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本日、二話目になります。
まだの方は前話からお願いします。
「イーッ!〈グレン、いつものお願いしていい?〉」
「ゐーっ!〈ムック、こっち来てたのか。任せな。【闇芸】〉」
俺の影と『マギシルバー』の影を繋ぐ。
ムックは素早く影を渡って、『マギシルバー』の背後へ。
俺は【夜の帳】を撃って、『マギシルバー』の正面に回る。
『マギシルバー』の動きは『マギミスリル』リスペクトらしく、バランスが良い。
また必殺技【退魔の矢】はエネルギーの矢を放ち、当たるとそこを中心に爆発する範囲系の技で、連発こそできないがウエイトタイム少なめで使い勝手がいいようだ。
再生怪人はシザマンティスとサボンスパイダーという石鹸と蜘蛛の怪人の二体が残っているが、逆に言えば三体やられているということだった。
ムックの『ショックスレイヤー』が『マギシルバー』に決まる。
「イーマダーッ!」
他の戦闘員の攻撃が二発、三発と決まるが、ほんの少しのズレ、一秒の半分に満たない時間で回復してしまい、その際の反撃が速い。
「ゐーッ!〈全員でやるリズムゲームみたいなもんか、無理ゲーだぞ〉」
『ショックバトン』の一撃はMPを10点ほど使う。
代価が重めなので、戦闘員たちは入れ替わり立ち替わり殴らないといけない。
この入れ替わり時によくミスが起こる。
特に他のレギオンとの連携が上手くない。
ほとんど変わらないようでいて、微妙にタイミングが違うのだ。
『オメガドラゴン』の時のようには行かなそうだ。
「イーッ!〈グレン、もう一度!〉」
ムックが戻ってくる。
「ゐーッ!〈分かった〉」
ムックが影を渡る。
影を繋げたついでに代価は重いが【闇妖精の踊り】を使ってみる。
《踊る?》
じぇと子が嬉しそうに言ってくる。
「ゐーっ!〈ああ、試しにな〉」
『マリオネット』の状態異常が出た瞬間、俺は土下座からの、うつ伏せになって、背中でリズムを取る。
「ゐー、ゐー! ゐー、ゐー!〈いっち、にー! いっち、にー!〉」
なるべく大きな声でリズムを出してみる。
『マギシルバー』は殴られたことで動きが止まるはずなのに、『マリオネット』によってリズムを刻む。
《ねーねー、それなんか面白いからもっと!》
じぇと子から俺、俺から影を伝わって力が流れるのを感じる。
「ゐー、ゐー! ゐー、ゐー!〈いっち、にー! いっち、にー!〉」
俺は声を張り上げ、指先をうねうねさせて変化をつけた。
《ぷふーっ! きゃっきゃっ!》
じぇと子が俺の前に来て、腕をクロス、自分を抱き締めるようにして指先をうねうねさせる。
そのまま土下座したら俺の格好と同じになる。
ちょうど今、ツボにハマっている最中らしい。
「シメッ、シメー!」「マジ、マンジー」「カエッ、カエーン」
暫くやっていると、他の戦闘員たちもリズムに合わせて叩くようになる。
《あ、グレン、ごめーん! 調子に乗りすぎた……》
「ゐーっ?〈いや、これ、維持、して、んの、じぇと、子だ、ろ? もす、こし、続、けて、欲し、いん、だ〉」
俺はリズムに乗ったまま、じぇと子に頼む。
《そうしたいんだけどー、グレンの身体が限界みたい。てへぺろ!》
限界? 何がだ? そう思った時には、俺の意識が、スーッと消えていった。
───死亡───
四度目の死だ。気持ち良く逝った。
魔石はあと三個。
だが、じぇと子が気に入れば、【闇妖精の踊り】に助力が得られることが分かった。
これは使える!
