78〈はじめての……〉
本日、二話目です。
今日は出来れば、あと短いのひとつと、普通のひとつ上げたい所存。
いつも誤字報告、助かってます。なんか専属の編集さんがついてくれてる気分。
漢字間違いとか多くてごめんねえ……。
この二日くらいは時空パトロールの出番がなくて、それだけが救いw
『ロータスフラワー』とは一度、戦っている。
攻略法もある程度見えている。
ピンクのドレスが宙を舞うように動いている。
辺りにはヒーローレギオン『ヴィーナスシップ』が撃ち込んで来るビームチャクラムが降っている。
マンジ戦闘員、ガイア戦闘員、火炎浄土の戦闘員……近づけば『ロータスフラワー』のスキル【戦の地母神】と手にした二本の曲刀の餌食だ。
【戦の地母神】は空中を自在に飛んで敵を自動迎撃する武器、この場合は二本の曲刀を呼び出すスキルだ。
ただ、前回もそうだったが、俺の【夜の帳】のスキルに反応してしまう弱点があるので、ある意味スキルを封じるのは容易い。
【夜の帳】を二発。
同時に俺は近づいていく。
『ロータスフラワー』は笑っていた。
それは狂乱の笑いだ。
敵を切り裂き、両断することに高揚感を得ている。
「あははははははははっ! ほらほら、再生怪人を倒しちゃうわよ。ちゃんと守ってあげなきゃ!」
いたぶって遊ぶ姿が、ちょっと猫っぽい。
その『ロータスフラワー』の視線が、俺が放った闇の靄へと向いた。
「ちっ! この前のダークピクシー使いがいるわね!」
ダークピクシーのスキルだと気づいた?
この前の敗戦の後に調べたのか。
黒い靄を空飛ぶ曲刀が迎撃する。
ダークネスはダメージを出さないスキルのため、迎撃不能だ。
スピードは遅いので、避けるのは容易だが、当たるまで追い掛けるウザイ技でもある。
「無駄よ!」
『ロータスフラワー』が曲刀を一本仕舞って、サングラスのような物を掛けたかと思うと、わざわざ黒い靄に当たりに行った。
「対策はしてきたんだから!」
暗視ゴーグルの進化版みたいな装備らしい。
しかも、【戦の地母神】を活かすために自分から当たりに行くのか……。
ならばと俺は折れかけた『ショックバトン』を装備して、さらに近づく。
正面に行かなければならない。
ゴーグルにしろフルフェイスのマスクにしろ、物理的に見えなくすれば問題ない。
「おう、なんか狙ってんだろ…… 」
前に出ようとすると、オレンジの全身タイツに革ジャンの『火炎浄土』戦闘員から話しかけられた。
バルトだ。少し声を顰めているが、相変わらず普通に話しかけてくる。
声を顰めただけ、成長か?
「オレはあと二機ある。やるなら命張ってやるぞ、相棒…… 」
ギラギラとした狂犬みたいな瞳だ。
俺は自分の目をピースサインで指し示し、その指をバルトの両瞳へと向けた。
「目と目を合わせんだな?」
通じたらしい。俺は頷く。
「よっしゃ! やってやろうぜ!」
バルトは『火炎バット』を肩に担いで俺に並んだ。
「どけ! 俺らがやる! 前を開けろ、オラぁぁぁー!」
大音声でバルトが叫ぶ。
瞬間、道ができた。
俺とバルトは正面から走る。
「なに? って戦闘員じゃない……」
暗視ゴーグルを掛けたままの『ロータスフラワー』が一度、仕舞っていた曲刀を装備しなおした。
曲刀四本。完全武装状態だ。
【夜の帳】を二発。
【戦の地母神】の最初の一撃だけ誘ってくれればいい。
『ロータスフラワー』が持つ両手の曲刀。
その内の一本にバルトがスキルを使った。
「【十字受け(クロスガード)】!」
バルトが火炎バットと腕をクロスさせる。
「え、吸い込まれるっ……」
相手の攻撃を無理やり自身の武器で受ける技らしい。
「くっ……やらせない!」
一気に肉薄する俺に対して、『ロータスフラワー』は最後の一刀を向ける。
それに対して、俺は折れかけの『ショックバトン』で曲刀の腹を叩いて、狙いをズラす。
俺に刃を向けるということは、俺を見ているということだった。
「ゐー! 〈見たな! 【血涙弾】〉」
「きゃあっ! 最悪!」
俺が飛ばした血涙を頭から被って『ロータスフラワー』の暗視ゴーグルも血塗れになる。
だが、俺の狙いはこれだけじゃねえ!
「ゐーっ! 〈この腕、貰った! 【神喰らい】〉」
『ショックバトン』を手放す。
『ショックバトン』は耐久力の限界だったのか、ポロポロと粒子化していく。
『ロータスフラワー』はバルトのスキルによって体勢を崩されていた。
それがなければ、俺の『ショックバトン』などものともせずに俺を貫いていたかも知れない。
だが、結果として『ショックバトン』を犠牲にした俺の曲刀叩きは、俺を守りつつ【神喰らい】のための隙を作ることに成功した。
俺の右腕が狼の頭になる。口を大きく開けた狼頭が『ロータスフラワー』の伸びきった細腕を噛みちぎる。
───神・戦の地母神を喰らいました───
血の香りと生肉の味が狼頭の口中に広がる。
何故かこれを美味いと感じる俺はおかしいんだろうか?
