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本日、二話目です。

 俺が連れて来られたのは『食堂部』のプレートが掛かる円形広場とそこから延びる放射状の三本の広い通路だ。

 ビルの中に造られた街とでも言えばいいだろうか。


 入り口から入ってすぐの円形広場はイートイン形式の屋台が並び、広場内には机と椅子が並んでいる。

 通路には、幾つもの店が並んでいる。


「ここは、休憩所兼、食堂ですね。

 そこで携帯食料が買えますよ。左通路の専門店通りでも、買えますけど、そっちは自分の目で確かめるといいですね」


「イーッ! 〈つまり、高いんだな〉」


「まあ、そうなりますね。右の通路は食材通りと言いまして、そのものずばり、食材が買えます。中央通りは娯楽施設ですね。台所屋では台所を貸してくれますし、カラオケ、ビリヤード、プールバー、居酒屋、高級店なんかも中央通りですね。

 せっかくですし、少し食事をしながら基本的な話をしましょうか。

 何か食べてみたいものとかありますか?」


 言われて、俺は屋台を眺める。

 屋台に居るのは基本的に球体関節人形たちらしい。

 しかし、たまにプレイヤーも混じってるな。

 全身黒タイツの戦闘員姿の人もいれば、顔出しで私服の人もいる。

 イートインスペースでも、戦闘員姿と私服が入り乱れている。


「イーッ! イーッ? 〈私服で顔出しのやつが多いな。この全身黒タイツって脱げるのか? 〉」


「それでしたら、専門店通りですね。まずはテクスチャ屋で人間アバターを買って、それから服屋で服ですかね。でも、服屋はあんまり期待しない方がいいですよ。

 品揃えが悪いので……」


「イーッ? 〈人間アバターを買う? 〉」


「私たちの本性はこっちシザ。これは化けの皮シザ! 」


 煮込みが自分とレオナを指さして言う。


「化けの皮は酷いですね。一応、中の人度98%ですよ! 」


 なるほど。怪人側プレイヤーの本性は戦闘員姿で、人間のテクスチャを貼り付けているという設定なのか。

 にしても、レオナの中の人度98%とはプレイヤー本人の姿ほぼそのままってことか? 

 体型なんかは実際のものと差異があると、違和感が酷くて挙動に問題が出るということで変えないのが推奨とされているが、だからといって化けの皮をあまりリアルに近付けるというのもどうなんだ? 

 リアルばれとか怖くないのだろうか? 

 俺が疑問に思いながらレオナを見ていると、目が合ったレオナが言ってくる。


「まあ、女は化粧ひとつで別人ですから…… 」


 妖艶な笑みで返されてしまった。

 俺は一応、納得しておくことにする。

 そういえば、俺にこのゲームを勧めてきた従妹いとこなんかも、髪をアップにして化粧しただけで別人みたいになるからな。

 女は化けるとはよく言ったものだ。


「人間アバターも安くないですからね。今は置いておいて、それよりも何を食べるか、です! 」


 俺は屋台の看板を見て回る。

 コロッケから始まりラーメン、カレー、パスタ、おでん、粉物……色々あるな。

 携帯食料は、おにぎり、サンドイッチ、レーション、缶詰、干し肉、干し魚。


「イー? 〈カロリーバーはないのか? 〉」


「カロリーバー!? 」


 俺が独り言の呟いた言葉をレオナが驚いたように拾う。


「イーッ! イーッ! 〈おにぎりなんかも悪くないけど、走りながらだとカロリーバーが楽だったからな〉」


「え? ゲーム内で食べたんですか? カロリーバーを!? 」


 ついさっきのことだ。俺は頷きを返す。


「は? どういうことシザ? 」


 何故か煮込みも追随してくる。


「イーッ、イーッ! 〈いや、途中でマギアタックだかファイターだか言う車があったから、貰ってきた。コレだ〉」


 俺はインベントリに残っていたカロリーバーをオブジェクト化させる。

 途端、レオナからその手を両手で包み込まれる。

 なんだ? 普通のカロリーバーだろ? と思うが、食べたことないのか? まさか? 


