64〈はじめての負け犬ダンス〉
に、二十五万PVとか、見たことないんですががが……。
ちょっと手が震える〈ガクガク〉
ありがとうございます!
俺の肩がひんやり涼しい。
フジンが乗ってるからだよ。
しかも、サイズ感がピッタリフィットだ。
もう、四十越えてるんだが……。
涼しいのに、目から汗が出そうだ。
俺は一度肩の涼しさを忘れて、新幹線ナナフシに視線を移す。
近くまで来るとでけぇ!
五階建てアパートくらいの高さに頭がある。
18〜20mくらいか。
この場で【夜の帳】を撃っても、一歩の大きさで闇の靄が後をつけるだけになりそうだ。
「ゐーっ! 〈なんとか上に登る方法、あるか? 〉」
俺は辺りを見回すが、木では高さが足りない。
「影さえ繋げてくれれば、連れて行くピロ」
おお! 行けるのか!
「ゐーっ! 〈頼む! 【闇芸】! 〉」
俺の影と新幹線ナナフシの影を繋げる。
日が沈もうとしていて、空はオレンジになってきていた。
おかげで影が長い。
「行くピロ! 【新月渡り】」
おお、他人も連れて行けるのか!
俺の影に沈み込んだ俺たちは、俺の影から新幹線ナナフシの影へ。
そこから、新幹線ナナフシの影を伝って、影の起点、新幹線ナナフシの背中の脇から上体だけを出す。
「ゐっ? 〈おい、何すんだ? 〉」
「背中に影はないからここまでピロ。
後は頼みますピロ! 」
俺を掴んだ『シノビピロウ』が俺を新幹線ナナフシの背中に放り投げる。
ゴロゴロ転がって、新幹線ナナフシの背中の上だ。
「ゐーっ! 〈おっとっと! なるほどな……よし、行くぞ〉」
俺は新幹線ナナフシの背中の上を駆ける。六本脚だからか、意外と揺れが少ない。
頭が見えてくる。
「ゐーっ! 〈【夜の帳】〉」
闇の靄が新幹線ナナフシの頭を包む。
お、動きが止まった。
そう思った途端、ぐりん、と新幹線ナナフシが頭を振る。
俺は落ちた。
「ゐーーーーーーーーーっ! 」
「受け止めるピロ! 」
「は? 」「なんだって?」「おい、上! 」「うお! 落ちるぞ! 」
「どきなさい! どっせい! 」
俺を受け止める大きな手。かなりレベルが上のやつなんだろう。
「ゐーっ! 〈ありがたい。助かった! 〉」
「あら? グレンちゃんじゃないの? やーね、大丈夫? 」
オカマだった。
「ゐー…… 〈お、おう、リージュ。昨日ぶり…… 〉」
「あっらー、名前、ちゃあんと覚えててくれたのね! うふっ、昨日はごちそう、さ、ま…… 」
いや、おい、いつまで抱いてんだ、降ろしてくれ。
俺は足を、ジタバタさせる。
「うふふ、そうやってもがいてる姿、アタシ好きよ。活きがよくって! 」
「ゐーっ! 〈いや、離せや、オカマ〉」
「そうよ〜ん。オカマだもん! あら、肩のなーに、可愛いっ! 」
ちゅばっ、とリップ音がして俺の肩が、茨棒みたいな足で、ぎううっ、と絞られる。
「ゐーっ! 〈いでででで……おい、フジン! 力入れんな! 〉」
「き、きうー…… 」
ようやくオカマの手から解放された。
「あの黒いモヤモヤ、グレンちゃんなの? 」
「ゐーっ! 〈ああ、少しは足止めになるだろ〉」
「ふーん。ただのウワバミな農民じゃないのね…… 」
新幹線ナナフシは頭を振っているが、一向に『暗闇』が外れる気配がない。
「ゐー? 〈頭は状態異常耐性が低いのか……? 〉」
「へぇ、いいこと教えてもらっちゃった♪ 」
ずずん、と音がして、新幹線ナナフシが歩き出す。
フラフラする頭の方向に脚を出すから、酔っ払いみたいな歩き方だ。
くそ! フラフラしながらも俺の畑に向かってやがる。
こうなったら、もうひとつのスキルに賭けるしかないか。
「ゐーっ! 〈【闇芸】〉」
俺は影を伸ばして新幹線ナナフシと接続する。
「あら、影使い? ユニークかしら? 」
「ゐーっ! 〈くっ……☆1だよ! 〉」
そんなにマイナーか、『ダークピクシー』。
興味深そうに俺を眺めているリージュの方はなるべく無視して、俺は次のスキルを使う。
「ゐーっ! 〈頭を狙って……【闇妖精の踊り】〉」
接続した影を新幹線ナナフシの頭の辺りの影に動かして、俺は【闇妖精の踊り】を発動した。
踊る? 踊る? どんなの? 楽しいのがいいな!
