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74〈はじめての採石場〉


「栄光のりばりば戦闘員のみなさーん! 

 もう少し『ダチョウランニングシューズ』が走り回る時間を稼げば、我々の勝利です! 

 敵は最終地点『鉱山』へと到着するまで、あと少しです!」


「魔石の準備をお願いしまーす!」


「武装は受付でお願いしまーす!」


 『大部屋』の中はにわかに騒がしくなって来た。

 ここでレオナが登場して、全員に活を入れるべく話し始めた。


「今回、敵ヒーローが多数参戦する可能性は、最初から計算されていました。

 特に『マギスター』の参戦はマストで考えられていました。

 おかげで戦争イベントへと繋げられました! 

 ここで、みなさんに朗報です! 

 今回の戦争イベントにおいて『ガイア帝国』『マンジクロイツェル』『シメシメ団』『火炎浄土』の協力を取り付けることに成功しました! 

 今回の作戦では『火炎浄土』を除く各団体から再生怪人を三体ずつ、他に戦闘員多数が参戦します。

 もちろん、我々からも再生怪人を五体投入します! 

 おそらくここが戦争イベントでの正念場になると思われます。

 頑張りましょう!」


「「「イーッ!!!」」」


「ウチの幹部たち優秀だなぁ」

「なんでマンジとかガイアが協力してくれんの?」

「主旨が被ってないからじゃね? ウチは自由。ガイアはヒーロー倒せりゃ何でもアリだし、マンジは鉄の規律だろ」

「要はウチが勝ってデカくなったところで関係ねえって思ってるからだろ」

「それじゃシメシメと火炎浄土は?」

「シメシメは祭りならなんでもいいんだよ。浄土は分からん」

「火炎浄土はワンマンだから、たまたまだろ」

「再生怪人って倍率低いじゃん。ヤバない?」

「扱いはちょっと強い戦闘員だからな。負けても得点に絡まない」

「でもコア作るの大変とか聞いたけどな」

「再生怪人コアは作れるからマシだろ。モノホンは拾うしかないからな」

「来週にやって欲しかった。そろそろログアウトだよ」

「え、このイベント逃すとかバカじゃね?」

「俺は明日、謎の腹痛で会社休む」

「お前んとこブラックなのな……」


 皆、今回の『作戦行動』に思うところがあるのか、普段以上に騒がしい。


「画面に注目! そろそろですよ!」


 大画面では絵がひとつに絞られる。


 海底トンネルを抜けて『鉱山』を走る怪人『ダチョウランニングシューズ』。

 追う『マギシルバー』。


 怪人はヒーローを挑発するように、尻をフリフリ、蛇行を始める。


「お前、遅いランニン! そんなんじゃ永遠に走ってられるランニン!」


「余裕がなくなったか? 観念するんだな!」


 広い石切場。『マギシルバー』は走りにくい砂利道をスポーツバイクで疾走する。

 その瞬間だ。あちこちで爆発が起こる。

 予め爆弾をセットしていたようだ。


「ちいっ! 罠か!」


 『マギシルバー』はスポーツバイクで跳ぶ。

 なかなかやる。

 バイクを止めて、『マギシルバー』は『ダチョウランニングシューズ』と対峙する。


「小賢しい罠はこれで終わりか? ならばコチラの番だ!」


「ここからが本番ランニン! いでよ戦闘員たちランニン!」


 『ダチョウランニングシューズ』はどこからか取り出した復活石を大量にばら撒く。


 『大部屋』ではレオナが声を張り上げた。


「では、はりきって行きましょう! 

 いってらっしゃい!」


「「「イーッ!〈ゐーっ!〉」」」


 俺たちは手に手に得物を持って、紐付けされた復活石へと跳んだ。




 目の前には『マギシルバー』。奥から生き残った車両が未だに頑張るウチの車両と壮絶な死闘を演じている。

 そんな中、一台のジープが抜け出してこちらへ来ると、急停車。

 白い仮面の戦士がジャンプ一発、『マギシルバー』と並ぶ。


「そこまでよ! 月満つれば即すなわち欠く……このホワイトセレネーが光届かぬ新月の世界へ送ってあげるわ!」


「ふん、こいつ程度、俺一人でも充分だ!」


 『マギシルバー』が『ホワイトセレネー』を邪険にする。


「あら、一番最後に来たくせに、生意気ね。

 まあいいわ、フォローはしてあげるから、貴方の力を見せてもらうわね、ヒーローさん」


 素直に一歩下がる『ホワイトセレネー』。

 なにやらお約束っぽい言動だ。


「待てい!」


「あら、誰かしら?」


「銀河ポリス、特例法、第一条! 

