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虚構の夢人  作者: 柊
13/21

十二

 混乱は治った。

 龍人族も多少は怪我を負ったものの、致命傷はわずかで、死者は出ていない。その代わりに、辺りには、魔術師達の死体が無数に転がっていた。


「終わったようだな」


 どこに居たのか、蒼公がひょっこりと悠李の前に現れた。衣には血がついており、彼もまた、魔術師と戦っていた。


「戦えたのですね」

「これでも、俺も、龍人族だ。このぐらいであれば、戦える」


 このぐらいというが、妖魔討伐を軽々熟せる者達で編成した筈だ。蒼公もまた、その一人に含まれる事になる。

 元老院は強くないと成れないのだろうか。そんな疑問が悠李に浮かんだ。


「案外、簡単に終わったな」

「そうですね。私の情報が古いので、少々心配でしたが、杞憂でした」


 悠李が魔術師として、正式に活動していたのは二十七年も前になる。だが、時間がどれだけ経とうとも、案外、何も変わらないのだと、悠李は安堵の息を吐いた。


「こっちも終わった」


 祝融が、リショウを引きづりながら現れた。祝融がリショウを適当に放ると、僅かだが呻き声を上げる。右腕に大火傷を負った状態だったが、まだ息はあるようだった。

 悠李は、転がるそれに近づくと、右腕をじっくりと観察していた。焼け爛れ、炭の一歩手前と思える程に焼け焦げ、肉なら焼き過ぎと言える状態だろう。神経が生きているかどうかも怪しい。


「これでは、腕が使い物になりませんね」


 同情している訳では無いが、哀れには思った。これだけの火傷は、尋常な痛みでは無い筈だ。


「手応えは如何でしたか?」

「まあまあだな。お前に任せても良かったかもしれん」


 落ち着き払ったその姿に、悠々として答える。要は大した事は無かったと言う事なのだろう。


「しかし、目が覚めて大人しくしていてくれるだろうか」


 蒼公はどうやって捕えておくべきかを悩んでいる様だった。当の本人も暫く目を覚ましそうには無い。


「魔術は精神が乱れると、使えません。念の為、結界を作っては置きますが、多分痛みでそれどころでは無いと思います」


 そう言って、悠李は袖から幾つかの魔素の塊を取り出した。


「前に見せてもらった物より大きいな」


 蒼公は、それらをまじまじと見た。


「前は、僅かに取り出しただけですが、この大きさで命一つ分です。勿体無いので、取り出しておきました」

「流石だな、戦いながら、そんな事までしていたとは」

「魔術師をただ殺すなど、魔術師から見れば、宝を捨てる様なものですし」


 悠李が何気なく言った言葉に祝融は眉を顰めた。


「これで結界を作れます。結界の中では、魔術は使えません」

「そう言うものか」

「あくまで、体内にある魔素を体外に出す事が出来なくなる物ですので、死ぬ事はありません」

「専門外だ、任せる」


 蒼公は軍に指示して、リショウを治療し、拘束する様に言った。


「痛みを軽減させるものは使うなよ。あくまで殺さないための治療だ」


 リショウは瑠璃城に拘束される事となった。ルネも同様に連行され、問題は一つ片付いた。


――


 瑠璃城にて、リショウの魔素を封じ込める結界を作り、悠李と祝融は宿泊先に戻った。が、何故か祝融の顔は曇ったままで、邸宅に着くなり、悠李を強引に自室に引き連れ込んだ。

 あまりにも強引な上、説明も無い。只、無理矢理に腕を引っ張られる中でも、悠李の目に映る祝融の表情の雲行きはどんどんと怪しくなるばかりだ。更には、慌てて後をついてくる豪雷と花月に誰も近づけるなと命じている。どう考えても――


「(怒っている)」


 それは見るも明らかだった。

 話があるのなら、椅子を進めるだろう。部屋へと無理矢理連れ込んだかと思えば、祝融は悠李の胸ぐらを掴み、睨んでいた。意味もなく、この様な事をする人では無いと悠李は知っていたが、あまりに突然で少しばかり驚いた。


