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プロローグ

 私、メリーさん。今日、不思議な人間に出会ったの。

 その人間は、私が背後まで来ても驚いてはくれず。台所に立ち、私を無視して何かを作り続けていた。


 例の人間が住んでいたのは、オートロック付きのマンションで、階数は五階。扉の鍵もちゃんと閉まっていた。

 なのに私が部屋に来て、電話越しからではなく、声が直接聞こえる距離まで近づいたのに。例の人間は怯えず、逃げる素振りも一切見せず、台所に立ち続けていた。


 私が『後ろを見て』と言っても、人間は『料理を作ってるから無理』と、ぶっきらぼうに返してきた。

 こんなに素っ気ない反応、今までにない初めての事だったから、逆に私が困ってしまった。

 普通の人間なら、一回目の電話で困惑し。二回、三回と電話を続けると、だんだん涙声になっていき。

 部屋に着けば、隅で見るも無残にガタガタと震え、決まって命乞いをしてきたというのに。


 けど、例の人間は一体なんなの? 私に命乞いをしなければ、命令もまったく聞かず。『これを飲んだら、さっさと帰って』と、一杯のお味噌汁を渡してきて、私をやり過ごそうとする始末。

 しかし、お味噌汁を飲み干して、ちゃんと帰ってしまった私も悪い。だって、仕方ないじゃない。例の人間から貰ったお味噌汁、本当においしかったんだもの。


 シャキッとした歯ごたえがたまらない、長ネギ。ほんのりと甘い豆腐。そして、私の心を、暖かい優しさで満たしてくれたお味噌汁。

 料理を食べたのは、あれが生まれて初めてだったけど、なんて言えばいいんだろう? とにかく衝撃的だった。例の人間を殺せなかったのは、もうどうでもいい。

 今まで積み重ねてきた功績が崩れ去り、メリーさんの名が廃ってしまっても構わない。例の人間が作った料理を、もっともっと食べてみたい。


 また明日行けば、例の人間は、私に料理を差し出してくれるかしら? 料理が食べたいと正直に明かすのも、何かと癪だし。この際、しつこく付きまとってみよう。

 そしてしばらくの間は、様子を見て泳がせてみる。それでも料理をくれなかったら、いつものように、私がこの手で。

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