「技術流出…… 」


 レオナが呟く。

 技術流出ってことは、ヒーロー側の特別な技術で造られた品だと言うことだろうか。

 煮込みも、ギラギラとした目でカロリーバーを見つめている。


「売ってくれたり……ううん、売って下さい! 」


 下から覗き込むように見詰めてくる。


「イ、イー…… 〈お、おう…… 〉」


 その剣幕に圧された訳ではないが、俺はカロリーバーをレオナに渡す。


「ありがとう! 50万マジカくらいで大丈夫かしら…… 」


「イッ! 」


「あ、ダメシザ……技術流入三回目で、レギオンレベルアップになるシザ! 」


「じゃあ、100万マジカ……さすがにそれは…… 」


「イイッ!? 」


 HPポーションが百万本。MPポーションでも三十三万本以上買える……。

 いや、カロリーバーだぞ? しかも、口の中パッサパサになるやつ。

 正直、開いた口が塞がらない状態だわ俺。


「くっ……グレンさん、お金じゃない方法でもいい? 」


 レオナは悩みに悩んだ末、そんなことを言う。


「イーッ! 」


 俺としては、拾いものだからな。

 体力回復アイテムだから、HPポーションと同額の1マジカくらいかと思っていたから、なんら問題はない。


「ちょっと対価は上とも相談しなきゃだから、後日でもいいかしら…… 」


「イーッ! 〈ああ、問題ない〉」


「ありがとう、グレンさん! 」


 レオナはいそいそとカロリーバーを自分のインベントリにしまった。


「今のやり取りはしっかり録画してあるから、データ渡しておくシザ! 

 何かあったら、私が証人シザ! 」


「イーッ! 〈いや、そこまでするもんでもないだろ〉」


 俺が手で制するように、「イーッ! 」と発言した内容に、「いやいや、これは大事なことシザ」と、まるでこちらの発言を理解したようなことを煮込みは言う。


「せっかくだから、ついでにフレンド登録するシザ! 」


「あ、私からもお願いします! 」


 そう言って二人からフレンド申請が来たので、了承しておく。

 フレンド登録は、フレンドのログイン状況が見られたり、相互通信、専用チャットなどが使えるらしい。

 専用チャットは【言語】スキルを持っていない俺としては、有り難い。

 さっそく煮込みは、俺とのチャットを開いて、そこに『100万マジカの証拠』とタイトルを入れた録画データをぶち込んだ。

 この専用チャットは作成者の了承が得られれば、他のメンバーを招待することができるらしい。


「ヤバい案件はこれくらいにして、初心者講習に戻るシザ」


「あ、そうですね! 」


 煮込みが適当に買ってくると言うので、ここでの食事は任せるとして、俺は携帯食料をある程度買い込んだ。

 色々携帯食料20個で25マジカ。俺の残りマジカは55マジカになった。


 煮込みが買ってきたモツ煮込みを摘みながら、ビールをいただく。

 ちなみに煮込みの奢りだ。


「まあ、これでもLv88シザ! 遠慮することはないシザ! 」


 一瞬、煮込みをまじまじと見る。

 Lv88か。どれくらいで届く領域なのかね……。

 Lv1の俺からしたら、雲の上ってことだけ理解しておく。


「やっぱり、経験値かなり入ったみたいですね! 」


「8レベル分の保険ができたのは大きかったシザ! それもこれも、グレンのおかげシザ! 」


「イーッ? 〈保険? 〉」


 良く分からないので、聞いてみる。


「ああ、戦闘員が変身できるのはLv80から、且つコアを持っていることが条件なんです。

 レイド戦時、怪人プレイヤーのデスペナルティは高確率のアイテム消滅と20レベルダウンになります。

 なので、怪人プレイヤーが『作戦行動』に出るにはLv100からが推奨とされています。

 煮込みさんは、今回ちょうどLv100で『作戦行動』に出てましたから、8レベル分をレイド戦で稼いだってことになりますね! 」


 怪人プレイヤーのデスペナ重いな……。

 戦闘員の魔石切れ時のデスペナは高確率の装備消滅だけだろ。

 レベル20ものデスペナくらうのに、怪人になる意味ってあるのか? 

 あと、また分からない言葉が出てきたな。

 『作戦行動』だったか? 

 まあ、保険の意味はなんとなく理解できたな。

 Lv80で変身して、デスペナくらったら、そのコアとやらがあっても、変身できなくなってしまうってことだもんな。


「イーッ! 〈『作戦行動』ってのは? 〉」


「怪人の特色を利用した感情エネルギーを回収するための行動ですね」


「私の今回の作戦行動は、『至高の髪型!? 街にモヒカン流行大作戦』というシザ! 」


 なんだそりゃ? それが作戦行動? これ真面目なやつなのか? それとも、笑うところ? 