「あれは一体何の真似だ」


 あれが何を指すかなど、悠李は考えるまでも無かった。


「……何の事でしょう」


 悠李は惚けて見せたが、どうにも最悪の人物に見られていたのだと気が付いた。


「お前は、最長老とやらを人の命を喰う獣と言ったが、お前がやった事は同じでは無いのか?」


 躊躇いでもあれば、まだ良かったのだろう。だが、悠李は子供が飴玉でも頬張る様に、人の命を口に含んでいく。悍ましいとすら思える光景に、祝融は愕然とすると同時に怒りが込み上げていた。

 悠李は方法を知っていれば、実行も出来る。過去にそれをやった事があるなど、知っていた事だったが、それは、あくまで逃げるための手段だったのだと、気にも留めなかった。

 だが、今回は違う。

 只の無用な行いであり、己の欲を満たす為だけの行為であると、口にしたばかりだった。

 祝融の確信と怒りに対して、悠李の表情は落ち着いたものだった。


「私が喰らったのは、同類ではありません。所詮、敵です。剣で人を殺すか、命を取り出し私に取り込むか……それだけの差です」


 同類で無ければ、人の命を喰らっても何も問題無い。悪意のない事が、より腹立たしかった。

 それは、国を隔てた考え方の違いでもあったが、この国に暮らして十五年になると言うのに、未だそちらの考えが染みついたままなのだと言っている様なものでもあった。


「ならば、何故堂々とやらない」


 悠李の顔に影が落ちた。


「わざわざ、醜い様など見せる事は無いでしょう?」



 悪気など無く、ただ見られたく無かったと言う。子供の言い訳でしか無い言葉に、祝融は怒りを抑えられなかった。


「その所業が異形と知っていて、何故その手段が選べるのかと訊いているのだ!!」


 祝融は声を荒げた。それを見ても尚、悠李は態度を変えなかった。


「お前は、人で在りたいのでは無かったのか!」


 その言葉に、悠李はポツリと呟いた。


「人で在る為には、手段など選んでなどいられません」


 矛盾しているとしか言えなかった。人である為に、人から外れた手段を選ぶ。それでも、悠李が人で在りたいと思うことに変わりはない。


「祝融様も、危惧されているのでは?この国の存在が、外界に認知されようとしている事に」

「……まだ、不確定要素だ」

「リショウで腕を試したのは、その為でしょう?」


 祝融の手に力が篭った。


「私も、この国に神がいる事は信じています。ですが、この国の方ほど、信頼はしていません」

「封印は存続するはずだ」


 祝融は過去に聞いた過去の()()の言葉を信じていた。

 だが、悠李はそれを知らない。知っていたとしても、悠李には然程意味はなかっただろう。


「何故?現に、外界から人は来ました。弱っている……又は消えたと考えるべきでは無いのですか?」


 元々、信仰心の無い国から来た悠李にとって、神などその程度の存在なのだと、祝融は思い知らされた。


「それが、お前の言い訳か」

「……私は、自由で在りたいだけです」

「今も大して自由では無いだろう」

「気に入っていると言いました。本心ですよ。私の居場所があり、評価される仕事があり、信頼してくれる人がいる……そして、心の自由がある。これ以上、何も望んでいません」


 祝融は悠李の胸ぐらを掴んでいたそれを、手荒く離した。

 悠李は襟をそれとなく直し、目の前で睨み続ける祝融に向き直った。嘘偽りなく本心を述べているのだと主張する様に、祝融から目を逸らさない。

 祝融は、そんな悠李の姿を見ながらも溜め息が出た。

 最近は、説教ばかりだ。

 丹でも、蚩尤に対して似たような状況になった。そして、今度は、悠李。


 ある意味、お似合いの夫婦だ。お互いが不安定で、そこを補い合うように依存している。


「(とても真面とは言えない)」


 祝融は椅子に座り、怒るのも馬鹿馬鹿しいと茫然と悠李に問いかけた。


「お前は何処まで考えている」

「リショウが戻らない事を最長老がどう考えるかは、分かりません。ですが、警戒は必要でしょう。何より、外界は辰だけでは無い。辰がこの国を見つけたのなら、他の国が此処を見つけるのも、時間の問題かと」

