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109話、十円以上の満足感

「ほら、持ってきたわよ」


「キッタァアアーーッ!! って、おお~っ!?」


 ウルトラBIGチョコ以外にも、購入した物を全て持ってきて、テーブルに並べていけば。雄叫びを上げていたハルの声が、更に嬉々と弾けたものへ変わっていった。


「う~わっ、モロコヨーグルじゃん! なっつかしい~。カステラ串も、よく食べてたなぁ。ベビースターダストラーメンも……、あれ? 私が食べてた時は、こんなキャラじゃなかったよな? もしかして変わっちゃった感じ? ええ~、マジか。いつ変わったんだろ?」


 駄菓子を次々と手に取っては、色んな感情が籠った反応を示していくハル。とりあえず、ここにある駄菓子は全部知っていそうね。

 しかし、童心に帰ったようなハルの笑顔よ。駄菓子屋に居た子供達も、あんな顔をしていたっけ。


「それにしても、いっぱい買ってきたねー。これ全部、メリーさんが選んだの?」


「いいえ。子供達に、オススメを聞いて買った物もあるわ。私が自分で決めたのは、うんめぇ棒のコーンポタージュ味に、ベビースターダストラーメン。あと、わさびのり次郎の三つよ」


「へぇ~、ハズレが無い良いラインナップだね。わさびのり次郎も、一回食べると止まらなくなるんだよなぁ」


 モロコヨーグルを手にしたハルが、「ちなみに」と加える。


「わさびのり次郎の味違いで、蒲焼さん五郎ってのがあるんだけどさ。それ、私のオススメだよ」


「ああ、蒲焼さん五郎ね。確か、男の子にオススメされた中にもあったわ」


「なるほどぉ? その子、分かってんじゃん」


 どこか先輩風を吹かしてキメ顔をしたハルが、親指をグッと立てた。今日のハル、やたらとテンションが高い。見ていて面白いから、定期的に駄菓子を買ってきてあげよっと。


「そしてぇ、待望のウルトラBIGチョコ! この大きさで、なんと五十円ですぜ!? いやー、今でも安く感じるね~。当時は、大変お世話になりました」


「やっぱ、ハルもそう思うわよね? 買う前に値段を聞いた時、私も何かの間違いじゃ? って、驚いたわ」


「そうそう。百円ぐらいしてても、全然おかしくない大きさだよね。初めて値段を知った時は、これもう一つ買えるじゃん! てな感じで、テンション上がったなぁ」


 そう。私も心の中で、ハルと似たようなリアクションをしたわ。百円を持って行けば、ウルトラBIGチョコが二つも買えるじゃないとね。


「ではでは、半分だけ食べさせて頂きますね」


「どうぞ。他にも食べたい駄菓子があったら、半分食べていいわよ」


「ま、マジっすか!? ……となると、ウルトラBIGチョコは最後に食べた方がいいな。一つずつしかないわさびのり次郎と、モロコヨーグルは外すとして……。ええ? それでも究極の選択じゃん。ど、どうしよう?」


