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少々、静乃の説明と重複している部分があります。

地の文でまとめてしまえば良かったんですが、とりあえずこのまま出します。申し訳ない。

生温かい目でお見守りいただければと思います。


 ポータルを使って、基地に戻るとシシャモが元気に寄ってきた。


「お二人とも、ご無事で良かったです!」


「ゐーっ!〈シシャモのおかげだ。ありがとうな!〉」


「いえ、そんな……最後、きっちり倒せたか分からないまま、時間切れになっちゃいましたから……」


「時間いっぱいまで戦ってくれた。それだけで充分です。

 まさかあそこでお披露目になるとは思ってませんでしたけどね。

 でも、動画はばっちり撮ってありますから、これを参考に二号の制作に入りますよ」


「ゐーっ!〈あれで終わりじゃねえのかよ!〉」


 思わずツッコミを入れてしまったが、レオナはキョトン顔だ。


「え? 逆に何故あれで終わりだと?」


「そうですよ! 装備部の皆さんが僕だけのために作ってくれているのに……」


 いやいや、シシャモ、お前は装備部のおもちゃになりつつあるんだぞ、とはさすがに言えない。喜んでいるところに水を差すのもな……。

 まあ、悪の秘密組織らしいといえば、らしいのか。


「ゐー……〈あ、いや、本人が納得しているならいい……〉」


 俺はそれ以上を言わず、口を噤んだ。


「ええと、まだレギオンイベントについては確定情報ではないんですが、おそらく来るであろうお話をしましょうか。

 その……ここだと余り大きな声で言えないこともあるので、よろしければ私の部屋で……」


 おお、もしや? ふと、あの馥郁たる香りが脳内を掠める。


「あ、あー! ぼ、僕、ヨウジがアッタんだった! すみませんが、ボクワコレデ……」


 シシャモがグギギとロボット的な動きで行こうとするので、引き止める。

 おい、なんか変な後遺症出てないか?

 マッドなサイエンティスト集団の『装備部』でも、さすがに人体に影響が出るようなものは使わないと思いたいが『精神操作』なんて状態異常があるゲームだからな。

 シシャモの頭上には特に状態異常の表示はないが、少し経過観察したほうがいいんじゃないか?


 それと、レオナと部屋で二人きりというのも、ちょっとな。

 俺が良くても、レオナに申し訳ない。


「ゐー〈シシャモ、十分くらいだけ付き合えないか〉」


「ええっ!」


 うおっ! シシャモがめちゃくちゃ驚いている。信じられないモノを見るような目だ。


「ゐー〈お前も初めてだろ、レギオンイベント〉」


 少々、目に力を込めて懇願気味に頼んでしまう。


「いや、まあ……はい……少しダケなら……」


 シシャモが申し訳なさそうにしている。


「いえ、ぜひシシャモくんもお願いします。

 たぶん関係してくると思うので」


「あ……ハイ……」


 レオナとシシャモが何とも微妙な表情だ。

 もしかして、意識し合っている?

