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やめようやめよう!
そんなのまるでストーカーじゃないか!
アイドルの追っかけじゃないか!
恋愛漫画の片思いヒロインじゃないか!
違うちがう、私はそんなんじゃない。
桜田先生に興味があるのは確かだけれど、それは好奇心だ。
こんなの下手に顔を見に行って、本当にその気になって好きにでもなってしまったらどうするのだ。
って、おい! やめろーーー!
と独りで頭の中でアホな問答をしているうちに、次の授業の生徒たちが教室に入って来たので私はいそいそと教室を出ることにした。
けれど、どうしよう?
知ってる人、誰もいないなあ。
そんなことを考えながら、ふらふらと見知らぬ空き教室に独りで入り、窓際の席に腰を下ろした。空気が淀んで暑いので、窓を開けた。
窓の外では陸上部がストレッチをしている。
これから走るのだろうか?
「うわーーー」考えただけで熱中症で倒れてしまいそうだった。
私は首にかけていたタオルで顔を拭き、頬杖をつきながら陸上部の練習を眺め、お昼ごはんのことを考えていた。
「やあ、久しぶり」と、その瞬間、不意に声を掛けられ椅子に座ったまま「うきゃあ!」と変な声を出してひっくり返りそうになった。
「大丈夫かい? そんな驚くことないよ」そう言ったのは、同じクラスの荒垣君だった。眼鏡をかけて地味顔で、クラスではほとんど誰ともしゃべらず、なんちゃら研究部に所属している学年で一番と言っていいほど怪しい男の子だった。けれど、なぜだか私とは普通にしゃべる。なんで? どーして? 私も変わってる?
「びっくりしたあ!」と私は思わず声を出してしまった。「いつからそこにいたのよ!?」
「え、飯束さんが『うわーーー』って叫んでる声を聞いて、入ってきた」
「え、なに、私、なんか言ってた?」
「いや、『うわーーー』って言ってただけ」
「二回も言わなくていいよ。てか私、それ独り言、教室の外まで聞こえるくらいに言ってた?」
「うん、廊下から聞こえた。『うわーーー』って」
「三回も言わなくていい!」
「それよりもう、気持ちは落ち着いたのかい?」
「き、気持ち?」
「うん。だいぶ落ち込んでたじゃないか。まあ、仕方ないけど」
「な、なによ、その意味深な言い方。ぜんぜん身に覚えがないわよ」
「わ、忘れちゃったのか。そうか、やっぱり。じゃあ部員から聞いた報告は本当だったみたいだね」
「なによその報告って!? 私の話? 忘れたって言うか、まったく記憶にないわよ」
「ならいいんだよ」
「いいって何よ、気になるじゃない。ちゃんと教えてよ」
「いやいいよ。思い出さない方が身のためだ」
「ちょっとやめてよ!」
荒垣君は、「ははは」と笑いながら、「それを教えたら逆に飯束さんに恨まれちまうよ」と言った。
私はなんだか胸の中がもぞもぞするような悔しいような変な気分で涙目になっていた。
「それより独りなの? ご飯食べる相手いないなら、うちの部室に来るかい? 僕もこの時間空きでさ、ご飯食べようと思ってたとこなんだ」
「部室って、あの、あれでしょ? なんだっけ……。なに研究部だっけ?」
「都市伝研究部だよ」
「どこの電車よ」
「電車じゃないよ。伝説の『伝』だ。都市伝説の『伝』ね」
「どっちにしてもわかんないわよ」
「もう何でもいいよ。来るの? 来ないの?」
◇あなたなら、どうしますか? ◇
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