123話、大人チックなテーブル席
「おっ、メリーさん。『楽楽』が見えてきたよ」
「看板が大きいから、一目で分かるわね」
待ちに待った梅雨明けの土曜日。天気予報は、空模様もご機嫌の快晴。その梅雨明けを祝し、ハル主催の祝賀会会場、居酒屋『楽楽』が見えてきた。
駅前広場の風景に溶け込んだ建物の一角にある、白い文字で描かれた『楽楽』という大きな看板よ。とにかく目立つから、遠目でもよく分かる。
入口付近にも、私達を誘うかのように、周りが規則的に点滅する眩しい電飾看板があり。迷わない為の配慮か、看板の下に『2F』と記されていた。
「入口には階段しかないし、お店自体は二階にあるみたいだね」
「そのようね。満席じゃない事を祈るわ」
「まだ夕方の五時だから、たぶん大丈夫だと思うけどね。とりあえず、行きますか」
特に心配していない様子のハルが先陣を切り、その背中を見上げながら追う。屋内に入った直後、背後から聞こえていた喧騒が遠のいていき。
階段を一段上がる度に、上前方からガヤガヤと活気に溢れた環境音が近づいてきた。この活気具合、中華料理屋や『銚子号』に比べると段違いね。
だんだん耳が騒がしくなってきたけど、果たして席は空いているのかしら? 一段上がる毎に不安も募り、勝手に開いた自動ドアを抜け、店内へ入った。
「へぇ~。想像してたより、中はオシャレね」
よくテレビ観た居酒屋は、広々としていて全席が見渡せるような店内になっていたのに対し。
楽楽は仕切りが多く、照明は控えめでモダンな雰囲気を醸し出し、まるで旅館を彷彿とさせる造りになっている。
この、目が落ち着くふんわりとした薄明るさ。なんだか、特別な場所に来たぞっていう気持ちになり、胸がそわそわと弾んでくるわ。
「いらっしゃいませー! 何名様でしょうか?」
「二名です」
普段とは異なる、モダンで大人チックな空気を味わっている中。もはや、聞き慣れた会話が聞こえてきたので、ハルを見失わないよう顔を移す。
「二名様ですね。席に案内致しますので、こちらへどうぞ!」
「分かりました。よかった、席空いてるっぽいよ」
「みたいね、早く行きましょ」
黒のTシャツを着た店員を追うべく、一歩遅れてハルに付いていく。少しぐらいは、待たされてると思っていたのに。案外、すんなり席に案内されてしまった。
大多数感じる人間の気配、四方八方から絶えず聞こえてくる談笑から察するに、店内はかなり広そうね。だから、自ずと座席数も多くなり、待たずに案内されたのかも。
入口を入って左側の通路を行き、流し目で左右の景色を見ながら、突き当りを右に行く。どのテーブルにも、決まって大量のコップが置かれているわね。
酒を一滴も飲んだ事がない私でも、ビールぐらいなら知っている。白いもこもことした泡が蓋をした、黄色い飲み物がそうだったはず。あとは、どんなに見てもまったく分からない。
「こちらの席へどうぞ」
「ありがとうございます」
「席も、これまた良い雰囲気ね」
主役の料理を際立たせるよう、艶が濃いテーブルだけを照らす柔らかな光。三方に高い仕切りが設置されているから、なんともくつろげそうな空間になっている。
「お冷とおしぼりをお持ちしますので、お掛けしてお待ち下さい」
「分かりました。私は向こう側に座るね」
「じゃあ、私は手前の方ね」
ハルに座る席を譲られたので、真ん中付近まで移動して腰を下ろす。座り心地は、抜群に良し。長時間座っていても疲れなさそうな、ちょうどいい固さだ。
「このテーブル、かなり広くない?」
「四人ぐらい座っても、全然平気そうよね」
この長方形をしたテーブル、二人で座るにはちょっと過剰な広さね。料理を十品以上頼んでも、ゆとりを持って置けそう。
「お待たせしました。お冷とおしぼり、メニューになります」
「すみません、ありがとうございます」
私とハルの手前に、氷入りのお冷とおしぼり、料理の絵付きメニューが置かれていく。
食べる料理は、事前に少し決めていたけど、もう一度だけ目を通しておこうかしらね。
「注文が決まりましたら、そちらにある呼び鈴を押して下さい。では、ごゆっくりどうぞ」
そう説明を挟み、軽く会釈をした店員が仕切りの外へ行った。さて、ここからは私達だけの世界よ。とりあえず、あの確認だけしておこっと。
「ねえ、ハル。食べたい物は、どんどん頼んじゃってもいいの?」
「もちろん! なんて言ったって、今日は梅雨明けのお祝い会だからね。制限なんて無いから、遠慮無しにどんどん頼んじゃってちょうだい」
私の期待を存分に後押ししてくれたハルが、元気よく親指を立てた。要は、制限時間無しの食べ放題状態って訳ね。
「そう、分かったわ」
だったら、お腹の具合と相談して、他の料理にも手を出してしまおう。けど、無理は禁物よ。もし頼み過ぎて残してしまったら、ハルに申し訳ないからね。
「ちなみに、メリーさんはどれを食べる予定なの?」
「そうね。まずは軟骨の唐揚げでしょ? それに、塩ダレキャベツとホッケにするわ」
「おっ、おつまみ系から攻めるんだね。いいなぁ、そのラインナップ。ザ・居酒屋って感じがするや」
当たり前じゃない。暇さえあれば、タブレットでメニューを眺めていたんだからね。お陰で、『孤独なりのグルメ』をほとんど観れていないわ。
「でしょ? ハルは、どれにするか決めてるの?」
「私は、そうだな~。鉄板餃子に熱々カルビステーキと、生ハムの切り落としから行ってみますか」
「うわぁ、名前からして絶対においしいやつじゃない」
そして、コーラが合いそうなラインナップだ。最初ぐらいはウーロン茶にしようと思っていたのに、コーラも一緒に頼んじゃおうかしら?
「ちょっと、ハル。私とあんたの料理、シェアしましょうよ」
「オッケー! んじゃ、頼んじゃってもいい?」
「ええ、お願い」
まず一戦目、私とハルで六品。カルビステーキを除けば、まずは様子見って所ね。そこから徐々に食欲のエンジンを掛けて、沢山料理を食べてやるわよ!