 珍しく悩み始めたハルが、ヤングヤングドーナツ、カステラ串、こぉ~んポタージュ、ベビースターダストラーメンを険しい表情で見返していく。

 限りある駄菓子の前では、あのハルでさえ頭を悩ませると。遠慮はしなくていいと後押ししてあげたいけど、なかなかレアな光景だし、そっとしておこう。


「さてと、まずはコーンポタージュ味からっと」


 うんめぇ棒を手に取り、てっぺん部分を両手で掴み、中身が割れないよう優しく開けていく。見た目は、真ん中に穴が空いた黄色くて長い棒状。

 所々に、緑色をした小さい物が点々とあるけれども。これは、たぶん青のりね。さり気なく散りばめられた配色が、良い具合に食欲を刺激してくるわ。


「わぁっ、まんまコーンポタージュの味がする」


 固そうな表面を、『サクッ』と軽い音を立てて噛んでみれば。中は、想像していたよりもふわふわな食感をしていて、瞬く間にスッと溶けてしまった。

 その拍子にぶわっと出てくる、濃厚なコーンポタージュの風味よ。滑らかな塩味を感じれば、コーン特有のコクを含んだ甘みもあり。

 味が良く似ているから、コーンポタージュを食べたい欲も、しっかり満たせる。そして、量もそれなりにあるので、一本に対する満足度も高い。


「へぇ~、おいしい。値段もお手頃だし、何本でも食べられそうだわ」


「おっ? どうやらメリーさんも、うんめぇ棒にハマったご様子で?」


「ええ、見事にハマったわ。この味が十円で食べられるなんて、すごいわね」


「でしょ? うんめぇ棒は子供達とって、最強の味方なのさ。ちなみに、その二つもマジで美味いから、是非ご賞味あれ」


「そうね。じゃあ次は、めんたい味を食べようかしら」


 未だ、ウルトラBIGチョコ以外の駄菓子を決められていないハルに催促されたので、紫色をした梱包のうんめぇ棒を手に取る。

 先ほどと同じ要領で開けてみると、なんだか揚げ物を彷彿とさせる、カリカリの衣を纏っていそうな色合いをした物が出てきた。

 これ、見た目がずるくない? なんだか無性に、ご飯が欲しくなってくるわね。匂いも、食欲をそそるパンチの効いた香ばしさがある。


「あっ、ほんのりとガーリックの味がする」


 食欲をそそる匂いの正体は、ガーリックね。ふんわり感じる程度の収まっているけど、流石はガーリック。どこに居ても目立ちたがり屋だ。

 食感や溶け具合は、コーンポタージュ味とほぼ一緒。でも、味はまったくの別物。とにかく全てが濃ゆい。

 やや強く尖った塩味に、ガツンと攻めてくる各種類のスパイシーな波。それらを乗り越えると、待っているは、濃厚な旨味がギュッと詰まった程よい辛さ。

 この後からくる旨辛が、また絶妙ね。じわじわ辛くなってきたかと思えば、ちょうどいい辛さで止まり、後味と共に弱まっていったわ。


「めんたい味、すごくおいしいわね。これが一番好きかも」


「いいよね、めんたい味も。なんか、もう二、三本ぐらい食べたくなる味をしてない?」


「そうね。一本だけだと、なんだか物足りなさを感じるわ」


 確かに、味付け自体は濃い。けど、ただ濃いだけじゃない。クセになる後引く濃さがあるのよ。今回は一本だけしか買っていないので、次回は五本ぐらい買い溜めしておこう。


「よし、決めた! メリーさん、カステラ串を半分ちょうだい」


「ふふっ、ようやく決まったのね。ええ、どうぞ」


「ありがとう! いっただっきまーす」


 ニコニコ顔のハルが、鼻歌交じりでカステラ串を開けていく。さてと、私も締めのシュガーラスク味を食べようかしらね。

 白が目立つ梱包を開けると、鼻をふわりとくすぐるバターの匂いが、私を出迎えてくれた。

 形状は、前に食べた二つと同じ棒状なのに対し。シュガーラスク味だけには穴が空いておらず、空洞が見当たらない。

 味によって、形もちょっと違ってくるんだ。色は、コーンポタージュの黄色みを薄くした感じね。さあ、泣いても笑っても、最後のうんめぇ棒よ。しっかり味わって食べよっと。


「わっ、あっま~い」


 舌が辛さに慣れていた事もあり、余計に甘く感じる。けど、そこまで甘ったるくない。バターの芳醇な風味と上手くマッチしていて、体が求めていた優しい甘さに収まっている。

 唯一空洞が無いので、他の二つに比べて噛み応えがプラスされているも。やはり二、三回ぐらい噛むと、後味と共にスッと消えていってしまった。

 コーンポタージュ味やめんたい味を、連続で食べた事により、重くなってきた口の中もサッパリしたし、箸休め目的で挟むのもアリね。

 あと、バターが使用されているから、牛乳との相性も良さそう。ならば今度、『孤独なりのグルメ』を観ながら試してみよっと


「うん。あの子供達、センスが良いわね。どれもすごくおいしかったわ」


 しっかり食べたという実感が湧いているのに、掛かったお金は、合計でなんと三十円。未だに信じられない安さだ。どれもこれも、十円以上の満足感を得られたわ。


「くぅ~っ、これよこれ! 味も全然変わってないじゃん! あんまぁ~」


 待望のカステラ串を食べたハルが、至福の唸り声を上げた後、なんとも幸せそうにとろけた笑顔を浮かべた。ほんと、子供みたいに無邪気な顔をしちゃって。

 ああいうハルの顔を見ていると、私も嬉しくなってくるのよね。声を掛けて邪魔するのも、なんだか悪い気がするし。少しの間だけ、静かに見守っていよっと。

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