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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

腐りきった世界で って本当に腐ったのはいらないから。

作者: 風祭 風利

どうも風祭 風利です。


最近連載小説のネタがまた詰まり、どうしたらいいかと友人に紹介したところ、「短編でも書いて気を紛らわしたら?」との回答がきたので、今回書いてみました。


あまり短編物は書かないのですが、吐けるネタは吐いておいてもいいかなと感じた次第です


敢えて前書きで説明しておきますが、いつものごとく、タイトル詐欺をすることだけはご容赦下さい。


それでもいいよという方は、お楽しみ下さい。

 この世の中は腐りきってしまった。 俺みたいな身なりを整えて、スーツ姿の人間が、こうして真っ昼間から、仕事の休憩時間でもないのに、路地裏で煙草を吸うくらいには腐ってる。


 いつからだ? こんな流れる雲を見上げながら煙草を吸い始めたのは。


「あの・・・」


 そんなことを考えていたら、1人の少女が俺に声をかけてきた。 白いワンピースが血塗れになっている。


「どうかしたのか? こんな真っ昼間から煙草吸ってるおじさんに、無防備に声をかけるのはよろしくないぞ。 知らない人にはついていかない、声をかけてはいけませんって、親から習わなかったか?」

「助けて・・・下さい・・・追われてる・・・んです・・・」


 その言葉に俺は口に溜まった煙草の煙を吐く。 そして彼女の来た方向に歩いていく。


「どんな奴だったか記憶にあるかい?」

「ええっと、顔はフードを被ってたので、分からないです、けど、背丈はおじさんくらいで、それで、それで、」

「なんでもいいんだ、少しでも情報の足しにしたい。」

「そう、腕にチラッとだけ、噛み後が、あったんです、こんな、カンジニ・・・」


 ズダンッ


 俺は胸に仕込んであったデリンジャーを発砲した。 前方を見ながら()()()()()()()


「ギャァァァァァ!」

「ふー。 その喉が枯れたかのような叫び声、間違いなくゾンビだな。 本物だったらヤバかったから足に撃ったが、今時のその歳の女の子でもそんな風には叫ばない。 ま、そんだけ口が開いてりゃ、大抵は人間じゃないって分かるがな。」


 振り返りながら俺は少女()()()ものに声をかける。 とはいえ、元々知能はあっても、正体がバレると五感が著しく低下するらしいから、聞こえてはいないだろう。


「キシャァァァァ!!!」


 で、正体のバレたゾンビは間髪入れずに俺を補食しようとする。 だがもう引き金の暖まっているデリンジャーを手にした俺は、躊躇いもなくゾンビ少女の眉間に鉛玉をぶち当てた。 そして地面に落ちて、灰のように風にのり消えていった。


「ふぅ。」

「相変わらず慈悲ってのがねぇなぁ。 お前には。」


 上の方から声がしたので、俺はデリンジャーを上に構える。 そしてその人物に照準を合わせた。


「待て待て、俺だって。 全く、こんな世界になってから、誰これ構わず銃を構えるなっての()()()()。 警戒するのは分かるけどよぉ。 それにお前のそのタレ目じゃあ、怖さ半減だぞ?」

「余計なお世話だ()()()()。 それに俺の名前は照英(しょうえい)だ。 同期でもその呼び方はお前くらいなもんだ。」

「それを言うならお前だって俺の名前を()()()()なんて呼んじゃって。 明光(あきみつ)の語呂合わせとは言え、そうは呼ばないって。」


 俺は「はぁ」と溜め息をつく。 そう目の前にいるめいこう、横谷 明光(よこや あちみつ)()()()()()になる前からの仕事の同期。 まあ今はそんな仕事などないがな。


