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 シシャモの乗る『動く棺桶(リビングコフィン)一号』、通称『リビコフ一型』がゆっくりと動き出す。

 せめて、一号か一型か、呼び名はまとめないのかと俺は思った。


「アレは元々、装備部の夢の残骸だったんです……」


 レオナが何故か聞いてもいないのに語り出す。


「構想だけは、β版の頃からあったんです。

 超重量級の黒鉄の城、ヒーローのパンチすら防ぐ防御力500!

 ですが、我々は大きな壁に当たりました。

 魔法的動力でアレを動かすべく研究を重ねていましたが、既存の知識ではアレを動かす程の出力を得ることはできません。

 まあ、馬鹿な研究者が居たんです……原子力を使おうとか言い出しまして……運営から警告されました。それを使う許可は出せませんと……」


「ゐー……〈ああ、爆発でもしたら、NPCの大量虐殺とか起きるのは、目に見えてるもんな……〉」


 小さくレオナは頷いた。

 それから、顔を上げ、『動く棺桶(リビングコフィン)』を見る。

 リビコフ一型は、がっしょん! がっしょん! と歩いている。


「我々はアレをデータの海の奥深くへと沈めました……」


 あ、まだ語りたい? あ、そう……。


「しかし、新たな動力構想が我々に、アレをデータの海から引き上げさせる決断をさせたのです。

 シシャモくんの持つ【装備重量無視(ヨルムンガンド)】……そう究極的にエコな動力!

 『ジンリキ!』それこそが全てを解き明かす鍵でした!」


 人力な。なるほど、シシャモは動力なのか……納得。人型ロボット風、巨大鎧ね。

 鎧として作る分には、シシャモの【装備重量無視(ヨルムンガンド)】が働いて、どれだけ重い鉄の塊でも動かせるという訳か。


「ゐー?〈あれ、中がゼリー状のもので満たされてるのとか、関係あるのか?〉」


「あれは水で溶解機能をギリギリまで薄めたスライムです。

 スライムは中のものをゆっくり溶かして食べるんですが、中のものを逃がさないために、中のものの動きをトレースするんです。また、その時に限り、スライムは中のものの力をそのまま表に通すという習性を利用しています。

 なので、シシャモくんがアレを使う時は活動限界十分ってところですね。

 シシャモくんの【水中行動】も十分らしいので、どっちが先に終わるかの競走ですね」


 呼吸困難で死ぬか、溶かされて死ぬかの競走とか、誰得!?

 俺が言うことじゃないかもしれないがピーキー過ぎる!


「ゐーっ?〈参考までに聞きたいんだが……シシャモが死んだら、どうなる?〉」


「インベントリから出した時点で、少しずつ鎧の防御力が減っていきます。

 スライムが内側から鎧を侵食していくんです。

 一定以下になると、鎧内部の毒が漏れ出して、スライムが死にます。これも十分ほどのことです。鎧部分はただ分厚いだけの鉄の塊と武装用の火薬だけなので技術もなにもないですし、スライムは死んだら水に溶けてしまうので、敵に新素材を渡すようなことも起きません」


 レオナ……。何故、お前はそんなキラキラした瞳でそれを語ってんだろうな……。


「どいてくださーい、危ないですよー!」


 シシャモは柔らかい声音で語りかけているが、それは死を賭した行動だ。

 分かってるのか?

 いや、分かっているからこそ、あんな穏やかな感じなのかもしれない。


 ほら、『ホワイトセレネー』も及び腰になって、素直に下がってるよ。


 大型ガイガイネンが自由になった。

 小型ガイガイネンは既に十匹ほど生まれている。


 大型ガイガイネンは自由になったことで突進を始める。もちろん、シシャモに向かってだ。


「サッ、来ーーーい!」


 体高5mの巨人がトラック級の大型ガイガイネンを受け止める。

 まるで『リアじゅー』の戦闘とは思えない。

 ロボ対怪獣の取っ組み合いだ。


「ぐうっ……重い……」


 なるほど、鎧の重さで大型ガイガイネンの突進を防げてはいるが、シシャモの(トール)では受け止められていないということか。

 あれじゃあ、動きを止めるだけで精一杯だな。


「ならっ……こいつで! パイルバンカアァァァッ!」


「ゐーっ!〈パイルバンカーかよっ!〉」


 なんでピーキーな鎧にピーキーな武装を載せる!

