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本日、二話目になります。
まだの方は前話からお願いします!
従妹にいつものレポートを送信する。
───ちぇー、もう負け犬ダンスから立ち直っちゃったのか、つまんな〜い───
───残念だったな。散々イジられたから、慣れたぜ───
───まあ、それはそれとしてさ。そのシシャモ君。『シャーク団』で何か変なもの飲まされてないか聞いておいた方がいいよ───
───ん? どういうことだ? ───
───PKとかPKKが良く使う手なんだけど、『シティエリア』の電器店で手に入る発信機があるって話。薬のカプセルに入るくらいのやつなんだけど、「俺たちは運命の輪で繋がってるから、どこに行っても分かるぞ」って言われたんでしょ。それって居場所を特定する何かがあるってことだよね───
───そんなのがあるのか…… ───
───あるって言うか、普通に現実で売ってるよ。現実にあるなら『シティエリア』にもあるから───
───それってどれくらい保つものなんだ? ───
───胃の中の熱と対流で充電するやつだから、半永久的かな。聞いた話だと、『リアじゅー』内でも同じで、同じフィールドに居れば分かるくらいの精度だって。───
───えげつねえな───
───たぶん、ムックだっけPKKやってる人。その人も知ってるだろうけど、わざとグレちゃんには言わなかったんだろうね。幻滅されたくないだろうから───
───そんなもんか? ───
───そんなもんだよ。
それとさ、一回、PKやると現実の人殺しと一緒で歯止めが効かなくなっちゃうらしいんだよね。ほらPKって背徳感あるでしょ。やっちゃダメってことほどやりたくなるってやつだよね。あ、PKとPKKは別だよ。PKは欲求。PKKは復讐と義侠心が元だから───
最近ではゲーム内でそういったことを禁止にしないという風潮が強い。
昔、何でもかんでも禁止にしていたら、現実での事件が増えてしまい、ガス抜きが必要だという結論になったらしい。
PKという遊び方もゲーム内で不可能になっていない以上は認められた遊び方ではあるが、それに対するPKKもまた認められている。
要は個人の倫理観の問題でしかない。
俺は自分より高いレベルや実力を持つ相手に腕試し的に挑んだ結果、PKになってしまうような遊び方なら認めてもいいと思うが、故意のPKや低レベル狩りのようなPKは嫌いだ。
だからこそ低レベル狩りを推奨する『シャーク団』のようなやり方にシシャモが染まって欲しくないと思っている。
───明日、俺が送ったフレンド申請にOKが出ていれば話せる、か。
ちなみにその発信機はなんとかなるもんなのか? ───
───上から吐かせるか、外科的に取り除くしかないみたい───
───そうか。連絡が取れるようならやってみよう。いつもすまんな。助かる───
───なーに、珍しいね。グレちゃんがそんなこと言うの 笑 ───
───いや、まあ……いつも感謝はしているんだぞ、これでもな───
───ふふっ、じゃあ、私も。
『リアじゅー』にハマってくれて、いつもレポートしてくれて、ありがとうございます!
