86〈はじめてのキウイ〉
二つ目の橋だ。
木製だがしっかりめの橋。
『三番島』に渡る。
もちろん、駆け抜ける。
魚系ドロップやコンパク石は欲しいが、命が惜しいからな。
『三番島』では、植物系モンスターが多いと聞いて、俺の期待が高まる。
変な蔦が寄り集まってできた人型モンスターグリーンマン、歩く巨大きのこのキノコニア〈シメジ〉、〈マイタケ〉、〈エリンギ〉、コイツらは状態異常『胞子寄生』という技を使ってくる。この状態異常は見た目が気持ち悪くなるだけという意味不明なものだった。
放置していると段々と身体からキノコが生えてきて、身体を覆い尽くすらしい。
俺の【血涙弾】と同じで状態異常として扱われない状態異常が出せるという意味では凄いと思ったが、それだけだ。
顔に生えたら『目隠し』、関節に生えたら『行動阻害〈小〉』という感じだろうか。
でも、手で払っただけでポロポロ落ちる。
他には全身が真っ赤でクリーム色のつぶつぶがついた人型のレッドマン。
グリーンマンは何も落とさなかったくせに、レッドマンは種を落とすようだ。
「ゐー?〈レッドマンの種?〉」
「あ、イチゴの種ですね、これ!」
シシャモが声を上げる。
俺は無言で、レッドマンの種をインベントリに戻した。
また、レア種かよ……。
もしや、キノコニア胞子も皆のインベントリにはキノコ胞子が入ってるのか?
少し怖いから確認はやめておこう。
進んで行くと、次の橋? が見えた。
海の上にロープが二本、手すり代わりに渡してあり、丸太が一本、縦に延々と繋がっている。
「ゐーっ!〈ここを駆け抜けるのは厳しくないか?〉」
「素早さがだいたい12以上あれば、飛太刀魚や飛烏賊に捕まらずに行けますよ」
素早さが12!
危ねぇ……一応、足りてるな。
丸太の一本橋を渡っていく。
自分で思っているより、安定して動けている気がする。能力値補正と言えばいいのか。
現実の俺では、この橋をこんなバランスでこんな速く動けるはずがないんだが、楽に渡れてしまう。
この感覚はどういえばいいのか?
子供の運動会に参加した父親が、普段、碌に運動していなくて、むかしと同じ気分で動いたら自分の想像と実際の能力のギャップに苦しむのと逆というか。
普段、ゲームしている時よりも慎重に自分の身体と向き合った結果、意外と動けることに笑ってしまう俺がいた。
こりゃ現実でも、もう少し運動した方がいいな。
この感覚に慣れると、現実の俺は運動会のギャップに苦しむことになりそうだ。
俺たちは『四番島』へと入った。
「こけーっ!」
橋を渡り切った瞬間にモンスターから奇襲を受けた。
俺は前回り受身の要領でゴロゴロと転がった。
「長鳴き神鳥!」
レオナが叫んで銃弾を撃ち込む。
どんなやつかと見れば、神鳥というかデブ鳥だ。
丸々としたダチョウクラスの大きさのニワトリ。鶏冠に白い毛が生えていて、尾も綿毛付きの羽根が長く伸びていて神々しいが丸い。
デブ鳥はレオナの攻撃に「1」点ダメージしか喰らわない。
余程、防御が高いのだろう。
「レアモンスターです! 撃って! 逃げられる!」
俺は慌ててインベントリから『ベータスター』を取り出す。
橋を素早く渡るために仕舞っておいたのが仇となった。
くるり、デブ鳥が向きを変える。
「こけーっ!」
翼を広げるとさらに大きさが増して、大迫力だ。
「わわわ……」
シシャモがその迫力に押されて尻もちをつく。
デブ鳥が助走をつけて、跳んだ。
レオナはハンドガンで連射するが、弾切れのようだ。
木の太い枝にうまいこと着地する。
「ゐーっ!〈逃がすか!〉」
俺は『ベータスター』をフルオートで連射する。
的がデカいので面白いように当たるが、デブ鳥はさらに跳躍、次の木へ。
俺たちは追う。走りながら装弾。
「あれを倒すとレギオンレベル上げアイテムが手に入る可能性が!」
おお、そうなのか。
確か、この前の『ダチョウランニングシューズ』の作戦でもうひとつレギオンレベルが上がっている。
さらに弾みをつけたいところなのだろう。
戦争って技術力上がるな。
デブ鳥は奥へ、奥へと逃げるので、俺たちは全力で走っていた。
上を見ながら走るので、しょっちゅう転びそうになる。
前を走るオオミは木の根っこに足を引っ掛けて盛大に転ぶ。
転んだ拍子に大斧が木の幹に深々と刺さった。
オオミの力でも簡単には取れないような刺さり方をしているらしい。
「俺のことは置いていくサイ!」
「くっ……はぐれたら次の橋で!」
いや、間抜けだろ。
それこそ最終回で言うようなセリフなのに、ここで使うのかよ。
普通にフィールド探索の途中だわ。
「置いていけません! 僕の【装備重量無視】で!」
なんでこんな最終回っぽいセリフをぽんぽん使っているんだろうな、俺たち……。
デブ鳥は軽やかに次の木へ。
正直、俺は茶番に参加する余裕がない。
「あっ!」
レオナが急停止する。どうやらキノコニアの群れに絡まれたらしい。
「グレンさん、先に! 後で必ず追いつきます!」
「ゐーっ!〈くそ! デブ鳥は俺が!〉」
俺は一人でデブ鳥を追う。
ようやく茶番劇に参加できた気分だ。
デブ鳥は木から木へ飛び移った瞬間、次の木を探すための間がある。
撃つならそこがチャンスだ。
デブ鳥が跳んだ。
俺は『ベータスター』を構える。
止まる。と思ったらデブ鳥は急に、くるりと振り向いて、俺に向かって急降下してくる。
「き、きうー!」
「ゐーっ!〈いてててて……〉」
右肩のフジンが棘脚で俺の肩に強く捕まる。
はっ! まさか、あのデブ鳥の狙いは……。
俺は横っ跳びに逃げる。
「こけーっ!」
野郎! やっぱりフジン狙いか!