 火薬……コレのためか!


 いや、確かにロボット物の人気武装といえば、識者の間じゃ、ドリルかパイルバンカーだろうよ。俺は頭突き用の斧角みたいなのも好きだが……いや、俺の趣味は置いておくにしても、パイルバンカーなんて浪漫武器だぞ!


「ひゅー! やった! やりましたよ!」


 レオナがいつになく子供みたいにはしゃいでいる。


 巨人の腕に着けられた『杭打ち機(パイルバンカー)』が火薬の激発と共に大型ガイガイネンの脳天を貫く。

 カニ味噌みたいなのが、じゅくじゅくと漏れ出している。

 さすがに美味そうには見えないな。


「よし! これ別の武装は……」


「ありませーん! パイルバンカーも一発撃ったら終わりなので、あとは気合いでお願いします!」


「お、終わり!? り、了解! 気合い、気合いで行きマース!」


「ゐー……〈説明してないのかよ……〉」


「使ったら死ぬところまでは説明したんですけどね。あと、必殺技はパイルバンカーですっ! て、でも基本武装はその重さなので、必要ないかなーって……」


 まあ、確かに重さは武器だけどな。


「気合いパーンチ! 気合いキーック!」


 シシャモが気合いを武器に戦っている。

 小型ガイガイネンは十匹ほど。

 このままなら勝てそうだが、小型ガイガイネンは個別に戦闘員を襲い始めた。


「ゐーっ!〈ヤバい! レオナ、俺たちも行くぞ!〉」


「あ、そうですね!」


 つい、見蕩れていたが、俺たちも動かなくては。

 『ましろ』もまだ、ぽけっとシシャモを見ている。

 おい、最大戦力……しっかりしてくれ。

 そう思って、『ホワイトセレネー』の肩を叩く。


「ゐーっ!〈おい、ぼさっとしてんな!〉」


 俺は小型ガイガイネンに襲われる戦闘員たちを指さす。


「あ、すいませ……ああっ! 肩パット!」


「きうーっ!」


 フジンが不服そうに声を挙げる。


「えっ、かわい……ううん、肩パット、ここで会ったが百年目です! この前の恨み……と言いたいところですが……今日だけは……見逃します……くっ……い、行きますよ!」


 はっ? ついて来いって?

