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126話、ビュッフェの布陣、意味を成さず

「それじゃあ、軟骨の唐揚げをっと」


 ハルと出会ってから、まだ間もない頃にリクエストを出した、軟骨の唐揚げよ。一ヶ月以上の時を経て、ようやく食べられる時がきた。

 一粒一粒がコロコロとしていて小さく、見た目は、正に唐揚げの子供って感じね。一緒にレモンが添えられているけど、半分ぐらい食べてからかけてみよっと。


「んふっ、食感が楽しいわね~」


 軟骨を揚げているともあり、何回噛んでもコリッとした食感が止まらない。小さい割に、油をたんまり含んでいるようで。

 新しい軟骨の唐揚げを、口の中に入れて噛んでみれば。中に閉じ込められていた油が、弾けんばかりに飛び出し、醤油を感じる風味と共にぶわっと広がっていく。

 味付けは、普通の唐揚げとあまり変わりなさそうね。後を引くスパイスがちょっと目立っていて、ついもう一つと口に運びたくなってしまうわ。


「これも一回食べると、止まらなくなるわねぇ~」


「居酒屋って、結構危険だね。ビュッフェの布陣にしたけど、一つの料理に集中したくなっちゃうや」


「そうなのよ。お陰でレモンをかける前に、軟骨の唐揚げが無くなっちゃったわ」


「げっ、マジじゃん。塩ダレキャベツよりも、鮮やかな食べっぷりっスね」


 言い訳をするつもりじゃないけど、本当に無意識だった。塩ダレキャベツ然り、軟骨の唐揚げ然り、盛り付けの量が絶妙なのよ。

 一皿だけじゃ全然物足りず、二皿三皿と欲しくなってくる。ここに居る間、食欲の歯止めが効かなくなりそうだわ。


「よかったー、軟骨の唐揚げも追加で注文しといて」


「え? 軟骨の唐揚げも、追加してくれたの?」


「まあね。これからどんどん料理が運ばれてくるから、いっぱい食べちゃってちょうだい」


 なんとも頼り甲斐のあるハルが、カルビステーキを頬張る。もしかして、私がやらかすと先読みして頼んでくれたのかしら? だとすれば、先見の明が鋭いわね。


「そう、ありがとう。なら、遠慮する必要は無いわね。そっちの餃子を貰うわよ」


「じゃあ、私もホッケを食べようかなー」


 活力が漲ってきた箸を伸ばし、一枚に連なった焦げ目がおいしそうな羽を割き、餃子を掴む。鉄板の上にあった事もあり、冷めていなさそうだ。

 ならば、外側をいくら冷ましても、中は熱々なままのはず。火傷しないよう、気を付けて食べなければ。腹の部分に醤油を付けて、何回か息を吹きかけて冷まし、いざ!


「アチチっ……、んん~! ハルの言う通り、ご飯が進みそうな味をしてるわぁ~」


 カリッカリの皮を齧ると、内側に留まっていた熱い肉汁と共に、馴染み深いニンニクの風味がガツンと襲ってきた。餃子といえば、やっぱりニンニクよね。

 具も豊富でギッシリ詰まっているから、肉肉しい食べ応えが十分あり。合間合間に顔をひょっこり出す、各野菜の甘さも良いアクセントになっている。

 しかし、醤油の香ばしさにも負けない、しっかり味付けされた濃厚なタネよ。もう、醤油もいらない。餃子単体だけで、ご飯がグイグイ進みそうだ。


「お待たせしました! 塩ダレキャベツと生ハムの切り落とし、やみつきガーリックシュリンプとポテトフライ、ライスになります」


「きたっ!」


「わあっ、ありがとうございます」


 待ち侘びていたライスの他に、私とハルで追加した物や、新たに注文された料理が怒涛の如く来て、次々とテーブルに並べられていく。

 これで、ライスを入れて食べられる料理は八品に増加。なんとも賑やかになってきた。もう、テーブルがお祭り騒ぎだわ。


「これだけ料理が増えると、圧巻ね」


「しかもさ? 結構多いように見えるけど、余裕で全部食べられちゃいそうなんだよね」


「そうなのよ。不思議だわ」


 出来立てのポテトフライを手で掴み、そのまま口に運ぶ。うん。出来立てだからカリッとしていて、芋の素朴な甘さを引き立てる、やや強めの塩味がたまらない。

 やっぱり揚げ物系は、出来立てが一番おいしいわね。油がしつこくなってきても、ケチャップがあるから、旨味を兼ね揃えた酸味が油のクドさを、綺麗サッパリ消してくれるわ。


「どうしよう。この空間が、だんだん好きになってきたかも」


「めっちゃ分かる。なんか、今がすごく楽しいよね」


「そう、楽しさもあるのよ。おいしい料理が、沢山あるせいかしら?」


 何度も頷きたくなる、私達共通の疑問に相槌を打ちつつ、カルビステーキを別皿に移す。こちらも餃子同様、鉄板に乗っていたから、冷めていなさそうだ。


「ちょっとこれ、ハマりそうだよね。値段も、まあまあリーズナブルだし、週一で来たいや」


「流石にそのペースは、ちょっと早過ぎじゃない? せめて梅雨明けみたいに、何かを祝う時に来たいわね」


「ああ、そうだ。梅雨明けを祝す為に、ここに来たんだっけ」


 ここに来た理由を、すっかり忘れていたハルが、苦笑いしながらポテトフライに手を伸ばす。


「あんた、そこ大事よ? そういう特別な気持ちになりながら来ないと、楽しさが半減しちゃうじゃない」


「あっははは、そうだね。だったら私、今からもっと楽しめるじゃん。やったー」


「確かに、そうなるわね」


 それ、なんだか一人だけずるくない? いや、そうでもないかしら? ハルの言い分だと、今まで私よりも、この場を楽しめていなかった事になる。

 そして今、当初の目的を思い出せたから、私と同じぐらい楽しめるようになった。つまり、ハルはようやく対等の位置に立てたのよ。そう考えると、別にずるくもなんともないわね。


「ちょっと、私を置いてけぼりにしないでよ? 楽しむなら、一緒に楽しみましょ」


「オッケー! さあ、ライスも来た事だし、ここからが本番ですぜ。どんどん食べるぞー」


「ふふっ、思う存分食べるわよ」


 テーブルの上は、正にビュッフェ状態。しかも、まだまだ料理が運ばれて来る。心強い味方のライスも来たので、準備は万端。ハルに遅れを取らないよう、私もエンジン全開で行くわよ!

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