「それで、なにをしに来たんだ? 俺みたいな人間のところに来るなんて、物好きも良いところだろ。」

「いつもの報酬だよ。 お前の、白金 照英(しろがね しょうえい)の報酬金だよ。」


 そう言ってバックを持って降りてくる。 かなり膨らんでいたので、中身は知っていたので、確認はしない。


「全く。 いつもいつもこんだけの報酬、いったいどこで使うんだよって話だよ。 今のご時世で。」

「いいじゃないか。 弾薬代も今じゃ馬鹿にならないし、安定供給は必要だぜ。」

「そう言うお前は全く貰えてないが、いいのか?」

「俺は伝達役だからな。 前線に出てるお前とは危険性が少ないからな。 それくらいの報酬で世の中生きていけるんだよ。 そう言う世界だから、今は。」


 そうあって大通りの方を見る。 そこには人間とゾンビが入り交じったような空間になっていた。 それなりに人間とゾンビが半々になっているが、それはゾンビだという特徴を知っているからこそ言えること。 大半の人はそもそも分からない。 だからこそ俺達みたいなのがひっそりとゾンビ退治をしているのだ。


 事の発端は1つのウイルスが日本のある地域に落ちたことからじわじわと感染者を増やしたことから始まった。 最初こそ地域隔離をしていたのだが、なにかを血迷ったのか数人を外に出してしまった失態から感染者がじわりじわりと増えていったのだ。 しかも感染のしかたがかなり古代的で、噛まなければ感染しないが、感染力は一瞬で、噛んでは増え、噛んでは増えを繰り返し、最終的には今の人間とゾンビの半々になっている状態にまでなっていた。


 そんな中で俺達の会社はある程度無事だったのと、数人はサバイバルゲームをやっていたのを買われ、物資を送る変わりに戦えという上司からの意向なのだとか。


「それで? 元凶は見つかったのか? いい加減疑心暗鬼な生活はごめんだぞ?」

「よくいうよ、元々人間不信だったのにさ。 まあ、それっぽい組織の一部は見つかったんだけどね。」

「けど?」

「かなり小規模だから、やる意味はないでしょ?」

「この世界がゾンビで終わるか人間がゾンビを滅ぼすかするまでは終わりがないんだ。 それに人間側が圧倒的に不利なんだ。 奴らの動きが本格化しない内に潰すのは悪い手じゃない。」

「そんじゃ、決まりだな。 場所は後で送る。 それまでは休暇・・・つっても、こんな世界じゃそんなのも関係ないな。 うまいもんでも食って、英気を養いな。」


 そう言って去っていくめいこう。 改めて鞄の中身を確認すると、そこには札束がわんさか入っていた。 と言ってもその中の()()()数束。 後はただの紙だ。 それでも前の給料の半年分は貰えているので問題はない。


「素直じゃないねぇ。 お偉いさんも。」


 どうせめいこうもこの処遇は知っている。 俺は会社から見れば前線で戦っている人間だが、それはすなわち、死地に飛び込んでいるのも同じ。 生きていれば報酬を、死んでいれば別の人間に乗り換える。 それが今のこの世界の状態であり、上の考えだ。


「・・・どうせなら、時間潰しにあいつとも会話したかったんだがな。 まあいいや。 いつものところに行こ。」


 めいこうの境遇の事も考えながら、俺は日が落ちそうな空のもと、足を動かした。


「いらっしゃい。 ん。 あんたか。」


 いつもの店のいつものマスター。 俺の行きつけであり、俺が死にたくない理由の1つだ。


「マスター。 今日は襲撃されなかったか?」

「店の状態を見ていってくれ。 今日も守りきれなかった。 1人じゃ限界だよ。」

「マスターが生きてりゃ、俺はそれでいい。 いつものを頼むよ。」

「報酬が入ったんじゃないのか? 少しくらい贅沢すればいいじゃないか。 金をだしゃちゃんと出すもの出すぜ?」

「いいよ。 飯以外で使い道なんか、俺にはないんだから。」

「そうかい。 待ってな。 いつものだな。」


 そう言ってマスターが奧の部屋に料理を作りに行く。 その間に俺はこの店の見張り番。 ここの店の人間も大分減った。 どんな会社で雇われているか分からないが、俺と同じような前線に出ていた奴らの唯一の場所だった。 見慣れた顔ももうない。