 まあ、俺はダメージ要員じゃないから、『ホワイトセレネー』の補助にまわるか。


 『ホワイトセレネー』が狙いをつける。

 だが、そこに小さなスコップを持ったヒーローレギオン戦闘員が入り込んで、さらに捕まってしまう。


「くっ! 撃てない……」


「や、やめろー! 彼女を離せ!」


 世界征服委員会のやつが木材を、ばんばん小型ガイガイネンに叩きつけるがダメージは「1」点だ。


「ゐーっ!〈任せろ!〉」


 走り込んでからの【正拳頭突き(ラビロケット)】。

 『昏倒』が入る。イベント時より状態異常が入りやすくなっている気がする。

 【自在尻尾】で女戦闘員を救出、男性戦闘員に投げ渡しておく。


「うおっ……あ、ありがとう……」


「ゐーっ!〈ほれ、撃っていいぞ!〉」


 射線確保のために退いてやる。


「ナ、ナイスです! 【パワーショット】」


 小型ガイガイネンに大きな穴が空いた。

 さらに二発ほど単発の弓型武器を放って、小型ガイガイネンは沈黙した。


「そっち撃ちますよ!」


 『ホワイトセレネー』が狙う小型ガイガイネンは他の戦闘員を狙って動いているので、無防備で邪魔もいない。

 ……って、おい。他の小型ガイガイネンが『ホワイトセレネー』に向かっている。


「ゐーっ!〈おい、そっち! 気づかねえのかよ!〉」


 おそらく『ホワイトセレネー』特有の弱点。

 遠距離攻撃中心の組み立てをしていて、常に戦闘員からの援護を受けながら戦う『ホワイトセレネー』は、意識を集中させた時、周囲への注意が散漫になりやすい。


 くそ! 俺は『ホワイトセレネー』のところまで走る。

 【正拳頭突き(ラビロケット)】は短いながらもウエイトタイム中、復活なし、部位破損回復薬なし、じぇと子は未だに寝ているから【闇妖精の踊り】も使えない。

 こうなったら仕方がない。


「ゐーっ!〈【誘う首紐(ゲルギャ)】さらに【逃げ足(ステップバック)】〉」


 小型ガイガイネンが『ホワイトセレネー』を襲う直前に、小型ガイガイネンの首と俺の左手首を鎖で繋いで、バックステップに3m追加される【逃げ足(ステップバック)】を使用する。

 【誘う首紐(ゲルギャ)】には自動で【叫びの岩(ギョッル)】がついてくる。

 小型ガイガイネンに『鈍重』と『行動不能』を与えた上で『ホワイトセレネー』から3mほど小型ガイガイネンを引き離す。


「ゐーっ!〈【回し蹴り(ベスト・キッド)】〉」


 眼、眼を狙え!


「ゐーっ!〈【血涙弾(ブラッドバーン)】〉」


 小型ガイガイネンの眼を汚して『弱毒』と『強化毒』を入れる。


「ゐーっ!〈【一刺し】〉」


 さらに『熱毒』も入れる。

 スコップで殴ると「1」点ダメージ。

 ダメだ! 攻撃力が足りない。

 こうなったら毒で死ぬまで待つしかない。

 毒は効いている。後は、『行動不能』がいつまで保つかの勝負だ。


「そこっ!【ダブルパワーショット】」


 『ホワイトセレネー』が狙っていた小型ガイガイネンを倒した。

 同時に入れておいた『行動不能』が点滅を始める。

 点滅が始まったら、いつ状態異常が解けてもおかしくない。


「ゐーっ!〈おい! こっちだ気づけ! わっ! 【緊急回避(ウルフステップ)】〉」


 【野生の勘(ウルフセンス)】の赤いラインから逃れるように瞬間移動。

 まずい、もう後はヤバいスキルしか残ってない。

 鎖のせいで、小型ガイガイネンの至近距離から離れられない故に、小型ガイガイネンが適当に振り回す脚に簡単に当たる可能性が高い。


 一撃は【回避】もあって、ギリギリ避けた。

 だが、次はもう無理だ。腕を飛ばすか……。


「肩パットさん! 【ムーヴスラッシュ】!」


 俺がそう覚悟しようとした時、『ホワイトセレネー』の移動攻撃が決まった。


 それまで毒ダメージが蓄積していた小型ガイガイネンはその一撃で果てたようだった。

 小型ガイガイネンが死んだことで、【誘う首紐(ゲルギャ)】の鎖が消える。


 辺りを見回せば、小型ガイガイネン、最後の一匹がシシャモの手で潰れようとしていた。


「くっ! 活動限界が……苦し……だ、ダメ、だ……」


 巨人の踵から水が溢れ出す。

 おそらく、中のスライムが死んだのだ。

 シシャモも粒子化したのだろう。

 レオナが近づいて、『動く棺桶(リビングコフィン)』を回収した。

 これ、シシャモがアイテムドロップしなかったら、一緒に粒子化してるはずだよな。鎧という扱いのはずだ。


 ギリギリで最後の小型ガイガイネンは死んでいた。


「ゐー……〈頑張ったな、シシャモ……〉」


 俺はそれを見て、シシャモの死を悼んだ。

 今頃は基地で復活しているだろうけどな。


「か、肩パットさ……ううん。肩パット!」


 『ホワイトセレネー』に声を掛けられる。


「今日のところは、た、助かり……ました……」


 どんどん、声が小さくなっていくな。


「で、ですが! 先日の鉱山での雪辱は必ず果たさせてもらいますからっ! 必ず! き、今日のところは見逃してあげます……だ、だから、逃げて下さい……」


 言うだけ言って、くるりと『ホワイトセレネー』は俺に背中を向けた。

 『ましろ』の時にも感じたが、基本的に悪い娘じゃないんだよな。

 ここで俺が全力で攻撃とか選んだらどうするつもりなんだろうか?