 俺はなんとも複雑な表情をしていたと思う。

 煮込みは「あれ? 面白くなかったシザ? 」と笑っているが、レオナは真面目な顔で続ける。


「えーと、このゲームで怪人側レギオンの究極の目的ってなんだと思います?」


「イーッ! 〈世界征服とかじゃないのか〉」


「まあ、ある意味そうなんですが……グレンさん、あまり説明書とか読まずにゲームを始めるタイプですね? 」


「イーッ! イーッ! 〈まあ、そうだな。あと、このゲームをやってくれと人から頼まれたのもあってな…… 〉」


「ええと……まあ、どういう理由でゲームをしてもいいとは思いますから、そこは置いておきますね。

 それで、このゲームにおける怪人側レギオンのワールドクエストというのがですね。

 シティエリアの人々から感情エネルギーを集めて、怪人側世界を復活させる。というのが目的なんです」


「イーッ? 〈怪人側世界を復活させる? 〉」


 このゲームの世界設定はこういうものなんです。とレオナは前置きした上で、朗々と語り出す。


「 むかし、むかし、世界はふたつから成り立っていました。

 ひとつは科学文明が発達していく世界で、もうひとつは魔法文明が発達していく世界でした。

 ふたつは同じ世界の表と裏。

 どっちも表で、どっちも裏でした。

 ふたつの次元に、ひとつの世界。


 ひとつの世界でバクテリアが生まれた時、もう片方では龍が生まれました。

 ひとつの世界で大いなる人が生まれた時、もう片方では信仰という概念が生まれました。


 そうして、ふたつの世界はお互いに影響をちょっとずつ与え合いながら発展していきました。


 でも、ある時、別の世界が言いました。

 ふたつでひとつなんて、おかしい。と。


 ふたつの世界は自分たちはおかしいと気付きました。


 別の世界はふたつの世界からひとつを選び、君が残るべきだと言いました。


 そうして、ふたつの世界はひとつの世界になっていきました」


「科学文明がヒーロー側、魔法文明が怪人側の世界シザ! 

 つまり、シティエリアは科学文明によって発達した世界で、別次元に我ら魔法文明世界が重なっているという設定なのシザ! 」


「ええ、ですから、ヒーロー側はシティエリアの秩序を保つべく動き、私たちは自分たちの世界を復活させるため、シティエリアで感情エネルギーを集めるために動くのです」


 その感情エネルギーを集めるのが、『作戦行動』というやつなのか。


「普通に考えたら感情エネルギー集めがヒーロー側と対立する理由にはならないと思いますが、感情エネルギーというのは人の記憶と結び付いているのです。

 感情エネルギーを我々がシティエリアから集めると、シティエリアの人々、まあ、NPCなんですが……その人々からその瞬間の記憶を奪うことに繋がるのです」


 なるほど。記憶を奪うとなると、秩序の破壊、ヒーローの登場となる理由か。


「ちなみに感情エネルギーを一定以上集めると、遺跡発掘調査ができるエリアが増えるシザ! 」


「イーッ? 〈その遺跡発掘調査ってのは? 〉」


「遺跡発掘調査は、いわゆるダンジョンです。

 『作戦行動』『レイド戦』『生産』これ以外にもシティエリアで遊んだりもできますが、一番基本的な行動が『遺跡発掘調査』ですね」


「魔石や復活石拾いシザ、ガチャ用のコンパク石、素材、コア、マジカ貯めも『遺跡発掘調査』が基本シザ! 」


 たぶん、経験値もその『遺跡発掘調査』で貯めるってことなんだろう。

 要はコレがRPG要素か。

 ただ、経験値効率は『レイド戦』の方が良さそうか。


「この後で、時間があれば軽く『遺跡発掘調査』も行きますね」


「イーッ! 〈ああ、頼む! 〉」


「それで、良ければなんですが……能力とか見せてもらってもいいでしょうか? 」


「イーッ! 〈何かデメリットとかあるのか? 〉」


「イベントなんかだと、手の内が知られていると不利になる……とかでしょうか」


 Lv1の俺には関係ないというか、自分の手の内すら理解していないからな。


「イーッ! イー…… 〈問題ないな。そもそも何が強味かも知らんし…… 〉」


「ああ、じゃあ、最初から見ていきましょうか……アドバイスがあれば、分かる限りはお教えできるかもしれないですし…… 」


 最初からか。

 そう言われて、俺はキャラ作成時のことを思い出すのだった。


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