71〈スーパーランナー! 赤い靴の呪い大作戦〉
さあ、始まりますよー!
さて、今日のレポートを打ち込んで送信する。
───そんなに美味しいの天然食材って? ───
おお、珍しい食いつき方してきたな。
従妹が戦闘以外に興味を示すとは。
───ああ、自炊すれば人工合成食料もましになるが、雑味とでも言えばいいのかな?
それが食い物の奥深さを出して来て、生命を貰ってる感じがするんだよな───
───ふ〜ん、ちょっと味わってみたいかも…… ───
───現実じゃ無理だぞ。高すぎる。まあ、お前が『リアじゅー』に来たらご馳走様してやるよ───
───え〜っ! ひどい! 私、怪我人なのに…… ───
───こらこら、安月給の俺にたかるんじゃない! ───
───ちぇ〜! まあいいや。それより、シシャモ君、良かったね! ───
───ああ、ゲームでまで苦しい思いをするんじゃやり切れないしな───
───苦行系ゲームは達成感ないしね───
───そういうことだな───
───それで、明日は作戦行動だっけ? ───
───おう、今回は経験値稼ぐぞ! ───
───グレちゃん、やる気じゃん! ───
───未だにパワーレベリングしてもらう側だからな。少しは追いついて仲間に迷惑かけないようになりたいからな───
───頑張って! ───
───おう! って今回は助言はないのか? ───
───いい加減慣れて来ただろうし、自分の力を信じて戦うのもいいもんだよ、キミぃ───
───なるほど、じゃあ成果を期待しててもらおうか───
───うん! 期待してるね! ───
素直に応援されるというのも新鮮な気持ちになるな。
悪くない。
俺は通信を切って、明日に備えた。
翌日。
俺は不機嫌なまま、『リアじゅー』にログインした。
最近、営業先の社長の息子が随分と無茶を言ってくる。
俺としては、これ以上は会社の損になるから切りたいくらいだが、部長が厳しい時にその会社の社長に助けてもらったとかで、どうにか契約を続けるように言われている。
ただし、損を出さないようにだ。
会社としては当たり前だが、矛盾している業務命令では辟易とするしかない。
何度も部長に直談判しているが、そこをなんとか……の一点張りだ。
休日返上しているというのに、勘弁して欲しい。
いつもの『大部屋』。
大画面には今回の作戦概要が書いてある。
・『作戦行動概要』
・作戦名『スーパーランナー、赤い靴の呪い大作戦! 』
今回の作戦は感情エネルギー収集を主目的として、新しいフィールドを解放しようというものです。
怪人は『ダチョウランニングシューズ』。
怪人と連動した赤いランニングシューズを『住宅街』の学校、『遊興区』のスポーツ施設に大量に寄付しました。
このランニングシューズは怪人の体力と疲労を肩代わりする効果があり、怪人『ダチョウランニングシューズ』は実質、無限の体力と疲労が使えることになります。
NPCの消失を防ぐため、怪人は『港湾区』『行政区』『繁華街』『鉱山』を走り回ることになります。
各戦闘員は怪人を守るため、ヒーローレギオンの車両等に対処して、怪人を『鉱山』まで誘導して下さい。
『鉱山』まで誘導できれば我々の勝ちは揺るぎないものになるでしょう。
今回、各戦闘員は人員割り振りの上、最初は各地区の車両により、発進。
二回目が魔石への紐付けが有効となります。
作戦の関係上、多数のヒーローが参戦する可能性があるため、初回武装と二回目以降の武装が異なることにご注意下さい。
初回武装は以下よりお選びいただけます。
・閃光手榴弾×3
・発煙筒×5
・爆竹×10
二回目以降の武装はお選びいただけません。
二回目以降か。つまり、初回は車両と共にいざとなったら死んで来いって意味だな。
さすが怪人世界の戦闘員。命が軽いぜ。
俺はとっとこ受付に並ぶことにする。
順番が来るまでに畑のドローン収穫を済ませておこう。
お! 幻想種収穫の項目が増えている。
レオナめ、仕事早いな。
さっそく使わせてもらう。
俺が専用画面を弄っていると、後ろから声を掛けられる。
「なあ、その特徴的な白黒の肩パッドはグレンさんだろ? 」
「ゐー? 〈ああ、そうだが、あんたは? 〉」
「俺はムサシ。よろしくな! 」
少しずんぐりむっくりな体型のその男は歯を見せて、にっかり笑った。
「ゐーっ! 〈俺の言葉、分かるのか? 〉」
「まあ、これでも準幹部なんでな。それより、ちょっと前くらいに『森の主・狂えるエント戦』とか参加してなかったか? 」
「ゐーっ! 〈ああ、参加したな〉」
「やっぱり! あんた、その時貢献度で三位取ったろ」
手が出されるので、俺は素直に握手で返した。
おや? 待てよ……ムサシ、ムサシと名乗ったか。
「ゐーっ? 〈もしかして、二位のムサシか? 〉」
「おお、覚えていてくれるとはっ!