 怪人現る時、銀河ポリス『オメガドラゴン』の出動を許可する! 

 時代が求めたスリーショック!」


 それ、さっき言った。というツッコミは誰もしない。まあ、そういうものか。


「そんなボロ雑巾みたいで戦えるのか?」


 『マギシルバー』は肩を竦める。

 それに対して『オメガドラゴン』は歌舞伎役者のような見得を切った。


「例え、どれだけ傷つこうと、正義の心が悪を討つ! 心配無用!」


「待ちなさーい!」


 今度はスピーカーから大音量で声が掛かる。


 これ、ずっと待ってなきゃいけないのか? 


 大型トラックがウチのジープを蹴散らして止まり、その荷台ステージを開いた。


「街の平和を乱す怪人は私が許さない! 

 ……あ、ここバンクシーンで歌入れるから立ち位置そのままね。

 とう! ロータス〜フラワーっ! うふっ!」


 分かってやってるなら、プロだな。

 見事に全員、唖然として立ち位置はそのままだった。


「さあ、かかって来なさい!」


「怪人一人に四人で共闘か……」


 『マギシルバー』が自嘲気味に呟く。


「まあ戦争イベントになりましたからね。仲良くやりましょう」


 『ホワイトセレネー』は微笑んでいるのだろう。


「仲良く? 勝手にやってれば? ああ、気をつけた方が良いわよ。マギスターは信用ならないから」


 突っかかるのは『ロータスフラワー』だ。

 おそらくサクヤが流したPK動画の話か? 


「ああ、銀河ポリスにも情報は来ていたな。

 この戦いが終わったら弁明を聞かせてもらおう!」


「何の情報に踊らされているのか知らないが、共闘するなら足を引っ張るなよ!」


「くっ……バラしてやろうかしら……」


「まあまあ、今は争うべき相手が違いますよ」


 そう言って『ホワイトセレネー』は弓っぽい武器を取り出した。


「ああ、問題ないランニン! これはお前らを潰すための罠だからランニン!」


 『ダチョウランニングシューズ』が翼を広げる。


「マンジー」「シメシメ〜っ!」「ガイア!」「カエーン!」


 石切場の広場を中心に、高台から大量の戦闘員たちが立ち上がる。


「「「なっ!」」」


 ヒーローたちが驚きの声を上げる。


「おのれ……怪人らしい汚いやり方を……」


「ゐーっ!〈いや、四対一で戦おうとしていたお前らが言うなよ!〉」


「シメーッ!〈ホントよね。ヤになっちゃうわ!〉」


「ゐーっ?〈リージュ!? お前、幹部だろ?〉」


「シメー!〈よろしくね、グレンちゃん。ウチは祭りに手を抜かないからね〉」


 初めて戦闘員語で会話をした。通じるもんなんだな。


「かかれランニン!」


 戦闘が始まった。

 おそらく、俺にとっては初めての戦闘員らしい戦闘だ。

 たくさんの戦闘員たちとひと塊になって、死を厭わず一撃入れるためだけに突っ込む。


「【月の女神(セレネー)】!」


 じゅわっ。

 見えてる世界の全てが白と黒に分かれて、いつしか白に蹂躙された。

 それが『ホワイトセレネー』の必殺技、ごんぶとビームだと気づいたのは、死んでからだった。


───死亡───


 何もできずに死んだ。

 八秒、七秒、と復活のタイムリミットが迫る中、周囲を確認する。


 『ホワイトセレネー』は後方。一番遠い場所から他のヒーローを援護できる位置にいる。


 『オメガドラゴン』と『ロータスフラワー』は『ダチョウランニングシューズ』の左右から挟撃する構えで、『オメガドラゴン』に多少ダメージが溜まっているからか、消極的なのは『オメガドラゴン』だ。