復活と同時に【闇芸】を今度は『ロータスフラワー』に繋げる。
「ゐーっ!〈【闇妖精の踊り】!〉」
───現在、その派生アーツは使えません───
はっ? 俺は慌てて左肩を見る。
じぇと子は寝ていた。
俺は死んだし、じぇと子は寝ている。
何か無理をさせていたということか……。
「ゐーっ!〈すまんな、じぇと子。ゆっくり休んでいてくれよ〉」
そう声を掛けて俺は辺りを見回す。
『マギシルバー』は現在、達人用の太鼓と化してみんなのリズムに動きを止めている。
ただフルコンボできなきゃ手痛い反撃が待っている。
煮込みは両手の鎌を打ち合わせて、必死に全員に声を掛けている。
「シザ、シザ! シザ、シザ!」
このままなら上手く回りそうだな。
視線を移せば、『ロータスフラワー』が既に自動攻撃スキル【戦の地母神】を使った後らしく、戦闘員がどんどん削られている。
ただ、『オメガドラゴン』を倒した戦闘員たちと再生怪人がそちらに合流しているので、一対百五十くらいの大立ち回りをやっている。
正直、俺が手を出す隙間がない。
ヒーロー側戦闘員同士の泥沼の戦いは、『オメガドラゴン』がやられてしまったことで『銀河ポリス』は戦意喪失。抜けられる者から戦線を離脱していっている。
それから『マギスター』はかなり劣勢に立たされていて、苦しそうだ。
それにも関わらずに、降参せず、果敢に戦っている。何やら意固地になってないか?
こちらもまだ無視していても大丈夫そうだ。
『ホワイトセレネー』対『ダチョウランニングシューズ』に視線をやれば、『ダチョウランニングシューズ』はボロボロだった。
『ホワイトセレネー』の白いスーツにも結構な傷はあるものの、『ダチョウランニングシューズ』は全身血みどろと言っても過言ではない。
「ん〜、貴方の敗因はスキルに対する理解度の不足ってところかしら?」
「ぜ〜、は〜……まだ、負けてないランニン……」
「ふーん。まだ奥の手とかありそうね」
「……ある、ランニン。【引きずり回す物】」
急加速スキルを使って、『ダチョウランニングシューズ』は『ホワイトセレネー』との距離を、ぐんと縮めるべく走り出す。
「いいけど、この技を破らない限り、何をやっても同じよ。【降り注ぐ月光】!」
何を思ったのか『ホワイトセレネー』が放ったのは自身の直上を中心とした範囲攻撃だ。
『ホワイトセレネー』の頭上から光の矢が大量に降ってくる。
「ぐっ……がっ……ぐはっ……」
『ダチョウランニングシューズ』は矢の雨に撃たれて、動きが止まってしまう。
状態異常『ショック状態』が頭上に浮かんでいる。
急加速するスキルもその場から動かないのなら無意味なスキルでしかない。
『ホワイトセレネー』は、まるで矢の落ちる場所を理解しているという風に、ゆっくりと歩いて、時に身体を半身にして矢を避ける。
もしかして、矢が落ちる位置を理解しているということか。
「そうやってスキルの力を振り回すことしかしないから、負けるのよ」
何かおかしいと見れば、『ホワイトセレネー』の周りの怪人側戦闘員が異常に少ない。
確かに『ホワイトセレネー』の範囲攻撃は広範囲に及ぶ。
まさか、魔石切れになるほど倒されたのか。
『ホワイトセレネー』が単発の矢を放つ。
「ガイアー!」「カエーン!」「マンジー!」
別レギオンの戦闘員たちが身体を張って『ダチョウランニングシューズ』を守る。
「くっ……すまないランニン……」
どうにか立ち上がる『ダチョウランニングシューズ』に『火炎浄土』の戦闘員が手を貸した。
「気にすんな、アンタならやれるって信じてんだよ、俺たちは! 勝て! そのためなら、俺たちゃ命張れんだからよぉ!」
「リーダー、戦闘員が喋っちゃまずいっすよ!」
「おう、そんなもん関係あるか! あと総長って呼べっ……」
アレはバカト、ではなくバルトか。
オレンジの全身タイツに革ジャン、指ぬきグローブはバルトだろう。
だが、そんなバルトは『ホワイトセレネー』の矢に撃ち抜かれて死んだ。
「たぶんですけど、火炎浄土のリーダー戦闘員ですね! みんな今みたいに喋ってくれればいいのに……そうしたら、戦術的中核から射抜けばいいから楽なんですけどね!」
「リ、リーダー! あうっ……」
次に話していた『火炎浄土』戦闘員も死んだ。
アイツらバカだな。だが、俺としては嫌いじゃない。
おかげで『ダチョウランニングシューズ』が状態異常から回復する時間が稼げていた。
よし! あっちに加勢だ!
俺は『ダチョウランニングシューズ』へと駆けた。
「くっ……近づきさえすればランニン……」
それを聞いた戦闘員たちがスクラムを組んで『ダチョウランニングシューズ』の前に壁を作る。
「ああ、さては貴方たち、バカですね?」
『ホワイトセレネー』は弓形武器の真ん中の棒をゆっくりと引き絞った。
作者はリズムゲームが特に苦手です。
フルコンボどころか精神的にフルボッコにされます。
見ている分には楽しそうなのになあ。




