい料理はまだまだあるし、月一ぐらいで行こっか。っと、そうだ」


 会話に花を咲かせたい所だけど、そろそろ朝食を作らねば。メリーさんに起こされてしまったし、朝の八時は過ぎているかもしれない。

 休日とはいえ、ちょっと寝過ぎたな。ジョギングは諦めて、ストレッチと筋トレを二セットぐらい増やしておこう。


「ごめん、メリーさん。お腹すいてるでしょ? すぐ朝食作るね」


「あら、何言ってるの? もうお昼前よ」


「へっ、昼前? ……げっ!?」


 急にニヤニヤし出したメリーさんの言葉に、私の視界が狭まり。時間を確認するべく、スマホを見てみれば。画面には、十一時三十分という数字が刻まれていた。

 ……マジで? 何かの間違いじゃないよね? もしかして、ぶっ壊れた? いや、問題はそこじゃない!


「め、メリーさん? 私昨日、何時に寝た?」


「あんたが寝た時間? え~っと……。八時半ぐらいに帰って来たでしょ? それで、私があんたを監視しながらお風呂に入れたけど、頭や体を洗うのに手間取ってたから~……。たぶん、十時半ぐらいだったかしら?」


「うっそん……、十三時間も寝てたの? 私……」


 メリーさんの言っている事が正しければ、人生初の睡眠時間になってしまう。これまでで一番長くても、七時間ぐらいだよ?

 ていうか私。頭と体を洗うだけで、二時間ぐらい掛かったの? それをずっと、メリーさんに監視されていただなんて……。恥かしさよりも、圧倒的な申し訳なさが勝つや。


「あんた、ものすごく気持ち良さそうな寝顔をしてたし。いくら起こそうとしても、まったく起きてくれなかったんだからね?」


「……マジで、申し訳ございませんでした。金輪際、お酒は控えます……」


 震え声で謝罪をしつつ、出来る限り丁寧な土下座をする私。


「全然気にしてないし、楽しかったから別にいいわよ。それよりも、ヌードルカップを食べたいから、おにぎりを作ってくれないかしら?」


「了解致しました! 最高のおにぎりを作りますので、少々お待ち下さい!」


「ありがとう。お湯は沸かしておくわね」


「ありがとうございますっ!」


 お湯は沸かしてくれるみたいだから、まず先に着替えてしまおう。……あれ? 私、どうやってパジャマに着替えたんだ?

 もしかして、メリーさんが着せてくれた感じ? いや、そんなのは後ででいい。急いで顔を洗って、歯も磨かないと!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