電波の混線みたいに頭の中で声が響く。
ダークピクシーか?
新幹線ナナフシの頭に『マリオネット』の状態異常が出た。
よし、これでコイツの動きをコントロールできるはずだ!
そう思ったが、問題がひとつ。
どうやって?
いや、影を使えばいいのか。【闇芸】で影を動かそうとするが、どうもしっくりこない。
どうするか……俺は顎に手を当てて考える。
「また、動いたっ! 」「気をつけろ、速いぞ! 」「新しい攻撃か? 」
騒がしいので見てみると、新幹線ナナフシの左手前脚が、新幹線ナナフシの口元辺りに動いている。
俺の動きに連動している?
手を降ろす。新幹線ナナフシも手を降ろす。
「ヤバい! 」「避けろ! 」「速すぎる! 」
とと……途中で、降ろす手を止める。
「どうなってんだ」「知らねぇよ」「新しい動きだ、注意しろ! 」
ふむ……両手を挙げて、首を曲げて、尻を振って。
首はほとんど曲がらないな。尻も可動域は狭い。
慎重に足を動かせば、俺の右足に新幹線ナナフシの左中脚と左後脚が連動している。
「ねえ、もしかして、グレンちゃんと巨大『ガイガイネン』て、連動してる? 」
リージュは俺のことを見ていたようだ。
「ゐーっ! 〈ああ、たぶんな〉」
慎重に俺の畑とは別方向に向きを変えて……。
「どこまで連動してるの? 」
「ゐーっ! 〈分からん。俺も初めて使うスキルなんだ〉」
リージュはいきなり俺の腕を掴んで、アホみたいな怪力で締め上げてきた。
「ゐーっ!? 〈いっってえっ! 馬鹿、離せ! 〉」
「え? あら、ごめんなさい。
え、もしかして感覚設定、高め? 」
「ゐーっ! 〈俺はリアルでやってんだよ〉」
「は? 馬鹿なの? 」
いや、いきなり人の腕掴んで、折れそうになるほど力入れる馬鹿に言われたくねえよ!
「ゐーっ! 〈うっせぇ! 人のプレイスタイルにケチつけんな! なんだお前、サイコ野郎か!? 〉」
「ぷっ……やーね、ムキになんないでよ。
まさかリアルでやってる人がいるなんて普通、思わないでしょ。痛いし……。
だから、腕を折ってみて、あの『ガイガイネン』とダメージとかも繋がってるか見ようと思っただけでしょ、やーだーもう! 」
いや、笑って言う話じゃなくねぇ?
俺の二の腕を、ペシペシ叩くリージュを冷めた眼で見てしまう。
「ぎうー! 」
俺の肩にいたフジンがリージュに冷たい息を吐いた。
「あらん? 怒られちゃった。ごめんね〜。ダメージ入ったから、許して〜」
おう、「1」点な。俺は「10」点くらい入ったぞ、一瞬で。
しかも、ダメージは連動していなかった。
ねえ、つまんな〜い。もっと明るくやろうよ。こんな風にさ。
俺の手が勝手に上に挙がって、ゆらゆら揺れながら足を、ばたばたと動かした。
「まずい! 」「木が倒れるぞ! 」「距離とれ、距離! 」
新幹線ナナフシが俺と一緒に暴走を始める。
なんなんだよ、このスキルは!
