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夏の呪いとラムネ色の海  作者: Hiroko
8/33

7

私はなんだかそのまま荒垣君に付いていくのが悔しいような気がして、独りで教室に残ることにした。

「ふーん、そっか。じゃあまたな」と、荒垣君はあっさり私を置いて出て行ってしまった。

そんな風にされると、なんだか寂しい。本当はもっと粘って欲しかった。強引に連れて行って欲しかった。もっとこう、「いいから付いて来いよ!」的な一言が欲しかった。そしたら私も……、いやいやいや、そもそも荒垣君はそんなキャラじゃないか。私はいったい荒垣君に何を求めているのやら。


グラウンドでは、陸上部の練習が始まっていた。

陸上部の練習、とはいっても、結局やはり走るだけなんだな……、なんてことをぼんやり考えながら見ていると、あまりの暑さに意識が朦朧としてきた。

「あーーー、もうっ! 帰りたい!」

「おう、いいな! 一緒に帰るか!」と独り言にいきなり返事をされ、また椅子ごと後ろにひっくり返りそうになった。

「何よ、急に!」そう言って振り向くと、そこには二つ隣のクラスの秋谷がいた。綺麗な中性の顔立ちをしているせいで、女の子たちからやたらもてる。そして本人もそのことを自覚しているようで、軽い感じでいつも違う女の子を口説いている。そこだけ見れば、すーーーっごく私の嫌いなタイプなのだけれど、私は彼の友達想いの性格を知っているので、なんだか憎めないでいる。それどころか、クラスでいじめられてそうな男の子でも、普通に気さくに話しかけていく。相手がどんな人でも、不公平なところがないのだ。でも私、どうしてそんなこと知っているのだろう。どうして違うクラスのこんな男の子のことなんかこんなに詳しく知っているのだろう。接点は……、どこにあったのだろう。

「急にじゃねーよ、さっきからいたよ」

「さっきからっていつからよ!」

「さっき荒垣が笑いながら出て行った時からだよ」

「そんなのぜんぜん気づかなかったわよ」

「そんなの知らねーよ」

そりゃまあそうだ……。

「それより綾子、帰るんだろ? 一緒に帰ろう」

「誰も帰るなんて言ってないわよ」

「さっき言ってたじゃん。『あーーー、もうっ! 今すぐ帰ってやる!』って」

「どんな耳してんのよ!」

「今すぐ帰って寝てやる! だったか?」

「そんなこと一言も言ってないわよ!」

「そうか。まあいいや。とにかく帰ろう!」

「意味わかんないんだけど」

「綾子は強引な方がいいんだろ? 翔也が言ってたぜ」

「翔也?」

「あ、いや、なんでもない。気にするなよ」

翔也って誰よ……。

誰だかわからないけれど、その名前を聞いた瞬間、胸の中がチクりと痛むのを感じた。気のせいだろうか。気のせいだ、きっと。だって、聞いたことのない名前だもの。

「とにかく帰ろう! 夏休みだぜ? なんで学校になんかいるんだよ。それに綾子、今日なんの日か知ってるか?」

「なんの日? 知らないわよ」ほんとは何となく予想がついた。

「知らない振りするなよ」そう言って秋谷は笑った。今日は笑われてばかりいるような気がした。

「行こうぜ、花火大会。今日は人魚浜の花火大会だろ」

どうして私を誘うのよ。誘う女の子なんて、他にたくさんいるでしょうに。そう尋ねたかったけれど、なんだか声にならなかった。

代わりになぜか、涙が出ていた。

「秋谷のそう言うとこが、昔から苦手なのよ……」

「苦手? 俺のことか?」

「そうよ……。いま私に優しくしようとしてるでしょ」自分でそう言いながら、どうして秋谷は私に気を使ってくれているのかがわからずにいた。その理由が思い出せない。秋谷は私を元気づけようとしている。どうしてそんなことするの? いいえ、私は知ってる。けれど、けれど思い出せない。

「そんなんじゃねーよ。寂しそうにしてるから、軽く口説いてやろうとしただけだよ。いつもの俺だよ」

「知ってるわよ、ちゃんと。あんたがそんな男の子じゃないってことくらい。だから苦手なのよ。嫌いになれないし」

「なんだよそれ。まあいいよ。ほら、どうすんだよ?」



◇ あなたなら、どうしますか? ◇


一緒に帰って花火大会へ行く。 8へ

このまま残って授業を受ける。 9へ



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