表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/447

62


 また『大部屋』だ。


「あ、グレンさん。やられちゃいましたか。

 どうします? 再出撃するようなら、少し待ってもらう形になりますけど…… 」


 レオナが事務的に聞いてくる。


 ああ、死んだのか。

 身体を確認すれば元通りになっている。

 簡単には、慣れないな。


「ゐーっ! 〈ああ、再出撃はしたいところだが、煮込みたちはどうなってる? 〉」


「えーと、ちょっと待って下さいね…… 」


 レオナは煮込みからの報告を調べているようだった。


「えーと、あ、良かった。

 ……今、こちらで再編した部隊が2部隊合流したところみたいです。

 『マーズエンジェル』とはサクヤさんが交渉中みたいですね。

 グレンさんが相手ヒーローを戦闘不能に留めて頂いたおかげで、有利に交渉が進みそうですよ。

 煮込みさんたちからも、グレンさんにありがとうと伝えて欲しいって来てます」


 そうか、サクヤが言っていたのはそういうことか。

 サクヤは元『ブラクロ』幹部だし、そういった交渉なんかは得意なのかもな。


「ゐーっ! 〈そりゃ身体を張ったかいがあったってことかね…… 〉」


「ええ、シティエリアの各区画でも順調に…… 」


「レオナさん! 大変です! 『郊外区』に巨大『ガイガイネン』が出たとかで、担当だった『シメシメ団』から救難要請が出てます! 」


 おそらく幹部会の人員らしき戦闘員が悲鳴のように報告していた。


「巨大『ガイガイネン』? 情報は? 」


「新幹線の車両を繋げたようなナナフシに似た姿をしているそうです! 」


「ナナフシ…… 」


 やっぱり虫なのな。


「巨大『ガイガイネン』は移動しているらしく、現在は『住宅街』方面へ進行中とのことです! 」


「く……ヒーローレギオンの担当地区方向じゃない…… 」


 今、ヒーローとことを構えて来た身としては耳に痛い話だ。


「たぶん、ボスよね……『住宅街』まで行かれたら、経験値と報酬が……でも、担当地区の問題もあるし…… 」


 レオナは、ブツブツと独り言を呟いて、頭を悩ませているようだった。

 俺は何かを言える立場ではないので黙って推移を見守るしかない。


「……今後の戦争のことを考えるなら、これを逃がすのは……くぅ〜……よし。

 今出てるチームに伝達! 

 状況報告と、有志を募って! 怪人内包チーム優先で移動してもらえるように促して! 」


 そこまで言ってから、レオナは何故か俺を見る。


「グレンさん、今日の分の野菜って収穫しました? 」


 俺は少々、面食らってしまったが、インベントリを確認する。


「ゐーっ! 〈ああ、収穫してあるぞ〉」


「売って! 」


「ゐーっ! 〈ああ、昨日の残り含め、売るのは構わないが…… 〉」


 俺はレオナと売買取引をして、インベントリ内の野菜を全部で一万マジカで売った。

 レオナは買い取った野菜の一覧とにらめっこする。


「カレー……いや、おでん……ううん……豚汁! 」


 いや、緊急時だよな? なんでメニュー考えてるんだ? 


「ああっ……精霊樹! グレンさん、精霊樹の実は? 」


「ゐーっ! 〈あれだけ何故か自動収穫できねえんだよな。現地に行けばあるんだが…… 〉」


 俺は可視化した俺の農園モニターを呼び出し確認する。

 あ、もしかして俺の農園が潰される可能性とかあるのか? 

 急に心配になってきた。

 今のところは無事だ。それに精霊樹はひと回り大きく育って、昨日よりも沢山の実がついている。


「まだあるっ! 」


 お、おう……俺のモニターを覗き込んだレオナの表情に鬼気迫るものがある。


「昨日の他レギオンとの話し合いで、天然食材の持つ有用性がかなり高いという結論に達したの。

 一度、リアルで食べたら、天然食材はものすごい価値あるものになるわ。

 それから、本当のリアルでも食べられない精霊樹の実のような食材ね。

 このゲーム特有の天然食材なんて、他のどこでも食べられない。

 これの価値って下手したらとんでもないものになるわよ! 」


「ゐ、ゐーっ? 〈お、おう……それじゃあもしかしてこの木の実なんかも? 〉」


「なに、これ? 」


「ゐーっ! 〈『破滅の森の砦』に出る犬くらいの大きさの栗鼠が落とすドロップだ。こいつは昨日、植えきれなかった余りなんだが……農民スキルが上がったら『魔力胡桃』って名前になってたんだ〉」