 敵に対して、無防備に背中を見せるとはな。


 そんなことを考えると、くすりと笑ってしまう。

 まあ、今日のところはお言葉に甘えておこう。


「ゐーっ!〈次はちゃんと勝負しようぜ、ホワイトセレネー!〉」


 俺はレオナと共に一度、遠くまで逃げる。

 周囲に誰もいないのを確認して、人間アバターを被った。

 キョロキョロと周囲を確認しながら、俺の畑に戻る。

 隣りの畑から『ましろ』が声を掛けて来た。


「もうガイガイネンは退治されたみたいですよ……あ、お仲間さんが……」


 俺は沈痛な顔をして頷いておく。


「そうですか……残念です。でもお二人が逃げてくれて良かったです。畑も無事でしたしね」


 もしや、『ましろ』は俺の畑を配慮して戦ってくれていたのか。

 確かに、極度に集中して小型ガイガイネンを狙っている時、小型ガイガイネンが追っていた戦闘員は俺の畑の方向に逃げていた。

 そうか、恩義を感じて畑を守ろうとしてくれていたのか。


 俺はゆっくりと頷いておく。


 それから、残りの仕事を済ませて、俺とレオナは電車で帰った。


「なんだかグレンさん、恨まれてましたね……」


「ゐーっ!〈まあ、この前の作戦行動で『ダチョウランニングシューズ』の補助をしていたからな。俺は目立つし、恨まれもするさ〉」


「まあ、あの時もグレンさんは大活躍でしたから……」


「ゐーっ!〈だが、まさか隣りの畑が『ホワイトセレネー』とはな……〉」


「バレないようにして下さいよ」


「ゐーっ!〈ああ、分かってる。大丈夫だ〉」


「まあ、これで相手方に新素材発見の芽は無くなりましたからね。

 ひと安心です」


「ゐーっ?〈そうだな。ああ、そういえば、レギオンイベントの方ってどうなってるんだ?〉」


「それは一度、戻ってからにしましょうか」


「ゐーっ!〈りょーかい、幹部殿!〉」


 俺たちは隠れ家から『りばりば』基地へと帰るのだった。




なんで呼び名が一号と一型があるんでしょう?

それはね、装備部とシシャモくんの間に考え方の違いがあるからなんですよ。

装備部はこの鎧は使い捨て、最悪無くなる前提で考えているから一号。次は二号、その次三号……。

シシャモくんは、この鎧が前提でオプションパーツ着けたりしてリビコフ二型はアサルト装備、リビコフ三型はバスター装備みたいになるんだろうなーと想像しているのです。

シシャモくんの考え方は間違いじゃないんですが、前提条件が違うんですね!

運用目的にも齟齬があったりしてね……。

まあ、マッドサイエンティスト怖いよねーってお話。


頭突き用、角斧。

古くはファイブスターのREDミラージュ。最近だとファフナーの映画で出てきました。あの、どうにか人型のまま武器を増やせないかと試行錯誤した結果、喧嘩の時に頭突き使えたら良くね? 的思考が好きです。

マジンガーの口から錆る風でもなく、ガンダムの頭にバルカンでもなく、パチキ強化! コレだろ! って考えた技術者たちの、たぶん徹夜とかしまくってハイになってつけちゃった♪みたいな感じがたまりませんw

分かる人いますかね?


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― 新着の感想 ―
[一言] 早速、お隣さんがヒーロー しかもあちこちで怪人とヒーローがw
[良い点] すんごく面白いです。 [気になる点] 死を傷んだとありますが、この場合のいたむは 悼むが適当かと。
[良い点] コイツ……動くぞ! [一言] 企画書 1分の1、シシャモ・フルアーマー 個人用をどれだけ重く固く出来るかの実験用装甲服、動力は無く武装は大型の物が好ましい 目標重量は1トン 最大火力の…
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