「お待ちどう・・・ もう古参はお前さんだけだよ。 毎日来ていた奴も、もう戻って来ることはないだろうさ。 どうだい。 お前さんも武器の強化をしなよ。 生存率は上がるぞ?」

「生存率の向上なんか必要ない。 それに武装してるとなりゃ、向こうは絶対にやってこないしな。 無防備な人間ほど、ゾンビは狙ってくる。 当然さ。 だから俺のやり方で奴らを沈めるだけさ。」

「疑心暗鬼だねぇ。 だからこそ生きてるんだろうけどな。」


 そう言って俺はマスターお手製のローストビーフを食べる。 すると、マスターの店のドアが開けられる。


 入ってきたのはタンクトップにホットパンツとかなり露出の高い格好をした女だった。 他の客はその女の容姿に鼻を伸ばしている。 そんな風景を見ながら俺はカクテルを飲む。 そんなことをしたからだろうか。 女が俺の隣に座ったようだ。


「あなた。 この街に詳しそうじゃない。 私、この街来たのは初めてだから、案内して貰える?」

「・・・初めての人間がこの店に来れるとは思わないね。 街に来たのは初めてってのは嘘じゃないみたいだけどな。」

「・・・そんなのじゃビビらないわよ。 私。」


 懐にしまいこんでいたデリンジャーを構えているのに気が付いたか。 ま、そんだけ露出してんだ。 今のこの街で生きていく覚悟はあると見た。


「ここの街に来た理由は? ゾンビ狩りなら、報酬はすくないぜ?」

「・・・やっぱりあなたに声をかけて正解だったね。 信頼できそうだ。」

「知らないおじさんを信頼を置くのは止めな。 俺だってあいつらと同じかもしれないぜ?」

「あんな下心丸出しの人達なんかよりも、あなたの目が一番この街に適応してる。 だから生き残れた。」

「ここにゃ、女っ毛が本気で無かったからなぁ。 あんたみたいな美人がこの街に来たから、活気が取り戻したんだろうよ。」

「あんな活気なんか、ゾンビの前じゃ役に立つもんか。 その活気を、自分が生きるために使いやがれ。」


 マスターの言葉と共に、愚痴の1つを溢しながらローストビーフを食べる。 すると隣の女は笑った。


「面構えがあいつらと違うや。 私、ちゃんとした人間に出会えたみたいね。」

「おーいテルヒデ。 場所を提供す・・・誰だ? 嬢ちゃん?」


 丁度いいタイミングで来てくれるな、めいこう。


「あんた。 仕事はどうしてる? どっかの街のサバイバーか?」

「そんなところよ。 私は堺 春海(さかい はるみ) 西地区から来た、サバイバーよ。 雇い主はコート市場よ。」

「コート市場・・・かぁ。」

「どうしためいこう?」

「いや、うちの会社のスポンサーとなると、こっちも肩身が狭いなって思ってね。 じゃあもしかしたら仕事として行く場所も一緒かもな。」


 そう言って地図を用意するめいこう。


「今いるお店がここ。 で、仕事の場所がここ。」

「ここは・・・浄水場か・・・ なるほどな。 ここからウイルス入りの濾過水を水道に流せば、一気に無害な人間がゾンビに早変わりだ。 犯行時刻は絞れたか?」

「そこまでは把握できなかったよ。 でもここの浄水場。 たまに数件の水道工事をしている。 今のご時世、配管工事を浄水場の人間がやるかな?」

「・・・嘘でも本当でも、行かないわけにはいかない。 ゾンビになる前に止めるのが、ゾンビになっていない人間の仕事だ。 それで? 突入時刻は?」

「その辺りはお前に任すって。」