「食べられるの? 素材としては使うけど…… 」


「ゐーっ! 〈ああ、農民スキルで食えるのは分かってる。まだ、食ったことはないけどな〉」


 ちなみに中の胡桃は赤い。これはまだ育ってなくて、収穫まで行ってない品でもある。


「くっ……今は時間がない…… 」


 俺は『魔力胡桃』をテーブルに置いて、『ショックバトン』で軽く叩く。

 中の胡桃は真っ赤だ。

 ひと欠片を自分に、もうひと欠片をレオナの口に放り込んでやる。


 ふむ……いや、イケるな! 


「辛い……香ばしくて、でも甘味もあって…… 」


「ゐーっ! 〈結構、癖になる味だな〉」


 暫し、レオナは味を堪能していたが、急に我に返る。


「はっ! 今はそれどころじゃ……あ、グレンさん、ありがとうございます。

 ちょっと待ってて下さいね…… 」


 レオナは途端に、手を動かした後、何かを読むように目を動かしている。

 チャット機能を使って、思念入力で誰かと連絡しているのだろう。

 少し待つと、レオナがまたこちらを向いた。


「グレンさん、もうひとつお願いがあります! 」


「ゐーっ…… 〈もしかして……〉」


「はい。今、煮込みさんたちに急いで戻ってもらえるように連絡しました。

 それでグレンさん。煮込みさんたちと一緒に、精霊樹の実を収穫してきてくれませんか? 」


 やっぱりか……って、今なのか!? 


