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90〈はじめてのましろ〉

本日、二話目です。

まだの方は前話からお願いします!


読者様からの感想により着想を頂いたお話。

技術流出はなくても、これ新素材発見案件じゃね? と考えさせられたから、このお話が生まれました。ありがとうございますm(_ _)m


 俺は社長室を出て、バカ息子の所へ戻る。


「すいません。お待たせしました」


 バカ息子は鼻で笑って言う。


「はっ! それで勝負受けんの?」


「だいぶ自信がおありのようなので、正直、迷いましたが、ふたつ、条件があります。

 それを飲んでいただければ、お受けします」


「条件? なんだよ」


「ひとつは、『りばりば』がもし勝ったら、かっちりホールドの中古をお買い上げ下さい。さすがに新型の新品をサービスするとなると掛け金が釣り合わないですから」


「ふーん、それで、二つ目は?」


「正式に契約書を交わして下さい。

 その方がお互いに安心ですから」


「『りばりば』が負けたら、十台全部に新品の新型をサービスだぞ。

 それと神馬ちゃんも参加するんだよな」


「はい。負けたら自分が一生タダ働きになっても、サービスさせていただきます。

 参加に関しては出られるものなら参加させていただきたいとは思っていますが、こればっかりはレギオンの方針にもよりますので、ご確約はできかねますね。すいません……」


 どんな結果でも、社長が払うという契約書を既に交わしているけどな。


「よーし、負けて文句とか言うなよ」


「はい。精一杯、喰らいつきたい所存です!」


「じゃあ、契約成立だ」


「では、明日、正式な書面でお持ちします」


「はいはい。そこら辺は任せるわ。神馬ちゃん!」


「失礼します」


 俺は退室する。




 会社に帰って、契約書を作り、部長に経緯をリンクボードで送る。

 結果、残業か。

 とっとこ家に帰って、休みたいぜ。




 俺はログインした。

 目の前に『長鳴き神鳥』のキウイがいる。

 め、目立つな。


「こけ?」


「ゐー……〈おう、キウイ、お前もフジンやじぇと子と同じ扱いか……〉」


 キウイの首周りを軽くかいてやる。

 かなり、ふわふわしている。


 おや? またメッセージだ。


レオナ︰お話があります。ログインしましたら、装備部までお越しください。


 なんだろうか? まあ、行けば分かるか。


 俺は『大部屋』を出て、『装備部』へ。

 レオナがいるのは三階だろうから、二階でポーション類を買ってから向かう。


 三階に上がった途端、白衣を着た男性戦闘員が話し掛けてきた。


「わ! ……あ、グレンさんですよね。レオナさん呼んで来ますから、少し待って下さいね」


 知らないやつに知られている。

 複雑な気持ちになる。

 あと、キウイはデカいから、俺より目立つな。


 裏からレオナが出てきた。


「ゐーっ!〈おう、レオナ!〉」


「こんにちは、グレンさん。いきなり本題で申し訳ないんですが……」


「ゐーっ?〈ああ、問題ないぞ。急用か?〉」


「ええ、えーと、どこから話せばいいのか……」


 レオナは少し迷った素振りを見せてから、ようやく口を開く。


「昨日、他の戦闘員から質問があったんですね。

 今、グレンさんは『シティエリア』で全ての野菜を育ててらっしゃるじゃないですか」


 俺は頷く。


「それでその……こちらの世界の植物を育てるのは、技術流出にならないのかと聞かれまして……正直、今まで畑をやるプレイヤーっていなかったので、私も考えてすらいなかったのですが……これ、あからさまにまずい状況なんです。

 おそらく『りばりば』からの技術流出にはならないんですが、ヒーローレギオンの手にこちらの世界の植物が渡ったりしたら、確実に技術流入でポイントが入ってしまうと思います」


