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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

甘口

巨大ロボに乗りたくない男

 どうしても巨大ロボに乗りたくない男がいた。

 アニメやマンガなどで、突然正義に燃えたり、恋人に諭されたりして、死ぬかもしれない戦場へ主役ロボとともに赴いてしまう主人公達の思考回路を男は理解できない。たまに主人公が搭乗を拒む展開があっても、男の知る限り、誰ひとり主役ロボに乗らずに逃げおおせたためしがないのだ。

 この作品の主人公は、どうしても巨大ロボに乗りたくない男だった。自分だけは絶対に絶対に絶ッッッ対に巨大ロボに乗るまいと考えていた。ところがついに、外宇宙からの侵略者《アクギャク星人》の襲来を告げる警報が鳴ってしまった。待機中のパイロットはただちに格納庫へ急がなければならない。誤報であってほしい、自分が出撃する前に誰かが敵機を全滅させてくれればいい、そう願いながら男は通路を走った。そのとき《アクギャク円盤》からの攻撃が兵舎に直撃し、基地を激しく揺さぶった。


 ぽっかりと穴の空いた壁の向こうでフェンスが大きく破れている。基地にとっては大損害だが……男にとっては逃げ出すチャンスだ。反撃なら、健康で五体満足という理由だけで数合わせのためにむりやり徴用された自分などよりも、もっと実力も戦う気もあるヒーローがやってくれればいい。勝手に正義に燃えてろ!俺は、逃げる!!

 粉塵で真っ白になった身体を奮い立たせて一直線にフェンスを目指すと、瓦礫につまずいて転んだ拍子に、血まみれの上官と目が合った。まだ生きている。

「新兵……?よりによって貴様か……いや、運命かもしれんな……」

 滑走路に駐機していた巨大ロボに乗り込もうとしたところを衝撃波で吹っ飛ばされたらしい。ロボも近くに倒れているが、ひと目でわかる損傷箇所はなく、コックピットハッチが開いたままだ。

「俺のロボを使え……。訓練じゃあ成績ビリっケツの貴様でも、そこらの機体よりは戦えるはずだ……」

「軍曹!?」

「基地を、守ってくれ……」

「……軍曹ー!!」

 男は顔を上げた。視線の先に……壊れたフェンスが待っている。押しつけがましい運命なんてまっぴらごめんだ!上官の死体も指揮官専用ロボもほったらかしにして、爆音轟く基地から逃げる。道路を渡って市街地に紛れ込んでしまえば、もうこっちのもの……そう思ったのもつかの間、フタの外れた下水道が男を吸い込んだ。

「うわああああああああああーーーー!?」


 ウォータースライダーのような汚水の流れに乗ってたどり着いた先では、やはり別の巨大ロボが男を待っていた。いや、正確には巨大ロボに群がる怪しげな白衣のスタッフが、男を待っていた。

「あら軍人さん?ちょうどいいところに現れたわね」

「は?」

 下水管の出口はそこそこ高い位置にあり、男は貯水槽を改造したものらしい格納庫の床の、流れ落ちる汚水を部屋の脇の水路へ逃がすためのぬるぬるした窪みに叩きつけられた。

「パイロットが来たか!いけるぞ!」

「無茶です!調整だって済んでないのに!」

「いいから急げ!発進準備!!」

 闇の奥に身をかがめる巨大ロボのカメラアイが点灯した。

「ちょっと、俺がそいつに乗る流れ!?」

「そうよ。こんなこともあろうかと独自に開発を進めていたの。頭の固いお偉いさん方には内緒でね。だから、訓練を受けたパイロットの調達が悩みの種だった。詳しい説明はあと。とりあえず乗ってちょうだい。ひととおりの武装は揃って……」

「やだ!!」


 場の空気が凍りついた。


 防衛軍のピンチをひっくり返し、地球を救う切り札となるはずの巨大ロボを起動させるため力を合わせる開発スタッフ一同の「この状況でそのセリフはありえんだろ」とでも言いたげな視線が、どうしても巨大ロボに乗りたくない男を釘付けにしたが、空気を読まずに出口を見つけた男は体当たりでドアをぶち破り、格納庫から逃げた。


