共同作業
「ふむ。竹串か」
「ああ。それと、俺の荷物から筒を」
「分かった。――これは、何かの粉か」
「驚かないでくれよ、塩だ」
道具たちを渡されながら、おどける。
焼いた魚に塩ひと振り、気分次第でもうひと振り。
一度うまさを味わって以来、欠かせぬ付き合いだった。
数少ない、山民の覚えた贅沢だ。
「この時勢、かなり高いはずだろう」
「馬鹿正直に買えばな。こいつは塩賊から買ったし、ざっと半値って所だ。まあそれでも、高いことは高いけどな。もちろん、師尊は遠慮なく使ってくれ」
「大切なものだろう」
「だからといって、墓まで持っていける訳でもねえさ。無理して使わなくてもいい。でも気に入る程度に使ってくれ、その方が、俺の気分もいい」
受け取った串へ次々、魚を通していく。
昼の食事準備は山民の仕事だった。
別段、恩に着せるでもない。
今までやっていた一人分の準備。
それが二人分に増えただけだ、やる事は変わらない。
そして自分がやれる事を、他人に任せる必要はない。
ごく自然に、そう考えている。
この時は少し違った。
作業中、師尊の視線を感じるのだ。
いつも通り、表情を崩してこそいない。
だが手元を見ることそれ自体が、興味を持っている証拠だ。
手元の魚串を砂地に刺し、残りの物を確かめる。
魚も串も、ふたつずつ残ってる。
その気まぐれが、次のひと言を口にさせた。
「やってみるか?」
「――ふむ」
保留する様子ではない。
ならば肯定と見て、ひとつずつ、魚と串を差し出してみる。
「一応、言っておくが……無理にやらなくても良いぜ」
「いや」
おずおずと、両手を出してきた。
そのまま、魚と串とを渡す。
こちらを観察していたのだ、何となく察せはするはず。
こちらはこちらで、残るひとつの魚を串に通すことにした。
師尊へは何をするでもない、ただ見守ることにする。
そう決めたはずなのだが。
どことなく、気分は落ち着かない。
「……助言とかそういうのじゃねえ、ひとり言と思ってくれ」
決して助言ではない。
あくまでも、これはひとり言。
自分の分の魚と串を持ち、続ける。
「串は頭から尻尾に通す。小さい魚なら、いったん身を曲げてそこを刺す。大きい魚なら、じっくりやるより一気に通した方が簡単だ。ただ、貫通する先に手を置くと、怪我することもある」
背中から魚を持ち、竹串を通して見せる。
そのまま、串を砂地に刺し立てた。
これで 四半刻 もしない内、魚は焼き上がるはずだ。
焚き火のかたわら、腰を下ろした。
今度こそ、山民が見守るときだ。
「ふむ」
手つきは少したどたどしい
わずかに何かを決めたような表情。
そのままひと息に、串は魚を貫通するものと思えた。
焚き火の合間、かすかに鈍い音が聞こえる。
「? どうした?」
思わず怪訝な顔になる。
師尊の手が、途中で止まったからだ。
「硬い」
「そんなはずは……」
「だが事実だ」
「なら危ないかも知れねえ。一度、こちらに渡してくれるか」
「――ふむ。分かった」
左手で受け取り、まだ早いと知りつつ安堵する。
それ以上の危険へ、ともあれ師尊を晒さずに済んだのだ。
片手で荷物から小太刀を取り出し、考える。
手応えからして、身の方はそう硬くない。
刃こぼれに気をつけながら、じゅうぶん捌けそうだ。
山民は魚の腹を持った。
背の側から刃を入れ、半身に魚を割く。
「……こいつは?」