「それも理由か」


 悠李は頷いた。悠李なりの考えが有る事が、救いではあった。

 外界から来た者の考え方。蚩尤が否定しなかった、それを、祝融も同様に必要ではあるとは考えていた。


「(これで考え無しだったら、思い切り殴っていたな)」


 まあ、そんな女なら、蚩尤に好まれる筈も無いが。祝融は、これの前で威厳など必要は無いと、肘を突き、姿勢を崩した。


「とりあえず、智庚様から届いた書物を調べてみます。ただの暇つぶしで持ってきたものかもしれませんが」

「それに関しては、任せる。不要なら、内容は知らせなくて良い」

「承知しました」


 祝融は下がって良いと、手をひらひらと振ると、悠李は部屋を出た。


――


 居間には、複数の書物の他に、魔術師が居なくなり不要になった物も、いくつか置かれていた。

 ペンとインク、辰の書物、そして煙管とその葉に、紙煙草。智庚によれば、使い方を知る悠李が持っていれば良いと、蒼公から命じられたとの事だった。

 悠李は早速と、長椅子に腰掛けると煙草を咥えた。掌に火を浮かべると火をつけた。

 それ程数が残ってはいない。本当に()があるかなど分からない代物を、惜しむ様に、深く息を吸い、それを堪能しする。

 悠李は、煙草を吹かしながら、祝融の先程の形相を思い出していた。異形の者を見るというよりは、純粋な怒り。自分が働いた悪事に対して、今更ながらに、真っ当な説教を受けたのだと感じていた。

 悠李は自分を、祝融にとって只の手段だと考えていた。なのに、その手段の為に彼は怒りを見せた。どうやら、娘では無いにしても、それなりの情はあるのかも知れない。

 これからを考え、自分の保身と、丹の為だと思ってやった事だった。出来れば、リショウの魔素も、自分の物にしたかったが、この分では祝融が許さないだろう。

 祝融の信用を貶める気は更々無いのだ。忠誠を誓った訳ではないが、悠李は祝融を信頼していた。

 彼が望まないのであれば、するべきでは無い。

 悠李は、紫煙を吐き出すと、目の前に積まれた書物を一冊手に取った。中身に軽く目を通し、現状必要で無いものは、省いていく。

 その中で、一冊、目に留まるものがあった。他の魔術書とは違い、()()を解読した様な内容に、悠李は一心不乱にそれを読み込んでいった。


――


 日が沈み、祝融は居間を覗いた。中では、蝋燭の灯りだけを頼りに一心不乱に書物の内容を書き付けながら、作業をする悠李が目に留まった。漸く淑女らしくなってきた矢先でもあったが、今の格好は背を曲げ煙草を口に咥えながら、剰え、湯呑みの中に吸い終わった煙草を入れている。

 どう見ても淑女とは程遠い。もしかしたら、これが本来の姿かと思うと、呆れを通り越して、感心すらした。


「いつの間にくすねた」


 その声で祝融が部屋に入って来た事に気づいたようで、悠李は顔を上げた。


「智庚様からの贈り物です」


 その顔は、久しぶりの嗜好品に満足しているのか、得意げだ。

 欲しがっていたから、余り物が届いただけだろうとは思ったが、祝融は悠李の卓越しの椅子に座ると、手を出した。


「一本寄越せ」

「良いですけど、慣れないと、また咽せますよ」


 残り少ないが、惜しむ事は無く、一本渡す。祝融が口に咥え、先に手が触れただけで火が着く。見様見真似で煙を吸い込む仕草は不慣れだが、今度は咽せる事は無く、煙を吐き出していた。気に入ったのか、深く吸い込んでは、吐き出すを繰り返している。