「ゐー……〈そりゃまずいな……〉」


「先日、レギオンレベル上昇で個人スペースというのが解放されたのはご存知でしょうか?」


「ゐーっ?〈日曜の作戦行動か? 最後の方は周りの盛り上がりから逃げていて、まともにアナウンスとか聞けてないんだ〉」


「ああ、確かに凄かったですからね。

 では、改めて説明しますね

 先日のレギオンレベル上昇で『個人スペース』というのが解放されました。

 レギオン基地内に自由にできる個人の空間が持てるというものです。

 『プライベートルーム』との違いは、牧場や農園が作れるということです。また逆に家を建てたりお店を建てたりもできます」


「ゐーっ!〈おお、なるほど! つまりそこを買って、こっちの世界の植物を移し替えればいいってことか!〉」


「はい。ただ問題がありまして……かなりお金が……もちろん、こちらがお願いしているので出来得る限りの援助はするんですが……」


 金の切れ目が縁の切れ目だからな。

 ここからは慎重に立ち回らねえと。


 時間にして二十分ほどだろうか。

 俺とレオナは話し合った。

 ちょっと営業モード入って疲れてしまったが、結果的に今の俺の畑・水田・沼地と同じ面積の土地を得て、俺は所持金5万マジカちょい。借金400万マジカになった。

 これには『個人スペース』のリフォーム代金も含まれている。


 昨日の今日で話を持って来るということは、従妹と話したようにレオナが動かせるだろう金は100万マジカだということで、さらにレオナが『りばりば』の会計から400万マジカは絶対に引っ張ってくると言い張るので、合計1000万マジカの買い物になった。