 暗い下水道を一心不乱に走る男の行く手に光が見える。梯子を掴んでマンホールの外に這い出た途端、暴風が男を吹き飛ばし、アスファルトの上を二転三転してビルの瓦礫に背中をぶつけたところへ、一機の《アクギャクロボ》が着陸した。男は震える手で拳銃を構えた。

 基地で教えられた情報によれば、アクギャクロボはアクギャク円盤部隊を指揮する隊長機のはずだったが、コックピットから身を乗り出した指揮官は男に手を差し伸べた。照準器の向こうに初めて見るアクギャク星人は、何度まぶたをしばたいてみても、地球人そっくりの美少女だった。

「乗って!地球のパイロット!あなたなら私よりは上手く動かせるはず!」

「……なんで!?」

 アクギャク星人は地球の公用語を喋っている。

「私はアクギャク大王と地球出身の母との間に産まれた娘!宇宙の平和を乱す父の強引な外交政策に反対して、旗艦から脱出してきました!」

 アクギャクロボが路面に片膝をつき、目尻に涙を浮かべる王女と同じように手を差し伸べてきた。見上げた空では地球防衛軍とアクギャク軍の壮絶な空中戦が繰り広げられている。

「どうか私の力になってください!こんな虐殺は終わらせなければ……!」

 男は銃を下ろし……少しずつあとずさりをして、一目散に逃げた。

「え……?待って!!」

「待たない!!」

「あなた、それでも地球人ですか!?故郷がどうなってもいいの!?」

「巨大ロボに乗るぐらいなら地球なんかどうでもいい!!」

「恥を知りなさーい!!」

 アクギャク王女がアクギャクロボの再起動に手間取っている隙に、大きな瓦礫の陰を選んで身を隠しながら路地裏へ逃げ込み、適当なビルの裏口へ滑り込んで大型冷蔵庫の中に入った。扉を閉じておけば熱感知にも引っかからないだろう。


 王女のアクギャクロボが捜索をあきらめ、戦闘が終わるのを息を殺して待つ。ビルへの送電はとうに停まっているので、冷蔵庫の中でも寒くはない。敵味方の墜落によるものか、それとも王女がしつこく嗅ぎ回っているのか、ときどき地鳴りが冷蔵庫を揺らす。この戦いをやりすごしたら、どこか遠く、人のいないところへ逃げよう……。男は思った。戦いはごめんだ。戦いたくないなら戦わなくたっていいはずなんだ。たとえ周りの奴らが「空気を読め」「察しろ」と迫ったって、たとえ俺がロボに乗らないせいで地球がアクギャク軍に占領されたって、知るもんか。逃げたければどこへでも逃げ切れる、そういう生き方もできるってことを証明してやる。運命なんてクソくらえ。俺は自由だ。

 ……と、冷蔵庫がふたたび揺れ始めた。戦いが引き起こす気まぐれな振動とは様子が違い、次第に激しくなってくる。ビルが崩れるのかもしれない。冷蔵庫もろとも天井に押し潰されるのかもしれない。扉を開けてみれば、ビルはぐんぐん()()していた。のみならず内装が複雑に()()しつつあった。調理台が左右と前方から男を取り囲んでコンソールパネルとなり、冷蔵庫から変形したボックス型の座席の背もたれに身体を預けさせられる。左右の肘掛けから操縦桿が立ち上がり、正面の窓にビルの変形状況を示す全体図が表示された。全長百メートルに達する巨大な両脚。巨大な両腕。両腕の先端から伸びて力強い握り拳を形成する手指。せり上がる頭部。頭部が展開して現れる顔。輝く両眼。これは、まさか、昔のアニメで見覚えのある、()()()()()()()()()()()()とかいう例のアレ……!?やはり運命からは逃れられないのかぁぁぁぁあああああああ……!!


おわり

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― 新着の感想 ―
おましろ~い。笑いました。
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