「せめて昼か夜か位は決めておいてくれや・・・ まあいい。 最悪今日の夜から潜入するのも考えておくか。」


 はぁ、と溜め息をつくと、隣の春海が目を輝かせていた。


「凄い! まるで映画のワンシーンみたい!」

「そんな目で人を見るな。 こんな腐りきった世界で。」

「いいじゃないか。 希望の目ってのは必要だと思うぜ? 今のお前に足りないところだぞ。 テルヒデ。」

「余計なお世話だめいこう。 変な希望を抱くよりもその先に絶望があるかもって思いながらの方が、自我を保てるんだよ。」

「ねぇ、そこに私も連れていってよ。 戦力にはなるわよ。」

「いや・・・連れていくわけには」

「そうだぜ嬢ちゃん。 別に仕事はそいつらがするんだ。 無理してついて行くこと無いって。」


 俺らのやり取りを遠目から見ていた連中が声をかけてきた。 大方春海に話しかけるきっかけが欲しかったのだろう。


「それを決めるのは私の意思ですから、放っておいて下さい。」

「そうは言うけどよぉ? そいつらの行く場所って大抵危険がいっぱいなんだぜ? こいつらの会社の人間はイカれてるんだよ。 いつ死んでもおかしくないから、仕事で行かせてるんだ。 正気じゃないだろ?」

「でもこの人達は生きています。 つまりそれだけの修羅場を潜り抜けてきている。 貴方達だってそうなんですよね?」

「そうだよぉ? だからよ。 俺らと一緒のところにいようぜ? この街でお前さんを失うのはもったいない・・・」


 そう言って後ろから脇をすり抜けてタンクトップの中に手を突っ込もうとした男の手を、めいこうはがっしりと握った。


「女の子の体を無断で触るなんて、いくらゾンビだらけの世界で生存本能があってもいただけないな。」

「ちっ! 邪魔するな諜報部員が! いいじゃねぇか、折角の新入りだろ? 挨拶くらい・・・」

「・・・分かった。 連れていってやる。 作戦会議をする。 めいこう、春海、ついてこい。 マスター、こいつらの分の料理と飲み物用意してくれ。 それといつもの部屋、借りるぞ。」

「おうよ。 あんたならいくらでも使っていいぜ。 ちゃんと宿泊代も払ってるんだからな。 宿泊代は一人分でいいからな。」


 そう言って俺は奧のドアに手を掛けて、階段を上り、部屋に入った。


「なんだよテルヒデ。 お前も下心、あったんだな。 お兄さん嬉しいよ。 そういうの、枯れたかと思ってたし。」

「春海をその場所に連れていこうってのは、ここでのやり方を教えるためでもある。 それに、あんな下衆どもに触られる位なら、俺が保護した方が安全だと判断しただけだ。」

「素直じゃないねぇ全く。 ま、お前が下心で彼女を庇うとは、思ってなかったけどな。」


 そんなやり取りをしているなか、春海は罰の悪そうに座っていた。


「な、なんか、ありがとう。 助けてくれるとは、思ってなかった。」

「言っただろ。 おじさんを簡単には信頼を置くなって。 それと、銃は胸のところに入れておくな。 肝心な時に抜けなくなる。」

「胸のところに銃があるって分かってたの?」

「勘違いさせないように入っておくが、お前の腰にホルスターが無かった。 そう言った女の銃の隠し場所は、胸かパンツだと経験上知っている。」

「経験上って・・・」


「大丈夫、俺らと同じ部署にいた女性社員の何人かが、そうだっただけ。 それにそう言った女性社員は、どっちかって言えば情報を吐かせさせる方側だからね。 隠し場所としては有効だけど、さっきみたいに触られると一発でバレるリスクもある。」