 まあ、本来なら全額、即金で入れなきゃいけない金を無利子で400万マジカ待ってくれる上、まとまったスペースを一気買いさせてくれたんだ。

 悪いことじゃない。


 返済だって、俺が作った野菜の半分を『りばりば』が買い上げてくれて、それを返済に充てる形にしたから、慌てて金を用意する必要もないしな。


 高い買い物だが助成金を利用して、先行投資したようなもんだ。


「ゐーっ!〈よし、じゃあ、植え替えしに行くか〉」


「ここ、後のことお願いします。幹部として見届けが必要なので」


 レオナは他の装備部のやつに残りの仕事を託した。

 レオナが着いて来るらしい。

 それならばとシシャモも誘うことにした。

 そろそろ畑のことも覚えさせたいからな。


「あ、シシャモくんが来るなら、作った試作品、持っていきますね」


「試作品? 」


「とりあえず、余った素材を使って装備部のみんなと作ってみた趣味の品です。

 シシャモくんに試して貰おうかと……」


「ゐーっ?〈へえ、どんなもんなんだ?〉」


「それは、後でのお楽しみです!」


 レオナがお茶目に笑う。


 『長鳴き神鳥』のキウイは、一足先に買ったばかりの『個人スペース』へ。


 『個人スペース』は白い壁に囲まれた屋根なしの空間という感じで、先にある程度設定した畑・水田・沼地・水場・牧場がある広大な土地だ。


「上空200mまでで、空に見えるのはホログラムです。時間経過で朝、昼、夜の移り変わりや季節の空なんかも映せますよ。

 もちろん固定も可能です。

 周囲の壁は、他の人の『個人スペース』と連結することもできます。

 装備部の人たちは小さなスペースを幾つも連結して、昔の商店街を再現して遊んだりしているみたいです」


「レオナは『個人スペース』は買ってないのか?」


「その内に、とは思っていますが、やることたくさんあり過ぎて、まだしばらくは無理ですかね」


 確かにレオナの場合、装備部、人事部、新人研修もやるし、大首領との謁見やら他のレギオンとの折衝、俺たちとも遊ぶしな。

 がっつりやり込んでいるから、ログアウトも遅いらしい。


 とりあえず、キウイは『シティエリア』に連れていけないので、ここに放しておくことにする。


 『大部屋』でシシャモと合流。

 人間アバターを被ったら、いつもの『経済区』の隠れ家へ。


 レオナとシシャモは不動産屋に寄ってからになるので、俺は一人、電車を使って一足先に畑へと向かう。

 『郊外』の駅で電車を降りて、少し歩けば俺の畑だ。

 ちらほらと『郊外』に人が増えて来ている。

 年齢層が随分とまちまちなので、プレイヤーだろう。

 ドローンもあちこちで飛んでいる。


 俺の畑だ。今日は収穫がまだだったな。

 画面を呼び出して、ドローンを飛ばす。

 幻想種は収穫が終わり次第、更地にして、新たに『シティエリア』で植えても問題のない野菜と交換していく。


「すいませーん。こちらの畑の持ち主の方ですか?」


 歳の頃は二十代半ば、ピンクのブラウスに白のロングスカート、 日除けにつば広の帽子を被った少し赤毛の清楚系美人だ。

 ロングの髪をお団子にしている。


 俺は頷く。話せないからな。


「大きい畑ですよね。キュウリとかお茄子とか色々やってらっしゃって、凄いなあって見させて頂いてたんです」


 世間話か。普段なら一緒になってアレコレ畑トークくらいしてもいいんだがな。

 生憎とこちらは戦闘員語しか話せない。

 なんとなく耳に入れながら、作業を続行する。


「えっと、ましろと言います。実は今日からお隣で畑をやらせていただこうと思いまして……」


 おお、ついに俺の畑の隣りにも人が入ったか。

 『ましろ』を見て、また頷く。

 『シティエリア』だと名前が頭上に表示されないからな。

 フィールドに出れば、違うんだが。


「あの、よろしかったら、やり方とか教えていただけないでしょうか?」


 『ましろ』は自分の画面を可視化させて見せてくる。

 まあ、プレイヤーだよな。

 正直、画面でも出さない限りNPCとプレイヤーの差なんてほぼないからな。


 画面を覗かせてもらう。

 ドローン完備の二十区画。

 とりあえずお試しでやってる感じだな。


 指さしで、コレを押せ、アレを押せと指示していく。


「えっと、この土の攪拌から……畝作り……」


 ドローンが動き出して、畑の整備を始める。


「それで、なるほど、画面のひとマスに種を……あれ? 押せない?」


 隣りで自分の作業を進めていたら、『ましろ』は困惑した表情を向けて来る。

 なんだ、と思って、また『ましろ』の画面へ目を向ける。


 俺はため息を吐いた。


 『ましろ』は畑を買って、種を持っていなかったのだ。

 仕方がない。

 俺は自分の画面を可視化させて見せてやる。


「わっ、細かいですね……あ、あっちの水田もあなたのなんですか……」


 俺は表示を二十区画ほどに絞って、『ましろ』と同じ画面にしてやる。

 それから、種のところを押したら、ずらずらと種が表示されていく。


「え、なんだか種類がいっぱい……コレってレベルアップなんかで種類が増えるとかなんですか?」


 俺は首を振って否定する。

 それから、ドローン小屋まで歩いていく。