───
───いまさらだな。だが、受け取っておく───
そう言って、俺は通信を切って寝た。
翌日、俺は終業していつものように『リアじゅー』へとログインする。
いつもの『大部屋』から俺は『食堂部』へと移動する。
目をつけていた肉じゃが屋台のNPCドールに話しかける。
肩に黄色で三角マークが付いているやつだ。
「ゐーっ! 〈すまない。頼みがあるんだが〉」
このNPCドールは皆から『キーサン』と呼ばれている。
仕事ぶりを見るに、かなり職人気質なところがある。
───おう、注文じゃねえのかい?───
顔に文字が並ぶ。
俺はインベントリから玉ねぎ、人参、じゃがいもを取り出して言う。
「ゐーっ! 〈こいつを使って作った肉じゃがが食いたいんだが〉」
───へえ……あんたが最近、話題のグレンさんか。
……おい、その肩に乗ってんのは!? ───
「ゐッ? 〈どっちだ? 〉」
「きうー! 」「ふぁー、なーに? ごはん? 」
フジンとじぇと子が反応する。
俺は素早く『精霊樹の実』を取り出して、じぇと子を黙らせる。
すると、フジンまでもが『精霊樹の実』を欲しがって俺の肩を棘足で締め付ける。
「ゐーッ! 〈いででででで…… 〉」
仕方がないので、フジンにも与えておく。
───……精霊樹の実───
キーサンの動きが止まっていた。
「ゐーっ! 〈おい、止まってるぞ。どうした? 大丈夫か? 〉」
俺はキーサンの顔の前で手を振って意識があるのか確かめる。
キーサンは驚いたように動き出す。
───お、おお……すまねえ。
なあ、その霧胡瓜があるってこたあ、クラーマに登ったんだよな? ───
「ゐー? 〈クラーマ? もしかして無常なる高野の山脈の山のことか? 〉」
───ああ、アンタらにはそっちで通ってるんだったな。その……ソコに行ったのか? ───
もしかしてと思い、俺はレア種産の野菜を取り出す。
───コイツはっ!! なあ、コイツを使わせてくれ! 頼む! ───
「ゐ、ゐー。〈あ、ああ、構わないが…… 〉」
俺は毒噴き馬鈴薯、マンドラ人参、号泣玉葱をキーサンに渡す。
───なあ、まさかクラーマ猪豚の肉はないよな? ───
「ゐーッ! 〈すまん、そっちは品切れなんだ〉」
「ありますよ! 」
誰だ、と思ってみたらナナミだ。
「ゐーッ! 〈おう、ナナミか。こんにちは、だな〉」
「こんばんは、グレンさん。ところで失礼ながらキーサンの言葉を読ませて頂いちゃいました。例の野菜で肉じゃがをってことで合ってますか?
そして、キーサンは猪豚の肉を欲しているということで! 」
「ゐーッ! 〈ああ、俺の言葉は分からないのに、良く分かるな〉」
「そして、私はここに大量の肉のストックがある訳です! 」
どどんっ、と音が聞こえそうな勢いで、ナナミが肉の塊をいくつも出した。
───おお! まさか、コイツを使わせてくれんのか? ───
キーサンが興奮している。
「私にも食べる権利を頂ければ……如何です? 」
まあ、元々、独り占めする気はない。
俺は大きく頷いた。
───よし! お前ら、俺に三時間くれ! 最高のクラーマ煮込みを食わせてやる! ───
「ゐー? 〈クラーマ煮込み? 〉」
───……いや、違う、違う。こっちじゃ肉じゃがだったな。イカンな。大首領様に怒られちまうぜ…… ───
「フムフム、あまり言いふらさない方が良さそうですね」
俺も頷いておく。
さて、三時間か。軽くフィールドで狩りをしたいところだな。
仲間に声を掛けてみるか。
グレン︰おーい、誰か暇なやついるか?
シシャモ︰あ、あの……何かありましたか……。
最初に反応があったのがシシャモだった。
そうか、フレンド登録してくれたんだな。
今日はシシャモのフレンド登録を確認しようと思っていたが、仕事で少々ムカついて、まずは美味い飯で気を落ち着かせることに頭が行っていて、シシャモのことは後回しにしていたな。
結果的に美味い飯が三時間後ということで気分は晴れていないんだが、後の楽しみができたと思えば少しはマシだ。
グレン︰おう、今から三時間くらいフィールドに出て狩りをしたくてな。
良かったら一緒に行かないか?
ナナミ︰もちろん、ご一緒させて下さい。
レオナ︰今日は行けます! 昨日は畑でミニバーベキューだったとか?
グレン︰耳が早いな。
シシャモ︰あの、お邪魔じゃなければ、行きます。
ナナミ︰グレンさんのフレンドの方ですね。ナナミと申します。よろしくどうぞ。
レオナ︰レオナです。よろしくお願いいたします。
シシャモ︰あ、よ、よろしくお願いします。
ムック︰行くピロ!
グレン︰おう、ムックが来てくれるならちょうどいい。シシャモは今、どこのフィールドを中心にしているんだ?
シシャモ︰えっと森と小島です。三つ目の沼は行ったことはありますけど、ほとんど何もできなくて……。
レオナ︰シシャモさんのレベルは今、どれくらいかお聞きしてもいいですか?
シシャモ︰今、Lv22です。
レオナ︰グレンさんはどう思います?