「肝心な時に、っていうのは?」

「君はいきなりズボンとパンツを下ろされて、胸から銃を取り出して眉間に鉛玉をぶち当てることが出来る?」

「弄るのはその辺にしておけめいこう。 見取り図をよこせ。」


 肩を竦めて見取り図を出すめいこうと、そうなった場面を想像して、若干顔を赤くした春海と共に浄水場の攻略の話をするのだった。



 そして俺達は明朝に浄水場の前に来ていた。 と言っても正面からじゃない。 周囲の近くの丘から様子を伺っているだけだ。


「全く、昨日は長い夜だったよ。 いつもと違って3()()だから念入りにやったちゃったじゃない。」

「新入りがいるからな。 普段なら俺達だけで大暴れすればそれでいいが、勝手に死なれるのも困るんでな。」

「ねぇ、もしかして私、足手まとい?」

「それを見極めるための予行だ。 それに今までは2方向しか対応できなかったのが、3方向で視野を増やせるのは大きいからな。」


「というか、あなたも前線に出るんですね・・・」

「俺はこいつの見張りも兼ねてるんでね。 そんな心配する必要ないのにねぇ。」

「・・・こちら側にいる人間が離れた。 真下まで行くぞ。」


 そうして俺達は移動をする。 ゾンビの巣窟になっていないことを祈りつつ、非常口近くまでやってきた。


「ところで、そのライフルがいるほどの敵なの?」


 俺達は自分達の小型銃の他に、俺はライフル、めいこうはマシンガン、春海にはサブマシンガンを持たせている。


「春海ちゃん。 ゾンビは基本的に近づかれなければ脅威にはならないけれど、強靭さは例外だよ。 僕らの持ってる小型銃じゃ、倒せない場合を想定しているんだ。」

「俺はこんな世界化で、更にゾンビを増やそうなんていう腐った奴らは、鉛玉一発じゃ気が済まないからな。」


 そして非常口のドアをゆっくり開ける。 ゾンビが潜んでそうな部分の確認をしてから突入する。


「この時間だとどのくらいの人数で回してる?」

「そうだねぇ。 大体5人ってところかな。 相当優秀なんだろうね。」

「なんでもいい。 行くぞ。」


 そう言って俺は頭の中の見取り図で管理室のところまでまっすぐ行く。 道中ゾンビなどに出くわすこともなく、すぐに着くことが出来た。


「すごい、順調すぎて怖いくらい。」

「小規模だからね。 ゾンビを配置させないところもある。 いつもならもう少し大きい規模で、ゾンビもわんさかいたりするんだ。」


 お喋りが過ぎる2人を背に俺は聞き耳を立てる。 2人にも指示をし、同じように聞き耳を立てて貰う。 めいこうには当然証拠となる言動を取って貰うため、ICレコーダーを当てて貰う。


『しかし、こんなことをして本当にいいのでしょうか? 水は今のこの世の中では必需品。 それをゾンビウイルスと共に流すなんて。』

『上の考えだ。 指示に従った方が身のためだ。 我々のためなんだ。 供給しないで飢え死にさせるより、飲めるとすることの方が、まだ幸せだろう。 南米で死ぬような病原菌の入った水を飲まなければ死ぬような境にいるような世界に生きる子もいる。 我々もそれに習うだけだ。 ゾンビにならないよう保証されるだけでもありがたいと思おう。』


 ・・・・・・・・・・・・・・


「腐ってるな。」

「腐ってるねぇ。」

「腐ってるよ。」


 三者三様、想いは固まった。 俺達はドアから離れ、俺とめいこうで一気に蹴破る。


「そのような下劣な行為はさせねえぞ!」


 管理室にいたのは5人。 全員が全員、疲弊したような顔をしていた。


「ひぃ! 「オーディンの眼」! いつの間に調べられた!」


「オーディンの眼?」


「俺らの部隊名みたいなもの。 テルヒデと俺の2人だけで、情報がいつの間にか入っていて、鉄槌を下すからその名前が付いた・・・だったっけ?」

「こんな時に部隊名なんか付けやがって。 俺はもっと隠密にやりたかったんだよ。 お陰で大々的な所が警戒して動かなくなりやがったんだよ。 ただでさえ腐ってる世の中でなにやってんだって怒鳴りたくなったぜ。」

「な、ななな、なにようですかな? 浄水場にわざわざお越しになるなんて・・・」

「取り繕っても無駄なのは百も承知だろ?」


 どこから情報が漏れているか分からない。 故に見つかったら最後、大人しく粛清されるしかない。 そう思わせられるほどに強くはなっているが、そんなんだから逃げられるのだと言いたかった。 昔の考えが今のやり方を腐らせる。 上の人間というのは脳に新鮮味がない。 グズグズの果実みたいだと感じる。


「証拠は取ってある。 言い逃れはしない方がいいね。」

「い、いや、我々は脅されてやっているのです! 本当はこんなことしたくない・・・」


 バンッ! バンッ!