デブ鳥のどこにあるのかよく分からない首が、シュッと動いて、くちばしがフジンを狙う。
「きう〜……」
おいコラ、テイムモンスター……戦えや。
デブ鳥の攻撃軌道は【野生の勘】で見えているので、どうにか避ける。
避けたと同時にフルオートで『ベータスター』をぶっぱなす。
デブ鳥にダメージ。だが、デブ鳥は形勢不利と見るやいなや、また、くるりと反転、翼を広げる。
「ゐーっ!〈逃がすか! 【誘う首紐】〉」
鎖が伸びて、デブ鳥の頭の下くらいに首輪が嵌る。
首、そこかよ。
デブ鳥が跳んだ。もちろん、俺もだ。
デブ鳥が木の枝に着地。俺は必死に空中で体勢を整え、デブ鳥の背中に乗った。
「ゐーっ!〈もう、逃がさねえよ!〉」
『ベータスター』に装弾。デブ鳥の頭にポイント。
「ゐー……〈喰ら……〉」
くるん、とデブ鳥の顔が百八十度回って、こちらを見た。
───長鳴き神鳥〈肥満〉があなたの群れに入りたそうにしている───
「ゐー……〈いや、お前、フジンのこと食おうとしてたじゃねーか……〉」
デブ鳥がくちばしを腹の辺りにゴソゴソしたかと思うと俺に向けて咥えたものを突き出す。
▽金の鶏〈彫像〉
普通の大きさの金の鶏の彫像だ。
「きうーっ! きうーっ!」
フジンがデブ鳥に威嚇している。
お前ら、形勢逆転した途端に酷くねえか?
どっちもどっちだな。
「ゐーっ?〈これで水に流せって?〉」
「こけけ……」
たぶん、これがレオナの求めたレギオンレベルを上げるアイテムだろう。
……ふぅ。仕方ない。
「ゐーっ!〈まあ、この乗り心地も悪くないしな……仲間にしてやるよ〉」
俺が言った瞬間、またMPが30点ほど吸われた。
これ、テイムって制限ないのかね?
───長鳴き神鳥〈肥満〉のテイムに成功しました───
───名前︰■■■───
名前!? また名前か。
デカい鳥……なんだっけ? 絶滅した飛べないデカい鳥っていたよな? 飛べない鳥……モ、モ、モ……キウイ! いや、あれはまた違うやつか。
まあ、あれでもいいか。飛べないし。
「ゐーっ!〈キウイ。キウイでいいか?〉」
「こけ? 」
「きうー!」
「こけけ。こけこっ……ごふんっ! ごふんっ!」
キウイは長く鳴こうとして、喉を詰まらせていた。太り過ぎて、喉詰まってんのかよ……。
長鳴けねえ、長鳴き神鳥ってどういうことだよ……。
俺の中の『ロンリーウルフ』がひと声、長く遠吠えをしたような気がした。
おまけ
初期に出ると嬉しいガチャ魂のひとつ。
『アースナイト☆☆☆』
トール+3 テュール+3 ヘルモーズ-3
【│騎士の矜恃】
あなたは全身鎧に限り装備重量を-30して装備できる
・鎧は常に磨いておけ、誰かを護るためのプライドなのだから
【二連斬り】
命中︰-5 攻撃︰+25 距離︰至近距離 範囲︰単体 代価︰体力-5
あなたの攻撃は斬撃武器を装備している時に限り、一撃で二回攻撃するこの技を使える。
・素早く! とにかく素早くだ! 筋肉があればできる!
【騎士の鎧】
あなたは防御能力〈物理〉5を得る。あなたに対する物理攻撃は常に-5される。
・鎧は常に磨けと言ったな。貴様に宿る筋肉は嘘をつかない! 磨け! 磨くんだ! ほら、油も塗っておけ!
【│重斬撃】
命中-5 攻撃+60 距離︰近距離 範囲︰単体 代価︰疲労+8
あなたは斬撃武器を装備している時に限り、強い風圧を伴うこの技を使うことができる。
・マッスルパワーだ! マッスルパワーを使えば強力な技が使える! 俺の腕を見ろ! まるで樽が入っているようだろ。さあ、今の言葉を俺の筋肉にかけてくれ!
斬撃武器縛りな上、全身鎧縛りだが、愛用者は多い。
防御能力は鎧と別計算なので便利。ちょびっとだけ飛ぶ斬撃も初見の時なら引っかかってくれる。




