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斬月記  作者: 祭谷一斗
一章 川辺にて
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共同作業

「ふむ。竹串か」

「ああ。それと、俺の荷物から筒を」

「分かった。――これは、何かの粉か」

「驚かないでくれよ、塩だ」


 道具たちを渡されながら、おどける。

 焼いた魚に塩ひと振り、気分次第でもうひと振り。

 一度うまさを味わって以来、欠かせぬ付き合いだった。

 数少ない、山民サンミンの覚えた贅沢だ。


「この時勢、かなり高いはずだろう」

「馬鹿正直に買えばな。こいつは塩賊から買ったし、ざっと半値って所だ。まあそれでも、高いことは高いけどな。もちろん、師尊シズンは遠慮なく使ってくれ」

「大切なものだろう」

「だからといって、墓まで持っていける訳でもねえさ。無理して使わなくてもいい。でも気に入る程度に使ってくれ、その方が、俺の気分もいい」


 受け取った串へ次々、魚を通していく。

 昼の食事準備は山民サンミンの仕事だった。

 別段、恩に着せるでもない。

 今までやっていた一人分の準備。

 それが二人分に増えただけだ、やる事は変わらない。

 そして自分がやれる事を、他人に任せる必要はない。

 ごく自然に、そう考えている。


 この時は少し違った。

 作業中、師尊シズンの視線を感じるのだ。

 いつも通り、表情を崩してこそいない。

 だが手元を見ることそれ自体が、興味を持っている証拠だ。

 手元の魚串を砂地に刺し、残りの物を確かめる。

 魚も串も、ふたつずつ残ってる。

 その気まぐれが、次のひと言を口にさせた。


「やってみるか?」

「――ふむ」


 保留する様子ではない。

 ならば肯定と見て、ひとつずつ、魚と串を差し出してみる。


「一応、言っておくが……無理にやらなくても良いぜ」

「いや」


 おずおずと、両手を出してきた。

 そのまま、魚と串とを渡す。

 こちらを観察していたのだ、何となく察せはするはず。

 こちらはこちらで、残るひとつの魚を串に通すことにした。

 師尊シズンへは何をするでもない、ただ見守ることにする。

 そう決めたはずなのだが。

 どことなく、気分は落ち着かない。


「……助言とかそういうのじゃねえ、ひとり言と思ってくれ」


 決して助言ではない。

 あくまでも、これはひとり言。

 自分の分の魚と串を持ち、続ける。


「串は頭から尻尾に通す。小さい魚なら、いったん身を曲げてそこを刺す。大きい魚なら、じっくりやるより一気に通した方が簡単だ。ただ、貫通する先に手を置くと、怪我することもある」

 

 背中から魚を持ち、竹串を通して見せる。

 そのまま、串を砂地に刺し立てた。

 これで 四半刻さんじゅっぷん もしない内、魚は焼き上がるはずだ。


 焚き火のかたわら、腰を下ろした。

 今度こそ、山民サンミンが見守るときだ。


「ふむ」


 手つきは少したどたどしい

 わずかに何かを決めたような表情。

 そのままひと息に、串は魚を貫通するものと思えた。

 焚き火の合間、かすかに鈍い音が聞こえる。


「? どうした?」


 思わず怪訝けげんな顔になる。

 師尊シズンの手が、途中で止まったからだ。


「硬い」

「そんなはずは……」

「だが事実だ」

「なら危ないかも知れねえ。一度、こちらに渡してくれるか」

「――ふむ。分かった」


 左手で受け取り、まだ早いと知りつつ安堵する。

 それ以上の危険へ、ともあれ師尊シズンさらさずに済んだのだ。

 片手で荷物から小太刀を取り出し、考える。

 手応えからして、身の方はそう硬くない。

 刃こぼれに気をつけながら、じゅうぶん捌けそうだ。

 山民サンミンは魚の腹を持った。

 背の側から刃を入れ、半身に魚を割く。


「……こいつは?」

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