 右から発砲音がする。 流し目で見ると前を見ながら後ろに銃を構えている春海の姿。 硝煙の立ち上るHWSの先にはもう動かなくなったゾンビが地面で潰れていた。


「本当だ。 おっぱいなんかに入れとくより断然早いし安定する。」

「この仕事が終わったら、行きつけのミリタリーショップに連れていってやる。 俺のお古なんかよりも、もっとデザインのいいホルスターを買ってやる。」


 そう笑いかけ、再度目の前の奴らに目を向ける。


「さて、脅されてやっていると言ったな? ならあのゾンビはどういうことだ? 明らかにどこかから入ってきたという感じては無かったぞ? それでも知らないとシラを切るか?」

「うっ、ううっ・・・」


 すっかり戦意が無くなったようで、全員が全員、座り込んでしまった。 調べたところ、幸いにもまだゾンビウイルスは一滴も流されていなかったので、俺達の組織で回収することにした。


「さて、お前らの処遇だが・・・管轄をうちらの会社にするよう、書類に手続きしろ。 そうすればお前らの上の人間よりも安全を保証してやる。」

「あ、あぁ。 ありがとうございます。 ありがとうございます・・・」


 そして俺達はゾンビウイルスと共に浄水場を後にした。


「さーてと、どうやって報告をしようかなぁ。」

「何を悩む必要がある。 ありのまま起こったことを報告してこい。 そのために俺と行動したんだろ?」

「そうなんだけどねぇ。 春海ちゃんの事をどうやって説明しようかなって。」

「別区画から来た応援って言っておけ。 スパイという可能性も兼ねてだ。」

「はいよ。 それじゃあまたね、春海ちゃん。」


 そう言ってめいこうの奴はゾンビウイルスの入った箱と共に軽やかに去っていった。 俺は銃は自信があるが、あいつほどアクティブには動けない。 時々同期であの動きが出来るのが羨ましく思う。


「俺達も行くぞ。 次の仕事までは・・・どうした? そんなニヤケ面で。」

「いやぁ。 なんだか褒められたのが嬉しくって。 前の場所じゃ、こんなのは当たり前だって、褒めてくれなかったし。」

「喜びを噛み締めるのはいいが、変な気は起こすなよ? 俺より年下の女にすり寄られちゃ面目が立たんからな。」

「えー? おじさんおじさんって言ってるけど、結構若く見えるんだけど? 私みたいな女でも絶対落ちるくらいに。」

「三十路の男にそんなことを言うな。 こんな老いた人間を好きになってもろくなこと無いぞ?」

「こんな世界でろくな男なんていないって前の場所で思い知らされたからいいの。 それに年もそんなに変わらないなら、尚更だわ。」

「若作りでもしてんのか?」

「ひっどいなぁ。 まだ20代の折り返し地点ですぅ。」

「そこまで生き延びられたなら大したもんだ。 大抵の女は世界に絶望して腐るからな。」


 そうはいいながらも何だかんだで実力は認めている。 こんな腐りきった世界でも、まだこういった未熟な果実を探し出すのも、悪くはないと思った。


「次はもっとド派手なのがいいなぁ。 めいこうさんに言ってみようよ。」

「そんな易々と大物が来てたまるか。 後あいつの名前は明光だからな。 ちなみに俺は照英だ。 アダ名で呼んでいいのは俺らだけだ。」

「えー、私もそういうの欲しい。 なんかないのぉ?」

「考えといてやるよ。」


 今日も登り始めた朝日と共に、腐ったものの排除のために、俺達は動く。 全ての腐敗を取り除くまで。

いかがだったでしょうか?


元々細かい設定などを考えていない短編なので、纏まり無く終わったと思うならば「それが風祭 風利の作品だ」と思っていただければ幸いです。


しかし書いていてネタが浮かんできていたのは嘘ではないので、ちょくちょく多方面的に短編を書いていってもいいかなと思ってる次第です。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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