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124話、梅雨明けを祝して、乾杯!

「お待たせしました! コーラとウーロン茶、塩ダレキャベツと、生ハムの切り落としになります」


「ありがとうございます」


「来たわねっ」


 ハルと会話を始めてから、数分後。まず持って来られたのは、各飲み物と料理が二種類。火を使わない料理だから、早く持って来られたようね。


「他の料理は、出来次第お持ちします。では、ごゆっくりどうぞ!」


 報告を欠かさず、会釈も忘れない店員が去っていった。残りは軟骨の唐揚げ、ホッケ、鉄板餃子と熱々カルビステーキ。この中だと、ホッケが一番最後かもしれない。


「さあさあ、メリーさん。乾杯しましょうぜ」


「確か、コップをぶつけ合うんだっけ?」


「そうそう。でも、強くやっちゃダメだよ? 軽めにぶつけてね」


 ここら辺は、インターネットで予習した通りだ。なんでも居酒屋だと、食事の挨拶は『いただきます』ではなく『乾杯』らしい。

 そして、コップに注がれた物を半分以上飲むと。一応、場合によって諸説あるとのこと。とりあえず、結露し出したコップを持とう。


「ではでは、いっくよー! 梅雨明けに祝して、かんぱーい!」


「乾杯」


 ハルが持っているコップに、私のコップを当てて『チン』と鳴らし、ウーロン茶を飲んでいく。ウーロン茶って初めて飲んだけど、渋みと苦みがまあまあ強い。

 けど、後味はサッパリとしていて風味が残らず、口当たりも軽い。これ、油を使った料理との相性が良さそうね。口の中を綺麗にリセットしてくれそうだわ。


「ぷはぁ~っ! 炭酸がすきっ腹に効くぅ~! さて、どっちから食べようかな?」


「ちょっと、ハル」


「ん?」


 料理に気を取られて、大事な工程をすっ飛ばそうとしたハルを制止し。持ったばかりの割り箸に指を差して、手招きをする。


「……え~と、あっ。すみません、よろしくお願い致します」


 数秒遅れて思い出してくれたハルが、割り箸に両手を添え、私に差し出してきた。ったく。ハルったら、毎回忘れるわね。

 差し出された割り箸を手に取り、水平に倒して、ゆっくり力を込めつつ割る。うん! 今日も完璧に割れたわ。これでハルも、おいしい料理を食べられるわね。


「はい、どうぞ」


「メリーさん、手慣れてきたね。すっごく綺麗に割れたじゃん」


「ふふんっ、当たり前でしょ。この世に、綺麗に割れない割り箸なんて無いわ。さあ、食べるわよ」


「そうだね。じゃあせっかくだし、生ハムの方からをっと」


 どうやらハルは、自分がチョイスした生ハムの切り落としを食べるようなので。私も手前にあった割り箸を割り、塩ダレキャベツを掴んだ。

 名前にあるタレは、油を含んだ薄い琥珀色。白ごまだけ振りかけられた、シンプルな見た目をしている。

 食欲をそそる匂いがするけど、たぶんゴマ油かしら? さあ、栄えある居酒屋での一品目。食べるわよ!


「あっ、すごい。止まらないわ、これ」


 見た目のサッパリ感を裏切る、濃いめの塩味。しかし、キャベツのみずみずしい甘味が中和してくれるので、まったくクドくならない。むしろ、もっと食べたくなるアクセントに昇華させている。

 そして、やはりゴマ油がいたわね。キャベツのシャキシャキとした歯応えの中に、ゴマの強い風味が見え隠れしているわ。

 待てよ? もしかして、ニンニクもいない? いや、間違いなくいるわ。生のキャベツとニンニクって、こんなに合うの?

 やってくれたわね、『楽楽らくらく』。最強の調味料達を掛け合わせたら、おいしいに決まっているじゃない。クセになりそうだわ!


「ハル、助けて。私の意志じゃ、手を止められそうにないわ」


「無心で食べまくってるじゃん。おいしい?」


「ヤッバイわよ。無限に食べられそう」


「おお、マジか。メリーさんが、初めてヤバいって言った。じゃあ、私も一口」


 塩ダレキャベツに釘付けになった視界の端から、割り箸が映り込み、残り僅かとなったキャベツを掴んで消えていった。


「う~わっ! なにこれ、めっちゃうまっ。確かにヤバいね。キャベツ一玉分出されても、全部食べられちゃいそう」


「でしょ? あ、無くなっちゃった」


「ええ~、もう一口食べたかったな~」


 体感的に、一分ぐらいかしら? 完食して、ようやく手が止まってくれた。恐ろしいわね、塩ダレキャベツ。ハルの言う通り、あったらある分だけ食べちゃいそうだわ。


「仕方ない。ハル、そっちの生ハムを貰うわよ」


「ごめん、食べ終わっちゃった」


「え? あ、本当だ……」


 塩ダレキャベツだけを見ていた視界を、ハルの手元にある皿へ移していけば、おいしそうな生ハムの姿はどこにあらず。代わりに、空になった皿だけが置かれていた。


「あんたも、食べるのが相変わらず早いわね」


「もうね、秒殺だったよ。マジで美味かった」


 そうあっけらかんと言い、テーブルに肘を突き、手の平に頬を添えたハルが微笑んだ。

 生ハムって食べた事がないから、笑顔でおいしいって言われても、まだ共感が出来ないのよね。


「この調子だと、私達って自分で注文した料理しか食べられなさそうね」


「ははっ、そうだね。次から気を付けないと」


 次の料理は、まだ到着していない。ならば、二人して同時に完食してしまわぬよう、何かしらの策を講じておかなければ。ついでに店員が来たら、また塩ダレキャベツを注文しておこっと。

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