 『マギシルバー』は『ホワイトセレネー』の前方に陣取って、まずは戦闘員を減らそうという動きに見える。


 四秒、三秒……。


 近いのは『マギシルバー』だが、復活位置がもろにホワイトセレネーの射線上だ。

 先に『オメガドラゴン』を狙うべきだろう。


 残り一秒。俺は復活する。同時に復活石を蹴って位置を変える。


 まずは走る。他の戦闘員を盾にして、『ホワイトセレネー』の射線から逃げる。

 『ホワイトセレネー』の奥、戦闘員同士の車両決戦はそろそろヒーロー側勝利で決着しそうだ。

 少しずつ、車両を降りて、こちらのヒーローに加勢しようという戦闘員が出てくる。


「ゐーっ!〈【夜の帳(ダークネス)】〉」


 狙いは『オメガドラゴン』だ。

 【夜の帳(ダークネス)】を連発しておく。

 一瞬でも『暗闇』が入れば、そこを起点にできる。


「シメシメー!〈アンタら出番よ! 盛り上げちゃってー!〉」


 どこにいるのか分からないが、リージュの叫びが聞こえた。

 すると、攻めあぐねて少し距離を取った『オメガドラゴン』の周囲の地面から三体の再生怪人が飛び出した。


「バグライガー」「ムチピエロ」「ホースホース」


 名乗りを上げた再生怪人たちが『オメガドラゴン』を囲む。


「おのれ! 銀河ポリス特例法、第四条、消滅した怪人の再生を禁ずる! 

 貴様ら第四条違反だ!」


「いつも適当な条例作るなホース!」


 馬と散水ホースの合わさった再生怪人が両腕から強烈な水流を放った。


「銀河の法令で決まっているのだ! 適当などではない! 【電磁盾シャイニング・フォース】」


 エネルギー波で光る盾が『オメガドラゴン』の腕に現れる。

 その盾で水流が防がれていた。


「そんなもの使わせるかムチ! 」


 ムチピエロの鞭が『オメガドラゴン』の腕に絡まって、光る盾ごと引っ張る。

 水流が当たる。


「ぐああっ! 負けるかぁ!」


 『オメガドラゴン』が腕を引けばムチピエロは簡単に引き摺られてしまう。

 再生怪人は能力値の倍率が低い。トール勝負になれば『オメガドラゴン』が断然強い。


 あ、俺の【夜の帳(ダークネス)】が届いたぞ。


「ぬおっ、暗い!」


「今、バグ!」


 再生怪人たちが『オメガドラゴン』を好き放題に殴る。


 逆に俺たち戦闘員は手が出せない。下手に近づいたら、再生怪人の攻撃の余波で死にそうだ。

 それならばと別のヒーローを確認すると、それぞれのヒーローの前に再生怪人たちが現れ、翻弄している最中だった。


 特に『マギシルバー』の周りにはウチの再生怪人たちが立ち塞がっていた。


「そーれ、【両断鋏ペルセウス】シザ」


 どうやら煮込みは今回、再生怪人枠で参加していたらしい。

 怪人シザマンティス。少し懐かしい気分になる。


 各再生怪人たちはレギオンごとにまとまっているらしく、それは連携を意識してのことなのだろうと思われる。


 今回の主役、怪人『ダチョウランニングシューズ』は、今一番弱っている『オメガドラゴン』に狙いを定めた。


「くらえ! 【偽りの英雄(パトロクロス)】からの【超刺突(ウッドペッカーⅲ)】ランニン!」


 『ダチョウランニングシューズ』は分身した上で『オメガドラゴン』を前後から挟む。

 駝鳥のくちばしが長く鋭く変化して、超速、連続刺突を繰り出した。


「ぐううあああああっ!」


「その腕、貰うランニン!」


 カカカカカカカカカカカカカカカカッ! 


 『オメガドラゴン』の右腕のスーツから火花が散る。

 二人の『ダチョウランニングシューズ』が同時に飛び退る。


 バツンッ! と音がして右腕が垂れ下がる。


「くそっ、部位破損だと……」


「オメガドラゴン! 【降り注ぐ月光(ムーンライトシャワー)】」


 光の矢の雨だ。『ホワイトセレネー』の広範囲攻撃。


「ゐーっ!〈ぐっ、がっ、ぐふっ!〉」


 範囲が広すぎる。

 俺は『ホワイトセレネー』の援護射撃に巻き込まれて、死んだ。


───死亡───


「オメガドラゴンを範囲に巻き込まなかったのは良い判断ランニン。

 だが、お前が巻き込んだのは私の分身体。

 そして、分身体が破壊された時、私の能力値は一分間、現在値の二倍になるランニン……パトロクロスの怨み、思い知るがいいランニン! 

 【引きずり回す者(ヘクトール)】」


 『ダチョウランニングシューズ』は一瞬で『ホワイトセレネー』に近づく。


「【駝鳥蹴り】ランニン!」


「くっ!」


 おそらく【駝鳥蹴り】自体は☆2か☆3の派生アーツだろう。

 だと言うのに、一撃「365」点という、ユニークスキル並のダメージを叩き出した。


 強い。


 俺たち怪人世界の戦闘員たちは、半ば勝ちを確信したのだった。



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