「進捗は?」


 煙を吐き出しながら、祝融は口を開いた。


「正直、手がかりと呼べるかどうか……」


 悠李は、書き留めた紙の中で、一枚だけ祝融に渡した。珍しく、自信がなさそうに言う悠李の姿に、祝融は首を傾げながらも、それを見た。


「これは……」


 そこには、神話が綴られていた。

 外界と言われる場所から、神々がこの国を創り上げ、白仙山と青海によって封じられた、遠い、遠い昔話。


「恐らく、誰かこの話に関する文献を見つけ、それを頼りにこの国まで来たのかと」


 悠李の言葉が聞こえているのか、いないのか、祝融は真剣にその紙を見つめていた。


「正直、白仙山が神の力で作られたものと言われても、信じ難いのですが……」


 いくら神でも、地形を変える事など、出来るのだろうか。悠李は、あくまで、信仰心の無い魔術師がこれを調べたから、唯一の手がかりと解読しただけだった。

 信仰無い者が、これを信じてここまで来るのだろうか。

 訝しむ悠李を他所に、祝融は内容を繰り返し読み込み、そして口を開いた。


「これと似た話が、こちらにも存在する」


 悠李は、てっきり、的外れだと一蹴されると思っていた。予想外の言葉を口にした祝融は、言葉を続けた。


「知っている者は殆どいないだろう。恐らく、皇宮に保管された書物になら在るだろうが」

「では、事実だと?」

「山を打ち立てたかどうかは定かでは無いが、神々がこの国を作り、男神が守っていた話は存在する」


 祝融は、もう居ないが、と胸の内で呟きながらも更に続けた。


「そして、この女神は、お前の中に居たものだろう」


 悠李は目を見開いた。

 悠李には、その内容に思い当たる節があった。ただの夢だと、気にも留めなかった事柄が一つだけ、脳裏に蘇った。


「……()()が抜けた後、夢を見ました。故郷には、女神の信仰があり、私にしか聴こえない()がありました。その声に導かれ、幼い私は、一度だけ白仙山を登ろうとした。両親に止められて、成し得なかったのですが……」


 あくまで、夢ですが。と悠李は言った。


「悠李、夢には意味が有る」

「でも、私には、故郷の記憶は殆どありません。ただの夢の可能性も……」

「偶然と考えるか、必然と考えるかは、お前次第だ。だが、女神の存在の記憶が無いにも関わらず、女神の信仰があったなど、考えるか?」


 悠李は思い悩んだ。神を信じても、信仰心が生まれるわけでは無い。その力を信じていないわけでは無いが、荒唐無稽とすら言える事柄に、悠李はどう考えていいかすら浮かばなかった。