 要、観察だな。


 シシャモと連れ立ってレオナの『プライベートルーム』へ。


 『大鷲通り』から三つ目、デフォルト色の白い扉だが細かく彫刻された扉に『レオナ』の表札、何度も通う内にだんだん覚えてきたな。


「どうぞ」


 レオナに促されて中へ。


 相変わらず部屋は綺麗だ。まあ、ゲーム内だから整理整頓されているというよりもセンスがいいという意味だ。


 シシャモと二人、ソファに座って待つ。


 ふうわりと香る紅茶が出てくる。

 おほ〜! 来た、来た! と思うが、あまりがっつくのもはしたない。

 神妙な顔で待つ。


「グレンさん、鼻、膨らんでますよ」


 くすり、とレオナが柔らかく笑う。


「ゐー〈すまん……ついな……〉」


「ちょっと大首領様から新しい別の茶葉を頂いたんです。如何でしょうか?」


 スン、と香りを味わう。

 フルーティーな中に薔薇のような高貴さがある。

 これは、いいものだ。

 香りを堪能してから、ひと口。

 香ばしさ、まろやかな印象、少し甘みすら感じる。それから拡がる香り。

 くっ……ダメだ……一気飲みなんてもったいない! だが、するすると喉を通すたびに紅茶の良さが膨れ上がる。


 ストップ、ストップ! 危ない……ひと息で半分くらい飲んでしまった。

 焦るな……大事に飲もう。


「ゐーっ……〈ふぅ……大首領、良いもの飲んでるな……〉」


「良ければ、おかわりありますからどうぞ」


 ティーポットが置かれる。

 ごくり、と俺の喉が鳴った。

 レオナが嬉しそうに笑っていた。


 いつものレオナが作ったクッキーが出てくる。


「こ、これ、どっちも凄く美味しいですね!」


 シシャモ、あんまりがっつかないでくれ。

 若さって遠慮がないよな。

 シシャモがティーポットに手をかけるのを、俺は素早く抑えた。


「ゐー〈半分残せよ〉」


「あ、は、はい……肝に命じます……」


「こーら、グレンさん、そんな怖い顔しちゃダメですよ! なんならもう一杯お出ししますから」


「ゐーっ!〈いや、それには及ばんよ。大首領からの下賜品、大事に飲まないとな〉」


「え、これ、何か貴重な物なんですか?」


 ふぅ……若さと怖さは同居している。

 まあ、それに突き進めるのも若さゆえの特権か。

 シシャモの無邪気さが怖いぜ……。

 俺に言わせるなよ。坊やだからさ……なんてな。


 閑話休題。


 少し落ち着いたところで、本題だ。


「レギオンイベントですよね。過去に何度か実行されたイベントではあるんです。

 基本的にはレギオン同士の衝突を主軸にしたイベントで、運動会のような平和的なものから、血で血を洗う骨肉の争いのようなものまで、多種多様なイベントなので、あまりハッキリしたことは言えないんですが……参加団体が少ないほど争いが激化する傾向にあるという感じですかね」


「ゐーっ!〈今回はウチとシャーク団だけだろ。かなり激しい殺し合いみたいなイベントになる可能性が高いってことか〉」


「そうですね」


「す、すいません、僕のせいで……」


「いえいえ、逆にウチとしてはありがたい話なんですよ。小規模とはいえレギオンひとつ丸々吸収できるので、今後の戦争イベントが楽になりますから」


「ゐーっ!〈従妹に聞いたんだが、シャーク団は負けたらかなり悲惨なことになるらしいな〉」


「ええ、そうですね。シャーク団の資産のほぼ全てを賭け皿に載せさせましたから」


「そ、そうなんですか?」


 シシャモが紅茶に伸ばそうとした手を止めるのとは対照的に、レオナは自分の紅茶で口元を濡らした。


「レギオンレベルは吸収され、残される資産は数十万マジカ。野良になる決断が下せればいいですけどね。数十万マジカあれば、ギリギリレギオンとして存続できてしまうので、惜しいと思ってしまったら、それはもう惨めになりますよ。

 野良戦闘員って、それなりに恵まれてるところもあって、他の各レギオンが出す屋台なんかで買い物とかできるんですよ。

 ウチも出してますしね。

 ほら、どこかのレギオンに借りができたら、そこに入ってしまおうかって気になりやすいですから」


「あ、僕もよくその屋台、利用してました!

 そっか、なんで名のあるレギオンが野良に優しくするんだろうと思っていたら、そういう意図があったんだ……」


 レギオンレベルが高いところの装備が最高級品は出さないにしても買えるのなら、それなりに装備は整えられるな。ただし、レギオンに所属しなければ最高級品は手に入れられないなどの制約はつくんだろう。

 ある程度、野良で力をつければスカウトなんかも期待できるって感じか。

 なんだ、野良ってもっと惨めな感じを想像していたが、ただの負けプレイだけって訳でもないようだ。


「ええ。それでシャーク団の話に戻りますが、もし、レギオン存続となったら装備は最低レベル、PKレギオンとしては有名になってしまいましたから、大手からは狙われる、他のPKレギオンも狙うでしょうね。PKKは美味しいですから。