 『ましろ』はおっかなびっくり、俺の後をついて来た。


 自分のドローン小屋のインベントリを可視化させて開いてやる。

 幻想種はさすがに分けてやる訳にいかないので、普通の現実世界で手に入るものだけをソートして、一種類、5粒ずつ取り出す。

 『ましろ』に手を出させて、それを渡してやる。


───グレンからましろへアイテムトレードを申請中───


───グレン︰キュウリの種←→ましろ︰0───


「えっ! あの、いいんでしょうか? お金払いますよ」


 収穫すると勝手に種が貯まる仕様だから、種は余っている。

 俺は手を振って否定して、種を押し付けていく。


「グレンさん……グレンさんとお呼びしてもいいですか?」


 俺は頷く。


「グレンさん、ありがとうございます!」


 深深とお辞儀をされる。中々に気持ちのいい娘だ。


 『ましろ』が俺の渡した種を、『ましろ』のドローン小屋のインベントリにしまうと、『ましろ』の画面の種の項目が明るくなる。


 『ましろ』は嬉嬉として種を植えていった。

 画面には収穫までの時間や、ドローンに管理を任せるかといった項目が出て、その後のヒントなどが表示される。


「ふんふん……なるほど……ええっ!」


 『ましろ』がへなへなと座り込みそうになっているので、支えてやる。

 今の流れの中で、何か辛いことでもあったか? そう思っていると『ましろ』は力が抜けたように言う。


「最初の収穫まで二十二時間も掛かるんですか……そんなぁ……」


 いや、そんなもんだろ。とは思うが、噂を聞いて始めたのなら、何も分からなくても当然か。

 まあ、お隣さんだしな……。

 俺は自分の畝からキュウリをもぎって、一本渡してやる。


「え、いいんですか?」


 ほれ、とキュウリを前へ。

 『ましろ』はおずおずと受け取る。

 俺はもう一本もぎって、ドローン小屋の水道へ。軽く洗ってから齧って見せてやる。

 『ましろ』も見よう見まねでキュウリを洗ってから、齧る。

 普段ならそのままでもいいんだが、なんとなくお嬢様っぽいし、洗った方が『ましろ』的には食べやすいんじゃないかと思ったのだ。


「あれ?」


 ポリポリとキュウリを齧りながら、頻りに首を捻っている。

 俺はすぐに原因に思い当たったので、感覚設定の画面を可視化させた。


「あ、え? リアル?」


 俺は頷く。それからキュウリを齧って見せる。

 うむ、相変わらず美味い。


「リアル設定にして……」


 『ましろ』は素直にリアル設定にしたようだ。


「んんっ! 美味しいっ!」


 とてもいい笑顔を見せてもらった。

 うん、俺の中の【農民】スキルも喜んでいるようだ。【蠍農民】スキルもな。


 茄子と蕪と、生で食えそうなものを渡してやる。

 ドローン小屋のインベントリにはキャンプセットも入れてあるので、軽く火を起こして、調味料を並べて。

 好きに使っていいぞとジェスチャーで伝える。


「うわー! うわー! ありがとうございます! 幸せです!」


 芋でも焼いてやるか。

 美味そうに食ってる姿を見ると、こちらまで幸せになれる。

 たまに、こういうゆったりした時間が流れるのもいいなと思える。


「あの、あの、よければアレも食べてみたいです!」


 精霊樹の実か。まあ、ここにあるのも今日が最後だ。

 食わせてやるか。

 俺は精霊樹の実をひとつ取ってやった。


「綺麗! ……はむ。ん〜!」


 もう洗わずにがっつりいってるな。

 そこまで夢中になってもらえると、こちらも嬉しいものだ。


「はぁ〜、もう口の中が幸せすぎて……どうしたらいいか……」


「グレンさーん!」


 シシャモの声だ。

 俺は手を挙げて応える。


「シシャモくん、こっちから回りましょう」


「はい」


 レオナとシシャモが畑の外周を回って来る。


「あ、長々とすみません。すっかりご馳走になってしまって……」


 俺は手を振って、気にするなと伝える。


「じゃあ、私は自分の畑に戻りますね。ありがとうございました!」


 俺は残った野菜の幾つかを『ましろ』に渡してやる。

 『ましろ』は何度もこちらにお辞儀して、ありがとうございます、と言いながら自分の畑に戻っていく。

 俺は『ましろ』にも手を軽く挙げて応えた。



実はシシャモくん以外に野菜泥棒がいた場合、そして幻想種を手に入れていた場合、どこかのヒーローレギオンのレギオンレベルが上がっている可能性があります。〈怪人レギオンは新素材とはなり得ません〉


 テイム野菜たちの警備力がちゃんと働いていることを信じましょう!〈こまっつな〜w〉

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― 新着の感想 ―
[一言] これ迂闊にトレードしたら ヒーローサイドへの技術流出ありそう...
[気になる点] シシャモは番号は何番になるんだろうか… と言うか、次に登場するりばりばキャラのアバターネーム(番号)が楽しみでしかたがない。 [一言] またヒロイン候補を増やしやがったグレンさんw し…
[一言] 精霊樹の移植は大変そうだな
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