 レオナはかなり真剣な表情だ。


「ゐーっ! 〈ああ、分かった。俺も畑は心配だしな〉」


「ありがとうございます! 」


 レオナが頭を下げる。いや、普段は俺の方が世話になっているしな。

 こういう形で俺のスキルが役に立つというのも嬉しい。


「ただいまミザー! レオナっちが超、緊急って言うから集団自決してきたミザ〜! もう、すっごいシュールだったミザ…… 」


「ほっ……コアが残って良かったピロ」


「遊興区の避難場所、防衛は纏めて来ましたよー」


 集団……そ、そうか。確かにそれが一番早いと言えば早い。


「煮込みさん、ムックさん、サクヤさん、それにcoinさんにナナミさんも、要請に応えていただき、申し訳ありません。それと、ありがとうございます…… 」


「いえ、我々は隊長の指示でいつでも覚悟はできていますから…… 」


「ええ、問題ないですよ」


 coinとナナミだ。

 そうか、ナナミは既にムックたちと合流してたのか。


「何をするピロ? 」


 ムックが聞くと、レオナも間髪入れずに答える。


「ムックさん、まだお友達は集められますか? 」


 ムックはそう言われて、個人モニターを確認する。


「えーと……今の時間ならあと三人くらいピロ」


 例のPK殲滅部隊ってやつか。


「では、coinさん、ナナミさんは他の三人と合流して、『無常なる高野の山脈』で猪豚狩りをお願いできませんか? 三十分で狩れるだけでいいので」


「はあ……やれと言われればやりますが…… 」


「頑張って欲しいピロ」


 ムックが言うと、coinとナナミは途端にやる気になる。


「了解です! 狩り尽くしてきます! 」


 なんだろうな、このカリスマ。

 ちょっとムックが教祖に見える。


「ムックさん、煮込みさん、サクヤさんはグレンさんの護衛をして、『郊外区』でグレンさんの収穫を手伝って下さい」


「ほー、収穫ですかー。

 それでこの三人と……なるほどー」


「かなり困難な任務ミザね? 」


「はい、そうなります」


 レオナは申し訳なさそうに言う。


「二人とも分かってるミザ? 」


 ムックとサクヤが真剣な態度で頷く。俺は分かってない。

 煮込みが続ける。


「グレンの護衛でグレンの畑に行くってことは、情報にもある通り、巨大『ガイガイネン』がいる場所に行くってことミザ……まあ、それは問題ないけど、問題はグレンミザ」


「ゐーっ! 〈いや、おれだってもう61レベルだぞ〉」


 確かに立ち回りは拙いかもしれないが、それなりのレベルにはなっているし、俺のスキル構成は、全部運任せとは言え、それなりのものだと思う。


「グレンはほっとくと、勝手に死ぬミザ。

 腕が破裂したり、喉からナイフが生えたり、ヒーローと相打ちになったりするミザ」


「ゐっ…… 〈う…… 〉」


 やめろ、そういう抉り方はズルいだろう。


「準備はしっかりするミザ! 五分後にまたここで! 解散ミザ! 」


「「イーッ!」」


 くっそう。楽しそうにムックとサクヤが右手を掲げた。

 レオナが焦ってる場面で俺イジりすんなよ。

 だが、レオナはそれを見て、くすりと笑った。


「じゃあ、お願いします! 私はこれから料理で人員を確保します! 今回の緊急イベントに参加していない方たちをこれで釣るつもりなので! 」


 なるほど、サクヤの人員確保と似たようなもんか。

 『りばりば』は戦闘員に自由を与えている。

 緊急イベントだから全員参加とはならないのだ。

 そんなイベントなどに消極的な奴らを料理で釣って、参加させようという訳か。


 それで『郊外区』と『遊興区』の人員を確保するのか。

 つまり、俺の『精霊樹の実』はご褒美ってことか。

 こりゃ、ますます手を抜けないな。


「名古屋さん、糸さん、基地内の料理ドールNPCを集めてもらえます? それとなるべく大きな鍋も。豚汁大作戦で人員を確保したいので! 」


 俺も準備しとかないとな。



『りばりば』戦闘員まとめ。


 ちなみに戦闘員ナンバーはロッカー番号です。

 早いもの順ですが、欠番〈引退、移籍、野良化など〉が出ると後から来た人員が早い番号のロッカーを使うということもあります。


戦闘員No.999 グレン

・主人公のおっさん。若い頃はグレてたらしい。ドM疑惑に本人が混乱し始めた。

 ユニーク:【フェンリル】【グレイブニル】


戦闘員No.253 煮込み

・語尾がシザ→ミザにパワーアップ。トランジスタグラマーだが童顔なので、中学生くらいに見えるが二十歳は越えている。

 ユニーク:【ペルセウス】『ミザリーコア』


戦闘員No.398 サクヤ

・元『ブラッククロニクル』幹部。普段はピンクの全身タイツに黒地に金の刺繍が入った陣羽織、顔出し。可愛い系美人。ボディラインは扇情的。他人にレッテル貼りをしてしまうのが玉に瑕。

 ユニーク:【スライムキング】


戦闘員No.069 ムック

・雰囲気イケメンと思いきやマジイケメンの二十代。性格はちょっと陰キャ。昔、PK食らって復讐に燃えた結果、PK殲滅部隊というあだ名のお友達が増えました。周りからは隊長と呼ばれています。胡瓜が好き。

 ユニーク:【七宝行者】『コア・ピロウ』


戦闘員No.510 coin

・スポーツマンキャラ。PK食らってからムックに助けられ、ムックに心酔している。ちょっと狂信者。PK殲滅部隊の一人。

 ユニーク:なし


戦闘員No.773 ナナミ

・『シティエリア』内のグリムランドという遊園地マニア。普段は顔出し。女性は顔出しが多い。PKされた経験あり。ムックを尊敬している。流されやすい性格なので、あまり狂信者たちと付き合ってると……。PK殲滅部隊の一人。

 ユニーク:なし


戦闘員No.007 レオナ

・できる才女。眼鏡に拘る二十代半ば。クールな印象だが、たまに子供っぽくなる。しっかり美人。

黒タイツの上に白衣を着ている。顔出し。装備部の研究員で人事部長で幹部。大首領たんとも直接、謁見できる。常識人。グレンがちょっと気になってる?

 ユニーク:??


戦闘員No.758 名古屋

・幹部会の一人。食料部門のまとめ。活躍の機会……あるかなぁ?

 ユニーク:なし


戦闘員No.110 糸

幹部会の一人。オペレーター。普段はクエスト管理とかしている。

古参だけど、やっぱり活躍の機会、あるかなぁ?

 ユニーク:なし


戦闘員No.634 ムサシ

・『森の主、狂えるエント戦』で2位取った人。ライフル使い。敵HPが見えるスキル持ち。新人研修を任される程度の腕前。真面目で辛抱強い。

 ユニーク:なし


戦闘員No.33 SUNさん

・ドリルクスシーだった人。結構、ノリが良いタイプ。さん付けで「SUNさんさん!」と呼ぶと「さわやか三組〜♪」と返すものの誰からも理解されない五十代。古参。

 ユニーク:無くした……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 細かいけど あとがきのムックはNo.069なのにSUNさんはNo.33って033じゃない理由はあるんです?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