───ヒーロー『ロータスフラワー』の能力値が一分間、加算されます───
来た! カーリーか。インド神話だったか?
「ゐー! 〈【逃げ足】〉」
俺は一足飛びに後ろに下がる。
「は? おい、逃げんの? 相棒!」
置いてきぼりになったバルトが慌てたような顔になる。
すまん。一分間しかない。後は任せた。
という思いを乗せて、右腕を上げる。
「そりゃどういう意味でぶりゃっ……」
バルトは『ロータスフラワー』の蹴りを食らって脇腹から折れ曲がる。
パリパリ感が売りのソーセージの端と端を持って折り曲げていくと、あるところで「パリッ」といい音がして、中の肉がジューシーさを弾けさせる。
そんな感じでバルトは死んだ。
グロいがどうも俺の狼頭はアレを旨そうだと感じているのが分かる。
だが、そんなことを考えている場合じゃない。
バカみたいに増えた体力を使って、『マギシルバー』へと走る。
「ゐーっ! 〈戦争相手のヒーローは逃がさねぇ! お前は10点。『ダチョウランニングシューズ』の10点とこいつでチャラだからな!〉」
「くそ! 隠し玉の怪人か……上等だ。マギシルバーの名にかけて、お前を罰する! 【銀十字の剣】」
『マギシルバー』の目の前に両手で持つような大きめの十字架が現れる。
ソレを『マギシルバー』が握ると、十字架の頭から銀光の剣が伸びる。
アレが『マギシルバー』の必殺技になるのか。
その剣が放つ光が、コレが必殺技だと主張している。
『マギシルバー』が構える。
踏み込みがあるから、3m半径くらいは死地か。
ならば踏み込まない。
「ゐーっ! 〈【緊急回避】〉」
俺が踏み込む直前で、目の前に赤い光のラインが走る。
これは【野生の勘】の光だ。
元から踏み込むつもりのない俺は【緊急回避】で横に2mズレるフェイントをかけた。
それでも赤い光のラインは目の前を走っている。
分かっている。
『マギシルバー』が剣を構えてから、その極度の集中力で結界みたいになっている。
それを確認しただけだ。
俺は右腕の狼頭を構えて、突っ込む素振りを見せると共にスキルを使う。
「ゐーっ! 〈【一刺し】!〉」
5mまで伸びる蠍尻尾を蠍のように使う。
本来の使い方だ。
頭上には赤い光のラインが見えない。
『マギシルバー』にとっては想定外なのだろう。
「ぐっ……」
『マギシルバー』の肩に俺の【一刺し】が決まった。
『熱毒』の状態異常。
今の俺の状態異常の数値は本来の119に『ロータスフラワー』の変身後能力値344を足して463だ。
簡単には解けない上に、毒ダメージもデカいぞ。
「キメラ怪人め!」
「ゐーっ! 〈【血涙弾】〉」
俺のHPだって『ロータスフラワー』のHP分、増えている。
しかも全快時のものが適用されている。
撃てるんだよ!
だが、俺はここで選択ミスを冒した。
【血涙弾】の効果は『弱毒』と【毒強化】による『強化毒』。
毒責めで『マギシルバー』打倒を狙ったが、このスキルの代価はHPの三分の一だ。
確かに撃てる。
撃てるがHPの三分の一は代価として大き過ぎた。
『マギシルバー』は毒により減っていくHPの中で、俺に一太刀浴びせるべく、結界を自ら捨てて前に出た。
円の集中力を線に変換したのだ。
前へ、前へと進み、俺はHP量を過信して迎え撃つ。
確かに『弱毒』と『強化毒』は入った。
だが、一撃で俺のHPは全損した。
刃が当たり、それが高熱を発しているように俺の胸を切り裂いていく。
俺という存在に対する否定。
それが痛み以上の恐怖となって、俺を傷付けた。
熱い。痛い。怖い。
それまでも死は怖かった。
だが、肉体的な死は俺が興奮している時は痛みをあまり感じさせない。
だが、銀十字の剣によって齎された痛みは魂を割かれるような恐怖だった。
頭の中で、何故? が渦巻く。
何故、俺を否定する?
受け入れてくれてたのは、俺を騙すための嘘だったのか?
父は俺に興味を持たなかった。
でも、寒さに震える俺に毛布を掛けてくれたのは貴方だった。
信じていた。
信じていたのに……。
ひとつ眼に騙されたのか? そうだったなら、どれだけ良かっただろう。
貴方はわざと腕を引かなかった。
贖罪のつもりだったのか?
だが、俺はあの時、知ったんだ。
お前たちの味を。
そして、俺が生まれた意味を。
分かるか? これが恐怖だ。
愛を知り、その甘美な赤に酔い、使命に震える。
悦びと恐怖。それが波のように俺を攫っていく。
何故、俺を愛した? 何故、あの時、殺さなかった? 何故、俺に喰われた? 何故……。
俺は震える。
これは恐れか? 悦びか?