グレン︰もちろん、パワーレベリングだ!
俺が散々、お前らに世話になったからな。今度はシシャモに俺がパワーレベリングしてやりたい。
シシャモ︰あの、グレンさんも第三陣だって言ってましたよね?
グレン︰ああ、ただ色々とあってな。今、俺のレベルは81まで上がっている。
シシャモ︰え? どうやって?
ムック︰ジャイアントキリングしまくってピロ。
シシャモ︰ええ!?
ナナミ︰第三陣だと、今日で十日くらいですよね。随分と異常な育て方してますね。
グレン︰やっぱり作戦行動とこの前のイベントが大きかったか。
レオナ︰まあ、戦争中は経験値効率上がりますしね。グレンさんの場合、無我夢中でやってる内に貢献度を稼いでいたりしますから。
シシャモ︰もしかしてグレンさんって凄い人なんですか?
ムック︰おっさんピロ
ナナミ︰まあ、ゲームに真剣ですね。
レオナ︰いや、かなり凄いことしてますよ。
煮込み︰おっさんミザ。
サクヤ︰おっさんですねー。
グレン︰煮込みとサクヤが急に入って来やがった。
煮込み︰ところで何の話ミザ?
サクヤ︰今、ログインしたところなので分からないです。
グレン︰いや、分からないで入って来たのかよ……。
煮込み︰ムックがおっさんの話をしているのは分かったミザ。
グレン︰前の話は残らないのか?
サクヤ︰読む気がない、というのが正解では?
煮込み︰まあ、それミザ。
グレン︰まあ、俺のことはいい。とりあえず行ったことがない場所だと不安だろうから、その沼ってところにしよう。
レオナ︰『拘泥する愚者の道行』ですね。
グレン︰煮込みとサクヤはどうする?
煮込み︰今日はサクヤっちと『シティエリア』で遊ぶ約束してるからパスミザ!
サクヤ︰はい。女の子同士でキャッキャウフフなのでー。
ムック︰尊死ピロ
どっちも二十歳超えてるってのは言わぬが花だな。
グレン︰じゃあ、シシャモは幕間の扉を出たところで待ち合わせにしよう。
シシャモ︰は、はい、よろしくお願いします。
さっとアイテム整理をして、畑のドローン収穫なんかをすると、レオナとムックがやって来る。
「お待たせピロ」
「お待たせしました! 」
「ゐーっ! 〈おう、レオナ、ムック、こんにちは! 〉」
「レオナさん、ムック隊長、こんばんは! 」
軽く挨拶をして、本題だ。
だが、先に口火を切ったのはレオナだった。
「シシャモさんという方が野菜泥棒に来たという人ですか」
「ゐーっ! 〈ああ、そうなるな。俺としては『りばりば』に入って【農民】スキルを活かしてくれればと思っている〉」
「シャーク団というのは第二陣参入後のレギオンのようですね。
新興勢力ですが、小規模ながら戦力は高いという参謀部の試算が出ていました。
ウチとしても【農民】スキル持ちは確保したいですから。
それと、いざとなったらシャーク団は潰して良いと大首領様からお達しが出ています」
「ゐー? 〈待て、待て……なんでそんな大事になってんだ? 〉」
「ムックさんとサクヤさんから、昨日、お話を聞きまして、ちょうど謁見の用事があったので、大首領様に聞いておきました」
ブイサインと共に胸を張られても、訳が分からない。
PKの道に引きずり込まれようとしている少年をなんとかしてやりたいだけなんだが……。
「ムック隊長、すいません。お話が見えないのですが? 」
ナナミはムックに説明してもらっている。
「ゐーっ! 〈俺としてはあまり大事にしたくないんだが…… 〉」
「ええ、私もそう思います。
ただ、いざと言う時はウチの全面バックアップがあるので、ご安心下さいという話をしたかっただけなので」
「ゐー! 〈お、おお……それはまた、安心だな…… 〉」
最大規模のレギオンの全力バックアップとか嫌な予感しかしないが、俺がしっかりシシャモを説得できれば済む話だ。
今日は仕事が上手くいかなかったのもあって、少々弱気だが、気合いを入れ直して幕間の扉を潜るのだった。




