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美術館に行ってきました 2)牢獄のサロメ 国立西洋美術館所蔵

 The Head of Yohanan!


 オペラ歌手の美しい声が血なまぐさい言葉を叫んだ。字幕に「ヨハネの首を」とあった。日本語の「首」が英語だと「頭」になるのかと思いながら、「ヨハネの首」を求めた「サロメ」を演じる歌手を、私は眺めていた。


 運命の女、ファム・ファタル(仏語femme fatale)という言葉を知ったのは、一枚の絵がきっかけだ。19世紀の画家、ギュスターヴ・モローが描いた「踊るサロメ」だ。「刺青のサロメ」という別名もあるほど妖艶なサロメが、父を殺し国王となった叔父エロドの前で踊る場面が描かれている。


 サロメの物語の詳細は、聖書や聖書をもとにしたオスカー・ワイルドの戯曲にある。


 父を殺し、自分に色目を使う叔父エロドに妖艶な踊りを披露したサロメは、何でも好きなものを褒美に取らせるというエロドの言葉に、ヨハネの首を要求する。ヨハネの首を手に入れたところで、ヨハネが手に入るわけがない。それどころか、ヨハネの命は失われ、永遠に誰の手も届かくなる。手に入れたことで失う、なんとも虚しく残酷で悲しく恐ろしく虚しい願いだ。


 国立西洋美術館に、ギュスターヴ・モローの「牢獄のサロメ」があった。画面の片隅では、跪くヨハネの首がまさに切り落とされようとしている。画面の中央でサロメは、片手に持った花を口元に近づけ物思いにふけっているかのようだ。


 願いが叶おうとしているのに、サロメはヨハネの処刑に背を向けて足元を見つめている。欲しいといったものを手に入れようとしている人には見えない。手に入れることで永遠に失うことをわかっていて、それでも求めずにいられない己の矛盾に沈んでいるようだ。


 ファム・ファタル、「男にとっての運命の女」であり「男を破滅させる女」が、己の運命も破壊して、何を手に入れようとしたのだろうか。美しく悲しく恐ろしい絵だった。



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