「お前は、自分がそう言った事象の一つであるのにも関わらず、神の話になると、途端に飲み込みが遅くなるな」

「……申し訳ありません」


 申し訳無さそうな悠李の顔に、祝融は息を吐いた。育った国の違いなだけに、仕方が無いと言うしか無い。


「この書物に目をつけただけでも、良しとする」


 祝融は、悠李が訳したいくつかの書き付けを見た。読み込む限りでは、あちら側に女神の眷属とされる一族が残ったのだろう。


「仮定だが、お前はあちら側に残った者達の末裔……なのだろう」


 ()()は、悠李を我が子の様な目で見ていた。偶々、力を授けただけの存在では無く、元より、我が子同然の一族なら、頷ける。


「この話を残した者も同様と考えて良いだろう。まさか、利用されるとは考えていなかっただろうがな」


 悠李には疑問だけが残った。何故、神々は大陸より姿を消し、小さな国を創ったのだろうか。偉大な力を持つのなら、それを誇示すれば良い。


「神々は、何を考えこの地に住んだのでしょうか」

「……さあな。俺もそこまで長くは生きていない。俺が生まれた時には、この国の初代皇帝は存在しなかった」

「初代皇帝は炎帝では?」


 悠李は首を傾げた。

 祝融の()()()()()を考えれば、彼は炎帝の時代から生きている筈だ。


「あくまで焔暦だ。その前は、太昊(たいこう)と言う名の皇帝が居た。風一族が末裔に当たるが、その方が、初代皇帝と言われている」


 一体、どれだけ前なのだろうか。悠李は漠然と考えたが、陽暦で九百年。焔歴だけでも千二百年の年月がある。さらにその前の時代の事を考えるとなると、思考を放棄すらしたくなった。


「俺も詳しくは知らんが、突然姿を消したとだけ聞いた事がある」


 それらに関する資料はほとんど無く、誰も知らないも同然の存在だと言う。


「とにかく、船人達がこの国を目指してきた事に間違いは無いな。問題は、どうやって四海竜王の神域を通り抜けたか……」


 祝融は吸い終えた煙草を手で握り潰し、火を消した。彼の異能故か、その手に灰は付いても、火傷の痕は無い。奇異なものを見ている気分の中、悠李は目の前の人物よりも、更に神に程近い人物を一人思い出した。


「……あの、神子様にお話を伺う事はしないのですか?」


 悠李は以前、自分の中から、神なる力を取り出した存在を思い出した。

 神子リュカ。今彼女は、神子として、龍人族の力を借りながら、神殿を取り纏めている。

 時折、会いに来て欲しいと、手紙が届き、悠李もそれに応じて、お茶をする仲ではあった。神子は神の言葉を聞けると言う。なのに何故彼女の力を借りないのかが、悠李には疑問だった。


「リュカはあくまで白神の神子だ。四海竜王には通じていない」


 悠李はこの国の常識が完璧では無い。特に、神学は苦手で覚えきれていない部分が多い。


「白神の力を借りても無理なのでしょうか」

「四海竜王が、力を貸して欲しいとでも白神に言えばそれも叶うかもしれんが、難しいだろうな」


 ならば、これ以上調べ様も無いとしか言えなかった。


「後は蒼家に任せるしか無いがな。神事は国事だが、四海竜王ばかりはな……」


 神にも領分が有る。彼等は人の住まわぬ青海のみを守った。

 それが意味するものは何だろうか。

 考えたところで到底手の及ばぬそれに、悠李は思考など無駄と煙草に手を伸ばし、また火を付けた。

 煙を吐き出しながら、悠李は目の前に座って此方を見据える男が視界に入った。先程の怒りは消え、何食わぬ顔でそこにいる。


「身体には毒なのだろう」


 悠李は口に咥えたそれを手に取り見た。確かに毒だ。血の巡りを遅らせ、その毒を脳に運び、思考を鈍らせる。

 それでも、その思考が鈍る感覚が、悠李には必要な時があった。


「私には、あまり意味は有りません。不死身故、只人程効果は無いでしょう」


 煙草を咥え、書物の頁を捲る。必要かは分からないが、まだ解読出来ていない部分を書き付けていく。

 悠李は一本を吸い終えると、その手を止めた。顔を上げ、未だ動かずそこにいる男と目を合わせた。


「先程は申し訳ありませんでした。軽率な行いをしました」

「蒸し返して何が面白い」


 祝融は、またも呆れた表情を見せた。

 別に蒸し返しているわけではない。只、自分の行いが、非人道的で有るとわかっていると、主に対して示しておきたかった。


「二度とやらないとでも誓うのか?」


 悠李は静かに頷いた。

 従順。その言葉に尽きる悠李の姿だけが、祝融の目に映っていた。


「決して俺を裏切ってくれるなよ」

「御意」


 悠李は静かに頭を下げた。


『頭を下げる相手を間違えるなよ』


 昔、祝融に言われた言葉だった。

 悠李にとって、その相手は祝融だ。誠意を示すだけで無く、忠実な存在だと、意志を見せた。

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