そうだ、そのムサシだ。
あんたのことは、あちこちからウワサで聞いててな。一度、会ってみたいと思ってたんだ! 」
あちこちから……ムサシは準幹部という話だし、もしかしてレオナなんかと面識があるのか?
「ゐーっ! 〈あの時の指揮は良く覚えている。低レベルの人員をまとめ上げる手腕から、新人研修を請け負ってる高レベル者だろうとは思っていた〉」
「ははっ! そう言われると照れるな。
俺もまさか三位に同じレギオンのやつが並ぶとは思ってなくてな。すげえ奴がいると思って注目してたんだ。
そしたら、あちこちでグレンの名前が聞こえてくるだろ、ヒーロー撃破に関わる立役者とか、【農民】スキル見直しのきっかけだとか、負け犬ダンスとか…… 」
「ゐーっ! 〈そんな大したことはしてないんだがな…… 〉」
「まあ、とにかく今日は同じ作戦に参加できて嬉しいぜ! お互い頑張ろう! 」
「ゐーっ! 〈ああ、こちらこそ、よろしく頼む! 〉」
それから、ポツリ、ポツリとムサシと話したところ、ムサシのレベルは現在144。
遥か空の上の存在だった。
たまたまガチャでレア防具を当てたから、死に難くてレベルが上がったと言っていたが、やはりそれなりにセンスがあるタイプなのだろうと思った。
順番が回って来る。
幹部の戦闘員が居て俺の側に画面が出ている。
「名前とレベル。最初の武装を選んで下さいね。
それから魔石はこちらで登録します」
今回の魔石は7個ほど登録してもらう。
画面を操作する。
武装はそうだな……俺の【夜の帳】と光は相性が悪そうだし、爆竹は使えるかどうか微妙な気がする。発煙筒にしておこう。
「インベントリに入っているか確認してね。
えーと、君のスタート地点は『行政区』だね。
これが車両の鍵。
自動運転だから運転できなくても問題ないからね。鍵を持って、スタートボタン押したら、ある程度はA.I.判断とこちらの誘導で動いてくれるから、お任せでいいよ。
武装は数が限られてるから考えて使うこと。
ヒーロー側も車両だと思うから、上手く妨害してね。
何か質問あれば手短にどうぞ」
「ゐーっ! 〈何してもいいのか? 〉」
「もちろん。ただ、怪人の特性上、レイド戦で消えるNPCの範囲は広めになると思うけど、あまり怪人から離れるとNPCが消えてない状況になるから、その時は絶対にNPCを傷付けないこと。ペナルティは重くなると思うよ」
「ゐーっ! 〈了解! 〉」
今回は意外と危険な作戦だな。
もちろん俺たちの命の話ではなく、ゲームルールに抵触する可能性があるって部分がだ。
「では、もうすぐスタートです」
おっと、スタート前にアイテム整理を忘れずにしておく。
最初は魔石復活じゃないみたいだし、ある程度、回復薬なんかを持っててもいいかもな。
車両の装甲があれば、一撃死じゃない場合もあるだろうからな。
『大部屋』の大画面では擬人化駝鳥、足元は赤いランニングシューズという怪人がどこか暗い部屋でスポットライトに照らされ、ゆっくりとストレッチをしている。
軽く、その場で足踏み。それは軽やかでまるでカモシカではなく、まさにダチョウ。
無駄にランニングシャツとゼッケンがついているのは、何なんだろうか?
ゼッケンには『840〈ハ・シ・レ〉』と書いてある。
「おお、ばよえ〜んのやつ、やる気だな」「素早さ特化だろうけど車両に勝てるのか? 」「そのための俺たちだろ」
『ダチョウランニングシューズ』は『ばよえ〜ん』というやつらしい。
大画面では怪人の足踏みが早くなっていく。
画面が切り替わる。
場所は『港湾区』のコンテナが並ぶ倉庫街だ。そのコンテナの中のひとつが、ゆっくりと開く。
「しゅ、しゅ、しゅ、しゅ……行くランニン! 」
怪人が走り出す。腕〈?〉翼の振りは大きく、ぐん、と伸びるように足を出す。
倉庫街の周囲を二周、三周……見つかるまではここで時間を稼ぐのか?
