122話、一大イベントの情報収集は、根気よく
「はりゅ……。あっちに、トマホークステーキの出店があるわよ……」
「ははっ。夢の中で、どこの夏祭りに行ってるんだろ」
海鮮祭りと夏祭り。祭り繋がりで、ごく自然の流れで夏祭りに誘ってみたものの。メリーさんは、超食い気味に快諾してくれた。
よかった。バナナスムージーを飲んでいる時に、ピンと思い付いて。あの乗り気な反応から察するに、たぶん行ってみたかったんだろうな。
よしよし。これで、私の思い描いていた夏の予定が埋まった。開催初日から最終日まで入り浸って、メリーさんとの親交をグッと深めていこうじゃないの。
「そして次は、秋だな」
秋に控えている予定は、果物狩りか渓谷釣り。時間に余裕があれば、両方行く選択肢もある。こっちは、切っ掛けを無理に探さず、突発的に誘っちゃってもいいかな。
もし一つに絞った場合は、どうしよう。果物狩りは種類が豊富だけど、現地では二、三種類の果物しか食べられないはず。そして、大体が時間制限付き。
一時間前後なら、飽きが来る前に終わるでしょう。物足りなさが残っていたら、次の場所に移動してしまえばいい。
早朝から仕掛けて、はしご前提で予定を組むと、移動時間を加味して回れるのは、せいぜい二、三件程度。いや、途中で昼食を挟むとして、二件が限界かな。
「ちょっと厳しいか?」
無理に移動するのはやめて、売店が色々ある農場一件に絞り、そこで一日中食べ歩きをするべきか? メインは果物狩りで、サブに食べ歩きをする感じでね。
「この近辺だと、何の果物狩りがあるんだろ?」
布団に潜りつつ、画面がやたらと眩しいスマホで調べてみる。メジャーなのは、イチゴでしょ? 他にぶどう、リンゴ、梨やら───。
「……げっ、二種類しかないじゃん」
果物限定だと、イチゴ、ブルーベリーのみ。嘘でしょ? 五種類ぐらいはあると踏んでいたけど、まさか二種類だけしかないとは。
これじゃあ、まったく話にならない。メリーさんに両方断られたら、全ての予定が狂ってしまう。
「くそぅ、北海道なら沢山あるのになぁ」
たった一つの果樹園で、さくらんぼ、梨、桃、ぶどうといった果物狩りが出来るっていうのに。一つの農場で、一種類の果物狩りしか出来ないとは。
流石に、果物狩りをするだけで北海道へ行く気にはなれないぞ。移動費だけで数万円掛かってしまうし、何よりも現実的じゃない。
よし、果物狩りは却下だ。他の案が浮かぶまで、渓谷釣り一本で攻めよう。
「なーんか、それだけじゃ寂しいなぁ」
メリーさんと出会ってから今までで、食べ歩きや外食を含めると、それなりの数をこなしてきた。この中で一番大きいのが、『アリオン』での食べ歩き。
時点で、メリーさんを私の家に泊める切っ掛けを作った、『銚子号』での外食。とは言っても、これは恵みの雨があったからこそか。
それ以外では、夏祭りや渓谷釣りという二大イベントが控えている。しかしこれらは、私が組み込んだイベントに過ぎない。
せめて一回ぐらいは、メリーさんが大喜びしそうなイベントを入れたいな。メリーさんが好きな物。料理番組、インターネットでの動画視聴、料理が絡んだドラマ……。
「これ、めっちゃいいんじゃないの?」
果物狩りにしか目がいっていなかったから、一旦ボツにしてしまったけれども。旅行目的なら、メリーさんに突き刺さるかもしれないぞ。
しかしそれでも、北海道へ行くのは厳しいな。移動手段は、せめて電車か、ギリ新幹線の自由席。時間も、一時間半圏内で行ける場所が好ましい。
かつ、栄えた観光名所があり、食べ歩きが出来る豊富なお店があり、一泊二日ぐらい泊まれる旅館があれば、なおよし。……あるのかな? そんな好条件が揃った場所なんて。
「一回、根気よく探してみるか」
幸いにも、最寄り駅から数駅乗れば、アクセスは最強になる。都心へすぐに行けるし、空港まで一時間掛からない。そうなると、結構幅広く行けそうだな。
時間は、まだたっぷりある。秋隣か本格的な秋になるまで、最高の旅行先を決めておかねば。景観良し、食べ歩き良し、旅館の料理良しな場所をね。
「はりゅ……」
「ん?」
メリーさんに呼ばれた気がしたので、恐る恐る布団の外へ出てみる。薄白い月光を纏った視界の先に、幸せそうな寝顔をしているメリーさんが見えた。
「トマホークステーキ、おかわりしてもいい……?」
「ああ、なんだ。まだ食べてたんだね、いいよー」
「わーい……、へっへへへっ……」
どうやら、夢の中で再びトマホークステーキを購入したようで。メリーさんの口が、むにゃむにゃとし出した。いいな、トマホークステーキ。私も食べてみたい。
「うわっ、たっけぇ……」
好奇心でトマホークステーキについて調べてみたら、一kgで安くても六千円前後するじゃん。
夢の中の私、震えながら金を払っていそう。ごめん、軽い気持ちでおかわりさせちゃって。
「さってと、そろそろ寝るか」
しっかり眠って、明日に控えている『楽々』に備えねば。それが終わった翌日、メリーさん達との駄菓子を満喫する。
『楽々』では何を食べよう。居酒屋へ行くのは初めてだから、実はめちゃくちゃ楽しみなんだよね。居酒屋なんだから、少しぐらい羽目を外しちゃおうかな。




