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斬月記  作者: 祭谷一斗
序章 出会い
3/24

天が降る(後)

 もし仮に。

 夜空に輝くあの星が、石で出来ているならば。


「……石ころが、落ちてくる」

「正解だ。むろん、滅多にあることではないがね」


 天にあるはずの、星が降ること。

 確かに、滅多にはあるまい。

 あってもらっては困る。


「流れ星なら聞いたことはあるだろう」

「あ、ああ」

「流れ星を見たことは」

「ある」

「ふむ。ではその目で、落ちたあとの流れ星を見たことは」


 わずかに考え込む。

 考えたところで、答えはひとつ。


「……ない」

「――その正体が、これだ」


 言って、師尊シズンは懐に手をやった。

 そのまま、こちらへ手を差し出す。

 やがてゆるやかに、握りこぶしが開かれていく。

 その手のひらに乗るは、果たして。


「こいつが?」

「そう、君が言うところの“石ころ”だ」


 指ひとつにも満たない。

 大きさだけ見るなら、どうという事のない石だ。

 しかし色が違う。

 表面は茶色がかった黒、光沢はない。

 焼け焦げてでもいるのだろうか。

 割れた内側は茶色で、こちらは白が目立つ。

 はっきり、見たことがない色の組み合わせだ。


「こいつが、俺の背中に……ぞっとしねえな」


 問題は形だった。

 小さく割れたその石は、刃の先に似ている。

 もし仮に。

 この石が、天から落ちて来てたなら。

 そしてその石が、己の背に当たったなら。


「――いま言っても仕方ないだろうが、あまり気に病むな。繰り返す、こんな事は滅多にない」

「確かに、あっちゃ困るな」

「君が70万回生きたとしよう、星に当たるのはせいぜい、その内の1回と言ったところだ」

「その1回が今、いや数日前か」


 納得はし切れない。

 しかし納得せざるを得なかった。

 あまりにも、道理が通っているのだから。


「文字通り、天に降られたって訳だ」」


 誰かに斬られた訳ではない。

 と言って、己に見逃しがあった訳でも。

 何より、と山民サンミンは思う。

 ただ天から落ちてきただけの石ころ。

 何かの意志など、そこにあるはずもない。

 意志がないものを、察することは出来ない。


「道理で、分からなかったはずだ」

「もう気にするな」


 重ねて、師尊シズンは言う。

 その意ならば、決して分からなくもない。

 天は降った。

 今の山民サンミンにとって、それは確たる事実なのだから。


「雷で死ぬより、はるかに珍しいはずだ」

「いや、もういいさ。今は、重ねて礼を言わせてくれ。師尊シズン……さま」


 偶然を察すことなど出来ない。

 しかし、山民と(サンミン)は思う。

 己が救われた事は確かだ。

 そこに意はある。

 天のか、それとも相手の気まぐれか。

 そこまではまだ分からないが。


「礼儀はよせ、山民サンミン

「気がすまねえんだ。礼ってやつを、まずは払わせてくれ……師尊シズンさま」

「ふむ。それなら、だ。まず、”さま”づけは止して欲しい」

「そいつは、命令かい?」


 命令とあれば聞く。

 言外に、そんな意味を込めた。


「――いや。これはただの、私からの頼みだ」

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