倉庫街にパトロールカーが来た。
「どこのレギオンだアレ? 」「港湾区だろ。小規模なとこじゃないか」「これ銀河ポリスだわ。いちおう中規模だぞ」
確かに白黒の警察車両といえば、そう見えなくもないか。
変な電波塔みたいなものがついていたり、妙に鋭角的なフォルムだが、確かに白黒の塗り分けがされた四人乗りのセダン車だ。
あ、サイレンとパトランプ……。
画面内では『ダチョウランニングシューズ』がアップで映し出されている。
「私の体力は無限ランニン! 追いつけるものなら、追いついてみろランニン! それ、【疾走駝鳥】」
スピードアップして走りだす『ダチョウランニングシューズ』。
それを追う『銀河ポリス』の車両はけたたましくサイレンを鳴らして、スピーカーから戦闘員の声が響く。
「そこの怪人! 止まりなさい! 銀河法第六十三条、怪人存在法違反です! ただちに止まって、大人しく消滅処分を受けるように! 」
まともに聞くとアタマがおかしくなる法律のようだ。なんだそのサーチ&デストロイみたいな法律。
「誰が止まるかランニン! 【熱気弾】ランニン! 」
『ダチョウランニングシューズ』が口から赤い靄を吐く。
これは俺の【夜の帳】の炎版ってやつか。
直線上にいて追いかけてくるから、簡単に当たるようだ。
ボンッ! と銀河ポリスカーに当たった熱気弾が弾ける。ボンネットから火花が飛び散る。
画面が上空からの映像に切り替わって、倉庫街全体を映す。
コンテナの入口が次々に開いて、中から二人乗りの三輪バギーやジープが出てくる。
どれも厳つい鋲やトゲトゲがついた車両だ。
「「「イーッ! 」」」
なるほど、ああいう感じでサポートすることになるのか!
銀河ポリスカーに近づいた三輪バギーの戦闘員が閃光手榴弾を投げる。
閃光が周囲を焼いたかと思う光が瞬く。
驚いた銀河ポリスカーが急ハンドルを切って、ふらつく。
次の閃光手榴弾を用意する戦闘員。
だが、銀河ポリスカーは先程の光で怒ったのか、三輪バギーに銀河ポリスカーの車体をぶつけてきた。
簡単に吹き飛ぶ三輪バギー。
遥か後方で、閃光が上がる。
いきなり激しいな。
『ダチョウランニングシューズ』の横合いから銀河ポリスカーが増えた。
敵の増援だろう。更には少しだけ柔らかめのサイレンが鳴って、メタリックな黒白のスーツを着た大型バイクが追ってくる。
メタリック黒白はスピーカーで叫び出す。
「銀河ポリス、特例法、第一条!
怪人現る時、銀河ポリス『オメガドラゴン』の出動を許可する!
時代が求めたスリーショック! 【暗雲の龍】」
いきなりの発砲だった。
───これよりレイド戦に移行します───
───『レイド戦』ルールにより、NPCは隔離されます───
「【砂塵回避】ランニン! 」
『ダチョウランニングシューズ』も回避スキルで避ける。身体がブレたように左右にズレる技のようだ。
「「「イーッ! 」」」
『りばりば』の戦闘員たちがスピードを上げて『オメガドラゴン』の前に出ようとする。
「では、『行政区』の担当者はポータル移動を開始して下さい! 車両に乗るまでは人間アバターでお願いします! 」
呼ばれたか。
人間アバターね。
俺はポータルを使って『行政区』へと向かった。
『行政区』では各所にある立体駐車場にそれぞれの車両が用意されているらしい。
各人に渡されたメモを頼りに、車を取りに行く。
俺の担当は軽トラだった。
「おっ、グレンか、よろしく頼むぜ! 」
「ゐーっ! 〈ムサシ、あんたか、こりゃ頼もしい〉」
「ちょっとそこのお兄さんたち〜、私も乗せてくれなーい! 」
相変わらずのグラマラス中学生みたいなやつが身体をくねらせる。
今日はコアは置いてきたってことか。
「ゐー…… 〈煮込みも一緒か…… 〉」
「えー、ちょっとその反応はひどい! せっかく身体張って笑いを提供したのに! 」
「おお、煮込みちゃん! 久しぶり! 」
どうやら、ムサシと煮込みは知り合いらしい。
「あ、ムサシだ。ちょっとは成長したのかね? 」
「まあ、レベルだけはな」
「ゐー? 〈二人は知り合いか? 〉」
「ムサシの新人研修をやったのは私なのだ!
えっへん! 」
「ああ、煮込みちゃんに教わったからこそ、多少は強くなれたぜ! 」
「ゐーっ! 〈少し意外だったな。逆なら分かるんだが…… 〉」
「ふっ……私はβ組。おっさんの目は節穴だから仕方ないね! 」
「ゐーっ! 〈はいはい。……にしても、この采配はレオナか? 〉」
「うん、たぶん。ほら、言語スキル上げてないとグレンとコミュニケーションとれないからね! 」
「ゐーっ! 〈そうか。それは感謝しておこう〉」
俺たちは軽トラ前で軽くミーティングを行う。
さて、準備万端にしとかないとな。
時空の歪みが発生しました。
物語上では土曜日のはずなのに、平日のつもりで書いてました。
はっ! もしや『ガイガイネン』の精神攻撃?
すいません。曜日感覚の部分だけ書き足しております。