不幸中の幸いというか、俺とリージュの動きが伝わって、なんとも判断しにくい動きを新幹線ナナフシがしていたため、戦闘員たちは始めからある程度の距離を取っていたおかげで、大事には至らなかった。
俺は闇妖精に踊らされながら、どうしたものかと考える。
どうやら【闇妖精の踊り】は戦闘用のスキルではない。
まあ、ダークピクシーだしな。
悪戯用なのだ、根本的に。
ダメージは連動しない。俺が俺を殴ることでダメージが入ったとしても、新幹線ナナフシにダメージが入りそうな時は勝手に動きが鈍る。
踊らないでいると、暴走して勝手に踊り出す。
面白くないと暴走の危険性がある。誰が? もちろん、ダークピクシーが面白がるのが条件だ。
踊っている間は、インベントリ操作などが思念と連動しない。
画面を出してのタップ操作などは、踊りの中ならば可能。
踊りながらの検証だ。
戦闘員たちはすっかりびびって、遠距離攻撃に切り替えている。
とりあえず、俺の畑からは地味に距離を離しているが、体力がヤバい。
踊っていると体力を消耗する。
体力ほどではないが、疲労も溜まる。
それから何故か時間が進む。
このイベントだけの特殊状況かもしれないが、そろそろ日が沈みそうだ。
普段は昼状況なら昼状況で数時間後にパッと夜に切り替わるみたいな感じなので、やはり特殊な状況だと言える。
影が全部、夜になったらどうなるんだ?
嫌な予感しかしねえ。
「グレン、こうやるピロ! 」
俺の前で『シノビピロウ』が腹を見せて寝っ転がり、手足をパタパタさせて踊る。
なるほど、その負け犬ダンスみたいなやつなら、高くて届かなかった頭にダメージが入れられ……すまん。
『シノビピロウ』に凄い目で睨まれた。
俺の考えはお見通しのようだ。
「ゐーっ! 〈長くは保たないぞ! 〉」
同じ動きばかりだとダークピクシーが飽きるからってのは、言わぬが花か。
「待って、今、伝達するから! 」
リージュがようやく幹部らしいことを言い出した。
「みんなー、聞きなさい! 」
銅鑼が響くような大声だ。
「今、この戦闘員とあの『ガイガイネン』は動きが繋がってるわ!
今からこの人が負け犬ダンスを踊るの。
寝っ転がって頭が下に来るから、全員、それに備えて! 」
今の俺は前衛芸術のようなゆっくりとしたダンスを踊っている。
リージュの説明により、今この場にいる全ての戦闘員、怪人の目が俺に注がれる。
……すげえな。俺の身体から噴き出る汗が尋常じゃねえ。
なんだこの羞恥プレイ。
俺はどうしようもないほどにキョドった。
「姉さん、知り合いとイチャついてるのかと思った」「あ、俺も! 」「私も! 」
くそう! シメシメ団、嫌いになりそうだ……。
「負け犬ダンスってなんだー? 」
おい、お前、『りばりば』の戦闘員じゃねえか! いいだろ、どんなダンスでも!
「見てれば、分かるわ! 」
俺の踊る後ろで、リージュと『シノビピロウ』が自信満々に腕組みしていた。
「さあ、行くわよ! レッツ、ダンシンッ! 」
二人は何故か悪ノリして、グ○コのポーズを取って、足踏みを始める。
「……ほら、踊って」
リージュは笑っているのに、まったく笑っていない囁き声で俺に踊りを促す。SHOWマンか!
やってそうだな……。
くそ! 俺はヤケになって寝転ぶと、腹を見せて、手足を、プルプル震わせる。
「さあ、みんなー、戦闘のお時間よーっ! 」
「よっしゃー! 」「負け犬ダンスサイコー! 」「行くぞー! 」
結果的に、俺たちは新幹線ナナフシを倒すことに成功した。
その間と、その後のことは、今は考えたくない……。