 ……まあ、それもウチが勝ったらの話ですけどね。

 ちなみにウチが負けた時は、この金の鶏が効いてきます。

 レギオンレベルが下がっても、この金の鶏で維持できますし、レギオン全体で言えばマジカもなんとか払えるくらいの貯えがあります。

 今後はグレンさんの野菜で荒稼ぎ予定もありますしね!」


 ふむ、負けても問題ない布石が打ってあるのか。

 金の鶏をすぐレギオンレベル上昇に使わないのは、負ける可能性も考えているから、ということか。


「負ける場合もあるんですか?」


「まあ、運に恵まれなくて、余程のことがあれば、負けます。

 基本的にレギオンイベントは公平性のあるイベントになりやすいんですよ。

 戦争イベントみたいにヒーローレギオンとの戦いとは違うので、大規模と小規模レギオンの衝突の時などはどちらにも勝ち目があるように見えるイベントになりますね」


「ゐーっ!〈勝ち目があるように見える?〉」


「はい、層が違いますから。例えば100m走で三回勝負だとして、それぞれ三人出さなければならないとしたら、例え素早さ(ヘルモーズ)極ぶりで160ある選手が出て来たところで、こちらは140ある選手を三人出せますから、他で二勝貰えればいいんですよ」


 ああ、そこは予想通りだな。

 これなら、鮫島社長に良い結果報告ができそうだ。


「じゃあ、ユニークスキル持ちが出てきても?」


「ユニークスキル持ちですか……ぱっと思いつくだけでも二十人以上居ますよ。グレンさんもそうですし、シシャモくんもそうじゃないですか」


 レオナはケラケラと笑う。


「あ、そ、そうでした……あまり実感が無くて……ただ、シャーク団の最高幹部、鮫島さんと言うんですが、その人、ユニークスキル持ちだって噂があって……」


「ゐー……〈本名でやってんのかよ……。それは事実だぞ。本人から聞いた〉」


「「えっ!」」


 二人から驚かれてしまった。

 俺は二人に事情を説明する。


「ゐー〈と、まあ、ゲームの中に現実の話を持ち込むもんじゃないとは思ってるんだけどな……断るに断れなかったわけだ〉」


「じゃあ、グレンさんは参加で確定ですね!」


「ゐーっ!〈いや、勝てる方が俺としてはありがたいんだが……〉」


「大丈夫です! グレンさんなら勝てますよ!」


 レオナは自信マンマンに答えた。

 いや、それはレオナが言うことなのか?


「実際、一番ありそうなのは、過去にもあった総合レベルを合わせたお宝争奪戦だと思いますから、足止めスキルが多いグレンさんは適任だと思います」


「それなら、グレンさんはばっちりですね!」


「あ、シシャモくんも当事者ですから、問題がない限りは参加でお願いしますね!」


「えっ! ぼ、僕ですか?」


「大丈夫です! それまでに『動く棺桶(リビングコフィン)二号』は間に合わせますから!」


「は、はい!」


 シシャモは緊張気味に答えた。


「それとですね。今後の話を少ししておきますが、次の水曜か木曜に『作戦行動』、おそらく土日のどちらかで『レギオンイベント』、さらに『レギオンイベント』が入らなかった方でまた『作戦行動』があると思います。

 まあ、ガイガイネンのような突発イベントがなければ、ですけどね」


「ゐーっ!〈準備をしておけってことか〉」


「そうなりますね。ただ次の『作戦行動』はグレンさんはお休みしていただくことになると思います。連続参加になっていると抽選から外れやすくなるので、すいません」


 まあ、復活石を納品している訳でもないしな。通常なら、そんなもんだろう。


 俺は了解した旨を伝えて、レオナの『プライベートルーム』を出ると、自分の『プライベート空間』に篭もる。

 植樹をしたら、今日はログアウトするのだった。



坊やだからさ。

ガンダム分からんという方のための説明です。


詳しい説明は省くとして、文中で使われている意味で言えば、「お前が物の道理を弁えていないから、俺の復讐の糧になるってことだよ」です。

グレンによる、シシャモくんが紅茶を割り当て以上に飲んだら殺す宣言ですね。それを言わせるなよとグレンくんは思っているわけです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 謀ったのか。そしてギ○ンじゃなくてグレンでよかったな、と。
[一言] グレンさんの痛恨の空気の読み間違い。 こういう人は俺は空気が読めて、気遣い出来ると思ってるんだろうなぁ…
[一言] グレンさんが暴走気味だ…w げに抗い難きは紅茶の魅力… シシャモ君は若さ故のと言うよりは無知故の、物の価値を知らないことによる行動だから、ここは価値を理解している(ハズ)のグレンさんが導いて…
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